受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

Booksコーナー

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2025年6月のBooks

 Booksコーナーでは、小学校低学年から高学年までを対象とした読み物や、保護者の方向けの図書を、新刊中心に紹介しています。学習の合間などに、ぜひ読んでみてください。

『キミの一歩 イタリア 夢につながるうねうね道

  • 佐藤まどか=文

  • 酒井以=絵

  • あかね書房=刊

  • 定価=1,980円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

学校生活も考え方も大違い 海外での生活体験を通して 生き生きと伝える多様な世界

注目の一冊

 公立校が基本のイタリアでは、クラスにいろいろな人がいます。著者の娘、杏奈が通った中学校も、イタリア人の一般家庭の子ども以外に、EU内外から来た移民・難民もいれば、元貴族の家の子もいてさまざまです。ある日、クラスのニコロの誕生日パーティーに呼ばれた杏奈親子は家を訪れてびっくり。築600年ほどの立派な建物は、高い天井に絵画が描かれ、まるで美術館のよう。食事の後、ニコロのママは言いました。「次はあなたの家に招待してくれないかしら。日本人のお宅なんて期待しちゃう」と。
 一大決心をしてイタリア留学を果たし、苦労して現地で生活基盤を築いた著者が、娘の成長過程を追いながら海外での生活の実態を教えてくれます。山のような宿題が出る小学校、卒業試験があり留年も珍しくない中学校、障害を持つ子とそうでない子が一緒に学ぶインクルーシブ教育、離婚や養子縁組が珍しくないイタリアの家族観。日本と違うことだらけで世界の広さに目を見開かされます。アジア系の人への差別意識が根強くある一方、嫌な思いをした著者を助けてくれる陽気で優しい人たちがたくさんいるのも事実です。海外での生活に疲れて日本に帰りたくなったことは何度もあるが、それでも残ったのは夢があったからだと、著者は言います。
 海外在住経験のある作家やクリエイターなどが、自身の体験を通して世界の多様性と夢を持つ大切さを教えてくれるエッセイのシリーズです。

『たんぽぽはひとがすき』

  • 埴沙萠=写真

  • 嶋田泰子=文

  • ポプラ社=刊

  • 定価=2,200円(税込)

  • 対象:幼児向け・小学校低学年向け

たんぽぽの強さの秘密は 人のそばで咲くこと!?

 小石が敷かれた道の真ん中、コンクリートの隙間、車道や歩道の狭い隙間。こんなところに咲く花といえば、そう、たんぽぽです。ほかの草が育ちにくいところを選んで咲くのは、たんぽぽが生き抜く作戦なのです。
 たんぽぽを長年撮り続けた植物生態写真家が、たんぽぽが力強く美しく生きる姿を伝えます。踏んづけられても、掘り起こされても負けないたんぽぽの強さの秘密を教えてくれるのが、土の中で伸びる根のたくましさをとらえた写真です。身近な自然に興味を持ち始めた子どもたちにぴったりの写真絵本です。

『ゆうやけ トンボジェット』

  • 吉野万理子=作

  • 村上幸織=絵

  • くもん出版=刊

  • 定価=1,540円(税込)

  • 対象:小学校低学年向け

お客を背中に乗せて飛ぶ ぼくはトンボのジェット機

 ジェットは、飛行機が大好きなトンボです。飛行機が好きすぎて、背中にお客さんを乗せて運ぶ「トンボジェット」を始めました。空を飛べない虫は多いので、空の旅を楽しみたいお客がたくさん来るはずだ。そう思って始めたものの、トンボに食べられるのが心配で、虫たちは寄り付きません。ところが、思わぬお客から声が掛かりました。
 夏に山で過ごし、秋に赤いからだになって田んぼに戻ってくるまで、アキアカネのひと夏の冒険と友情の物語です。すべての見開きページにある美しいイラストを見るだけでも物語を楽しめます。

『暴走するAI』

  • 赤羽じゅんこ=作

  • Lico=絵

  • 国土社=刊

  • 定価=1,210円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

AIと暮らす毎日は 便利で楽しいだけ?

 マイカのおばあちゃんが飼い始めたロボット犬、ポテト。学習するAIのはずなのにうるさくほえてきます。しかも大事な手作りの飾りをかんでぼろぼろにしてしまい、マイカは許す気になれません。でもポテトがマイカにほえるのも、飾りをぼろぼろにしたのにも訳がありました。
 スマホ・ペット・ドローンなど、AIが日常生活にとけ込んでいく近未来を描いた、六つの短編を収録しています。あっと驚かされる物語から心温まる物語まで、感情がありそうなAIの、ちょっと不思議な世界をのぞいてみませんか。

『街にねる』

  • 川上佐都=著

  • ポプラ社=刊

  • 定価=792円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

学校にさえ行っていれば 「普通」なの?

 5年生の晶には高校生の兄、達がいます。達は絵が上手で、晶が部屋に行くといろいろなことを教えてくれます。ある日、学校帰りに友だちが家に来たことで、兄の不登校がみんなに知られます。友だちは晶に言いました。「大変だね。大丈夫?」と。
 尊敬する大好きな兄。でも他人から見れば普通とは違う変わった人。そのはざまで揺れる主人公の、兄を慕う気持ちの強さが胸を打ちます。達の気持ちの描写はありませんが、随所に登場する絵が彼の心の風景を描き出します。中学入試問題に何度か取り上げられた、注目作品の文庫版です。

『まさきのとら

  • 濱野京子=作

  • こうの史代=絵

  • 童心社=刊

  • 定価=1,540円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

ずっと覚えていたい 津波で逝ったあの子のことを

 母の地元、岩手県に移り住んだ小学生の真莉愛。5年前に少しだけこの街に住んだことがありますが、ほとんど覚えていません。でもたまたま耳にした地元の子「及川まさき」の名前をきっかけに、おぼろげに記憶がよみがえりました。保育園でからかわれた真莉愛をかばってくれたのが、まさきだったのです。でもまさきは、東日本大震災の津波で亡くなっていました。
 まさきが好きだった伝統芸能、虎舞を手掛かりに、まさきのことを調べるうちに、真莉愛は被災地の人々の深い悲しみに触れていきます。震災で失われた命を思う物語です。

『武士の家計簿 「加賀藩御算用者」の幕末維新

  • 磯田道史=著

  • 新潮社=刊

  • 定価=880円(税込)

江戸時代の人も今と同じ。 家計をやりくりして リアルな生活を営んでいた


東戸塚校校舎責任者

 わたしは学生時代、歴史が得意ではありませんでした。数百年前、数千年前のことなんて自分とかけ離れ過ぎてイメージが湧かず、頭に入ってこなかったのです。しかし、今は違います。近現代史を中心に歴史が好きになりました。そのきっかけをくれたのがこの本です。
 書名の「家計簿」とは、加賀藩(現在の石川県・富山県)の「御算用者」、つまり経理担当者だった猪山家が残した帳簿のこと。これには、1842年から始まる37年間の猪山家の会計が記録されています。本書では、このお金の出し入れの情報をもとに、藩に仕える一般の武士のリアルな生活が描かれているため、親近感を持って読み進めることができます。
 大政奉還のあった年、徳川慶喜支持派だった加賀藩は薩長勢を威圧しようと、京都に多くの兵を送りました。そのときに出されたのが王政復古の大号令です。でも御算用者の猪山家を悩ませたのは、この政治的な激震ではなく、京都に来た藩兵たちの大量の兵糧炊き出しでした。それこそ、この時代を生きていた人の現実的な悩みです。幕府側だった猪山家が最終的に新政府の海軍の会計担当になったのも、生きるための現実といえます。
 算数科の講師としては、この時代にも算数をがんばっていた人がいたのはうれしいことです。猪山家の人は、11歳ごろに見習いの会計係から出発して徐々に出世していきます。そのために小さいころからたくさん勉強をします。勉強をしないとお金が稼げないのです。江戸期の和算の話も出てくるので、算数が好きな人が読んでもおもしろいと思います。具体的な数値が「匁」などで出てくるので、昔の単位の勉強にもなります。好きな取っ掛かりを見つけて楽しく読んで興味を広げてください。

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