受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

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2025年1月のBooks

 2025年の干支は巳で蛇を意味します。蛇が好きな人はあまりいないかもしれませんが、物語の世界は別です。今月紹介する『へびのニョロリンさん』は、おばあさんの家にひょっこりやってきた蛇が、おばあさんと一緒に仲良く暮らすお話です。ニョロリンさんは礼儀正しく、マイペースでのんびりやさん。こんな蛇とだったら一緒に暮らしてもいいかな、と思える心優しい蛇です。巳年の読書は、こんなほっこりする絵本でスタートしてみませんか。

『ロボットのたまごをひろったら』

  • 奈雅月ありす=作

  • 酒井以=絵

  • ポプラ社=刊

  • 定価=1,760円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

これはメカだ、ロボットだ でもかけがえのない友だちだ いなくなるなんて嫌だ!

注目の一冊

 6年生の財前巧は、頭脳明晰で論理的思考を何よりも大事にする性格が災いして、話の合う友だちがいません。クラスでも知識をひけらかす嫌なやつだと思われています。そんな巧のところにある日、クラスメートが相談を持ちかけてきました。頼んできたのは人なつこいポヨと、人と話すのが苦手で学校では一切ことばを発しないテツです。彼らは正体のわからない箱を拾って困っているとのこと。気乗りしないまま彼らの秘密基地に行った巧は、その箱を開けようとしてびっくり。金属的な音が響き、箱から手足のようなものが出てきたのです。その箱は人型ロボットでした。
 ロボットは赤ちゃんのようにすっぽり腕に収まる大きさです。自分の声にだけ反応するためか愛着が湧き、赤ちゃんことばで話し掛けるポヨ。そんな行動がまったく理解できず、分解して中を見てみたいと思う巧。とりあえず3人はロボットを「ムー」と名付け、人目を避けて保管することにします。でも隠しておくのは想像以上に大変なことでした。
 人間の赤ちゃんみたいに抱っこすると泣きやみ、自分のことを「ムーちゃん」といって、使えることばを増やしていくムーの姿はかわいらしく、3人がその成長を見守る様子はまるで育児のようで楽しい気持ちになります。巧はポヨとテツの2人とかかわりながら、人の気持ちを思いやれるようになり、テツは巧とかかわりながら話したい気持ちを表に出せるようになっていきます。終盤ではスパイ小説のような展開になりますが、それでもロボットを守ろうとするなかで3人の友情が深まっていきます。

『ねむれないよるのこと』

  • なかざわくみこ=作・絵

  • 偕成社=刊

  • 定価=1,650円(税込)

  • 対象:幼児向け・小学校低学年向け

どうしても眠れなきゃ ちょっと行ってみない? 夜だけの光の街へ

 布団に入ったものの、なかなか眠れない。「眠らなきゃ」と思えば思うほど眠れない。そんなとき、あなたならどうしますか。主人公の男の子は、おもちゃの電車で遊び始めました。するといつの間にか電車に誘われ、気がつけば電車の中。電車は月夜の田んぼの中を走り、にぎやかな「だいどころまち」に到着します。通りには見覚えのありそうな形の建物が並んでいました。
 暗い夜の街も、明かりがともればにぎやかで楽しそう。不思議な生き物や建物などが細かく描かれ、一つひとつ見ていくだけでも想像がふくらむ楽しい絵本です。「眠れない夜にこんな世界に行けたら」という作者の思いから生まれた、何度ながめてもあきない絵本です。

『へびのニョロリンさん』

  • 富安陽子=文

  • 長谷川義史=絵

  • 童心社=刊

  • 定価=1,650円(税込)

  • 対象:幼児向け・小学校低学年向け

「こニョロちは」 家にやってきたのは 礼儀正しい蛇だった!?

 春が来て冬眠から目覚めた蛇のニョロリンさん。大きくなったからだに合う、新しい穴ぐらを探し始めます。でも、いい穴ぐらは見つかりません。山のふもとに小さな家があったので、そこの天井裏をすみかにすることにしました。家には、トメさんというおばあさんが住んでいました。礼儀正しいニョロリンさんはトメさんにごあいさつ。2人での、のんびりした毎日が始まりました。ところがある夜、思わぬお客がやってきました。
 「こニョロちは」「おはニョロございまーす」。楽しげなニョロ語を話すニョロリンさんと、トメさんの暮らしは、見ていてほのぼのした気持ちになります。大迫力の絵はユーモアたっぷりで、思わず笑みがこぼれます。

『犬にかまれたチイちゃん、動物のおいしゃさんになる』

  • 今西乃子=文

  • あたちたち=絵

  • 岩崎書店=刊

  • 定価=1,430円(税込)

  • 対象:小学校低学年向け・小学校中学年向け

ごめんね、マロン 気持ちをわかって あげられなくて

 チイちゃんは動物が大好き。ある日、お母さんのお友だちの家に行ったチイちゃんは、そこで飼われている子犬のマロンをなでようとして、手をかまれてしまいます。チイちゃんの目から涙がこぼれました。痛いからではありません。「子犬が嫌がることをしてしまった」と悲しくなったからです。犬の気持ちがわかればこんなことはなかった。そう思うチイちゃんでした。
 飼い主でも犬にかまれることはあります。大けがをする場合もあります。そんなとき、飼い主が頼れるのが、動物の治療をする獣医さんとは別の、犬の行動を治療する獣医さんです。そんな行動学専門の獣医として活躍する人の、幼少期からの体験に基づく物語です。

『バラクラバ・ボーイ』

  • ジェニー・ロブソン=作

  • もりうちすみこ=訳

  • 黒須高嶺=絵

  • 文研出版=刊

  • 定価=1,540円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け

いつも帽子をかぶって 顔を隠している転入生 なぜ? どうして?

 バラクラバとは、顔まわり全体をおおう目出し帽のこと。ある日、ドゥーガルのクラスにバラクラバをかぶった転入生トミーがやってきます。トミーはお弁当を食べるときもサッカーをするときも、バラクラバを外しません。「なんで?」と 聞いても答えてくれず、ドゥーガルたちは気になって仕方がありません。
 謎を解くために、ドゥーガルとその親友や、クラスメートたちが、いじわるにならないような作戦をあれこれ考えます。そのなかで次第にトミーの魅力に気づいていく彼ら。顔を隠すことにはどんな意味があるのでしょう。顔を隠すとどうなるのでしょう。南アフリカ共和国の小学校を舞台にした、心温まる友情物語です。

『王様のキャリー』

  • まひる=作

  • 講談社=刊

  • 定価=1,595円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

お前が自慢できる 恥ずかしくない プレイヤーになってやる!

 勝生は、大流行のeスポーツプレイヤー「lion」のファンです。「lion」の正体は不明ですが、自分のプレー画面を動画配信していて、乱暴な口調と卓越した実力で「王様」と呼ばれています。ある日、勝生は病院で、近くにいた車いすの少年が「lion」と同じ声を発するのを耳にします。勝生は思わず聞きました。「あの…王様で…すか?」
 いつも遠慮がちで言いたいことを言えない勝生と、見下した態度で言いたい放題の「lion」ことリオ。ゲームの実力も大違いなら性格も正反対です。加えて2人には、車いすを使う人とそうでない人という歴然たる違いがあります。壁を乗り越えて距離を縮めていく2人の姿を描く、感動の物語です。

『コロボックル物語① だれも知らない小さな国』

  • 佐藤さとる=作

  • 村上勉=絵

  • 講談社=刊

  • 定価=748円(税込)

知らず知らず引き込まれる 小人と人間が交流する世界 読み継がれるファンタジーの名作


日吉校校舎責任者

 おそらく保護者の皆さんが小学生だったころから、学校の図書館に置いてあったかもしれないこの物語。そのころから今まで、色あせることなく読んだ人をファンにしてきた作品です。
 コロボックルという体長3cmほどの小人と人間とのファンタジー物語です。とてもていねいに、そして緻密に情景が描かれています。読み進めていくうちに、本の世界に吸い込まれ、本から目を離した先に、コロボックルが「やあ!」と言って話しかけてくるんじゃないかという錯覚さえ起こしてしまいそうです。
 実際にわが家の子どもたちに毎晩寝る前、この物語を少しずつ読み聞かせてみました。最初の数日間は、文体や情景描写になじみがないため、単語や熟語の意味を解説しながらでないと話が理解できず、つまらない顔をしながら眠りについていました。そんなある日、わたしたちの目の前を一瞬ものすごい勢いで通り過ぎたものがありました。「あ、今のコロボックルかも?」。子どもの口からこのことばが出たとき、物語の世界に引き込まれ始めたのだなと感じました。
 今はSNSなどで、短い文でのやり取りが増え、ていねいに自分の感情を文字で表す機会が減っていると感じます。すぐに気持ちが言える一方で、それだけで人の複雑な気持ちを相手に伝えられるのかと不安になることがあります。
 物語のなかでは、コロボックルたちの考えや人とのやり取りがとても長い文章で書かれています。ゆっくりと読み進めれば、こういうときはこんな言い回しをするとわかりやすいなと気づいたり、相手の気持ちはこんな感じかなと疑似体験をしたりできます。また、頭の中で映像化し、いろいろな出来事を自分の体験と照らし合わせていくと、実体験していないことも本の力を借りて、一人ひとりの持つ想像力や語彙力を広げるきっかけになるのではないでしょうか。今読み直してもすばらしいと思えるお薦めの作品です。

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