受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

Booksコーナー

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2024年1月のBooks

 「文化祭でクラブの発表を見て楽しそうだったから」。そうした理由から志望校を選ぶ人は少なくありません。今月紹介する『カーテンコールはきみと』は、廃部寸前の中学の演劇部を復活させる中1生の物語です。目標に向かって仲間とともにがんばる楽しさが伝わり、クラブに入るのが楽しみになるのではないでしょうか。受験勉強のモチベーションが上がるかもしれないお薦めの一冊です。

『ギソク陸上部』

  • 山下白=原案

  • 舟崎泉美=作

  • Gakken=刊

  • 定価=1,320円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

転んでも立ち上がって ゴールして。「これ以上に カッコいいことなんてある?」

注目の一冊

 走ることが大好きな颯斗は、中学に入ったら陸上部に入り、将来はオリンピックに出たいという夢を持っていました。ところが陸上部に入って間もなく、右足にユーイング肉腫という病気があることがわかり、膝から下を切断することになります。長い入院生活の後、義足をつけて学校に戻って来た颯斗を、クラスメートたちは何かにつけて手助けしようとします。颯斗にはそれが親切の押し売りにしか思えず、“壊れやすい割れもの”として扱われることに耐えられなくなります。大好きだった陸上部もやめてしまうのでした。
 陸上部の親友や仲間たち、義足の弟を持つクラスの女の子、義肢装具士やパラアスリートのコーチ、そして両親。そんな人々とのかかわりのなかで、絶望していた颯斗が中学生としての日常を取り戻し、再びアスリートとして目標を持って走り始めるまでを描きます。
 足の切断は、実は自分で選択したことでした。再発の可能性はあるものの、切断せず、足をかばいながら生きることもできたのです。でもそれでは走ることはできません。スポーツをするなら、むしろ切断したほうがいいと言われたのに、陸上部をやめてしまったことで「切断しなければよかったのではないか」と颯斗は悩みます。
 陸上競技用の義足をつけて出た初めての大会で、颯斗は転倒してしまいますが、コーチでパラアスリートの玲香さんは言います。「転んでも立ち上がってゴールして、これ以上にカッコいいことなんてある?」。困難に直面しても人はまた立ち上がります。立ち上がる美しさがあります。前を向く勇気をもらえる物語です。

『ねこぜやまどうぶつえん

  • 角野栄子=作

  • よしむらめぐ=絵

  • 金の星社=刊

  • 定価=1,430円(税込)

  • 対象:小学校低学年向け

個性派ぞろいの 楽しい動物園は 不思議な出来事ばかり

 リリーさんは、ねこぜ山のふもとにある動物園の園長さん。リリーさんのところには、動物たちが困りごとの相談にやってきます。ヒツジのヒール君の悩みは、「独りぼっちなのでお友だちがほしい」というものでした。リリーさんはライオンのオンライン君に相談しました。オンライン君はたてがみに隠れた不思議な力で、遠くの人と話ができるのです。さて、どうやってヒール君の友だちを探すのでしょうか。
 夢あふれる物語に現代の話題も盛り込んだ、作者ならではの不思議な世界が展開します。動物ごとにお話が分かれているので読みやすく、絵本を卒業した子どもたちが文字中心の本に挑戦するのにぴったりです。

『夜光貝のひかり』

  • 遠藤由実子=作

  • 文研出版=刊

  • 定価=1,540円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

南の島の潮風には 悲しい過去と 温かい思い出のにおいがする

 サッカー選手をめざして、ジュニアユースの試験を受けた小6の彼方。ところが試験は不合格。落ち込む姿を見かねた親の勧めで、夏休みの間、奄美大島に住むいとこの家で過ごすことになります。島に着いた彼方は、浜辺でセーラー服姿の少女に出会います。彼女は言いました。「わたしはずっと前に死んじゃった幽霊なの」。からかわれていると思ったものの、いとこには少女の姿は見えないようでした。
 少女の過去をたどる不思議な体験を通じて、未来に向けて力強く歩き始める彼方の成長を描きます。職人が技術を受け継いできた大島紬、胸をふるわせる島唄の調べ、妖怪にまつわる不思議な話など、奄美大島の宝物を集めたような物語です。

『カーテンコールはきみと 演劇はじめました!

  • 神戸遥真=作

  • 井田千秋=絵

  • 偕成社=刊

  • 定価=990円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

演劇経験ゼロなのに主役!? でもやるしかない 自分を変えるのだ!

 中学に入ったら演劇部に入ると決めていた律希。ところが入学してみると、演劇部は部員不足で廃部寸前の状態でした。部室の前で落ち込む律希の前に現れたのは、同じく入部希望のカホ。2人は演劇部を復活させるため、新入生歓迎公演をして部員を集めることにします。でも、演劇経験ゼロの律希には自信がありませんでした。
 何事にも自信を持てず、すぐあきらめてしまう。そんな自分を変えるために、演劇を始めた律希。自分とは正反対の自信過剰の人物の役をいかに演じるか、悩みながらもがんばるところが一つの見どころです。仲間と共に困難を乗り越えてがんばる。そんな中学の部活の楽しさが詰まっています。

『都市のくらしと野生動物の未来』

  • 高槻成紀=著

  • 岩波書店=刊

  • 定価=1,034円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

動物とのかかわりから考える 「ヒトとしてこれから どう生きるべきか?」

 この数十年の間に日本の社会は大きく変化しました。農業人口は大幅に減少し、大半の人が食料生産にかかわらず、消費するだけなのが今の日本です。ヒトも「食べて出す」という点ではほかの動物と変わらないのに、どこかから来たものを食べ、どこに出していくかもわからない存在になってしまいました。「それは本来のヒトとしての生き方とは違うことを意識する必要がある」と著者は言います。
 人間がどんどん自然と離れていくなか、どうしたらより豊かな未来が開けるのか。中学入試でも頻出の「人間と自然とのかかわり方」について、生態学者の著者が、東京の野生動物やトイレ、ごみの話などを取り上げ、わかりやすく説明します。

『精力善用・自他共栄 ─灘校の原点・嘉納治五郎の理念─

  • 和田孫博=著

  • 神戸新聞総合出版センター=刊

  • 定価=1,760円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け・保護者向け

灘校で過ごして50有余年 みずからの目で見てきた 名門校の歩みを語る

 「精力善用」は自分の力を最大限に発揮すること。「自他共栄」は助け合って自他共に幸せになることです。「柔道の父」として有名な嘉納治五郎は、このことばを柔道の極意として、そして生き方の指針として発表しました。その嘉納治五郎が理想の学校として創ったのが灘校で、「精力善用・自他共栄」は建学の精神として脈々と受け継がれています。
 灘中学校・灘高等学校の前校長で、同校の卒業生でもある著者が、嘉納治五郎の生涯と灘校の歴史や教育の特徴について語ります。生徒として6年、英語教員として30年、校長として15年。長く灘校で過ごした著者の経験談から、誇り高き名門校の素顔が伝わってきます。

『目でみる算数の図鑑』

  • 清水美憲=監修

  • こどもくらぶ=編

  • 東京書籍=刊

  • 定価=3,080円(税込)

身の回りには美しい数や おもしろい図形がいっぱい 自分でも見つけてみよう!


新浦安校 校舎責任者

 「算数って何のためにやるんだろう」。そう思っている人はいませんか。実際、算数は勉強する目的がわかりづらいところもあるかもしれません。理科や社会はよく身近な生活につながっているといいます。算数も同じです。身の回りには、算数に関係するものがたくさんあります。それを図鑑という形で見せてくれるのがこの本です。
 二つの数量を比べたときの割合が1 対 約1.618のとき、人は最も美しく感じるといわれます。これを「黄金比」といい、昔の建築物や絵画、彫刻などにはこの比を使ったものが数多く残されています。黄金比を使って美しく見えるように工夫して作っているのです。現代でもスマートフォンやパスポートなど、たくさんの物にこの比が使われています。また0、1、1、2、3、5、8、13、21、34、…と並ぶ数列を「フィボナッチ数列」といいます。隣り合う数を足すと次の数になる、そういう規則性を持つ数列です。実はヒマワリの花の真ん中にある種は、この数列の規則に従ってらせん状に並んでいるのです。
 このような身近にある「数と比のうつくしさ」のほか、「立体図形のおもしろさ」「平面図形のふしぎ」「長さ・量と測定」の四つの章に分けて、算数がどんなところで使われているかの具体例を、写真と図で見せてくれます。読めば誰かに教えたくなることがたくさん出てくるので、保護者の方に教えてあげてもいいでしょう。親子で一緒に読んでも楽しいと思います。
 低学年向けの図鑑ですが、4・5年生が読んでも意外に知らなかったことが出てくるのではないでしょうか。受験生が勉強の休憩時間の息抜きに読んでもいいでしょう。難しい問題で行き詰まったときなど、この本を開いて「算数ってやっぱり楽しいな」と思い出してもらえればうれしいです。外を歩けば算数がいっぱいです。この本を読んだら、自分の足で「これって算数じゃないかな」と身近な算数を探してみてください。

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