受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

Booksコーナー

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2023年9月のBooks

 今月紹介する『地震空間からの脱出』は、昔流行した「ゲームブック」を楽しみながら防災について学べる本です。ゲームの中で選択肢を選びながらどこが危険か、どんな問題が発生するか、何が役立つか、手伝いをする際の注意点など、自分がいる場所や状況に応じた対処法を学べるようになっています。9月1日は防災の日。この機会に、いざというときにどう行動するか、バーチャルな世界でシミュレーションしてみませんか。

『鈴の送り神 修行ダイアリー』

  • 山下雅洋=作

  • 岩崎書店=刊

  • 定価=1,430円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

この世とあの世の間で 死神の免許を取る! 母の命を救うために

注目の一冊

 病気で療養する母と一緒に、母の実家のある笹山村で夏を過ごすことにした鈴。村にある五郎池には400年前、少女を人柱として生き埋めにしたという伝説が残っています。ある日、鈴はその五郎池に誤って落ちてしまいます。池の奥深くに沈む鈴。ところが気がつくとなぜか池のほとりに立っていて、服も体もぬれていません。「あれ? いまの夢だったの?」。顔見知りのおばあさんがいたので話しかけましたが、鈴の声は聞こえないようです。すると後ろから着物姿の女の子が声をかけてきました。「話しかけても無駄よ。だってあんた死んでるんだから」と。
 最初に主人公が死んでしまうという意表をつく展開にまず驚かされます。とはいえ鈴が行ったのはあの世ではなく、あの世とこの世の間にある「あわい」の世界。着物姿の女の子、八重は「あわい」の住人で、死神の免許を持っています。ここでいう死神とは、死者の魂が迷わないように導くのが仕事の「送り神」のこと。鈴は母の命を救うため、先祖の左衛門さんや八重の力を借りて、死神の修行をすることを決意します。人は死んでから三途の川の岸に行くまでに7日間の猶予が与えられます。その7日間が修行期間なのです。
 左衛門さんは言います。「遺伝子は生まれるときに受け継がれるが、魂は人が亡くなったときに受け継がれる。その大小は、受け継ぐ人が、亡くなった人のことをどれだけ大切に思っていたかで決まる」と。「送り神」の修行をとおして人の死に立ち会うことで、大切なものに気づいていく鈴の7日間を描きます。

『ヨシ 3万7千キロをおよいだウミガメのはなし

  • リン・コックス=文

  • リチャード・ジョーンズ=絵

  • いわじょう よしひと=訳

  • あすなろ書房=刊

  • 定価=1,650円(税込)

  • 対象:幼児向け・小学校低学年向け

南アフリカからオーストラリアへ 世界が注目したアカウミガメ、ヨシの大冒険

 ここはオーストラリアの浜辺。アカウミガメの赤ちゃんが卵の殻を破って出てきました。4日後の真夜中、赤ちゃんガメたちは砂の中からはい出して必死に走り、波と一緒に海にもぐりました。
 このうちの1匹が成長して、網に引っかかっているところを日本の漁船に助けられました。カメは「ヨシ」と名付けられ、後に発信器をつけて南アフリカの海に放されました。ヨシは南アフリカで生まれたと思われたからです。ところがヨシの動きに世界中の人たちはびっくり。オーストラリアまで3万7千kmを泳いだのです。実在のアカウミガメ、ヨシの驚異の物語。絶滅危惧種であるアカウミガメの生態についても学べます。

『やぶこぎ 川辺かわべの草はらと生き物たち

  • モリナガ・ヨウ、畠佐代子=作

  • くもん出版=刊

  • 定価=1,650円(税込)

  • 対象:幼児向け・小学校低学年向け

河川敷は自然の宝庫 高い草をかき分けて、 生き物たちに会いに行こう

 ここは初夏の河川敷。見上げるくらい高い草が生えています。オギです。両手でオギをかき分けて進みます。これが「やぶこぎ」です。よく見ればオギの葉は丸まっていて、開いてみるとクモの産室がありました。ヤマトコモチグモです。
 カワセミ・アオサギ・オオヨシキリ・キアゲハ・ノアザミ・ベニシジミなど、河川敷にはいろいろな生き物がいます。河川敷の生き物を調査している専門家に教わりながら、生き物たちに合いに出掛ける絵本です。必要な道具や注意点も書かれています。晴れの日、雨の日、夏の日、冬の日と、河川敷はその時々で豊かな表情を見せてくれます。読めば近所の河川敷を探検してみたくなるでしょう。

『ふたりのラプソディー』

  • 北ふうこ=作

  • トミイマサコ=絵

  • 文研出版=刊

  • 定価=1,540円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

売れない芸人の父は言った 「好きなことをするんが 人間いちばん幸せや」

 小6のあずさの父は売れない芸人、大坂ゴン太。母は家を出ていったので、大阪のアパートで二人暮らしです。朝はゴン太をたたき起こし、食事の支度も洗濯もあずさがやらなければ一日が始まりません。クラスの半数が中学受験をめざすなか、あずさも将来について考え始めますが、父を見ると「うちが将来ゴン太を養わなあかんようになると思ったら、夢も希望もなくなる」と思うのでした。
 お笑いの仕事を愛するゴン太。そんな父が大好きなあずさ。漫才の掛け合いのような二人の生活は温かく、ほのぼのします。似た境遇の友だちとの交流、母の登場など日常が変わりゆくなか、あずさは自分の将来を真剣に見つめ始めます。

防災ゲームブック 地震空間じしんくうかんからの脱出だっしゅつ

  • 勝谷大樹=作

  • aohki mimei=絵

  • 高荷智也=監修

  • ポプラ社=刊

  • 定価=1,320円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

もしものとき 君はどの道を選ぶ? その選択が運命を分ける!

 ここは災害対策研究所。あなたは特別モニターとして、全身型VR災害シミュレーターを試すことになっています。ところがエラーが起きて、仮想空間から脱出できなくなってしまいます。その仮想空間では震度7の地震が発生。山崩れや津波も起こるなか、72時間を生き抜かなければなりません。さあ、どうする?
 地震の際、どう行動すれば危険を避けられるか、何をすれば人の助けになるか。ストーリーのなかの選択肢から道を選びながらゴールをめざします。意外に難しく、選択を間違えれば「再チャレンジ」のページへ。ゲームを楽しみながら防災の知識と心構えが身につきます。巻末には解説ページもついています。

『文通小説』

  • 眞島めいり=作

  • 講談社=刊

  • 定価=1,540円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

友だちになってなかったら わたしは確実に 今のわたしじゃなかった

 中2最後の終業式の日。貴緒が軽い調子でこう言いました。「あたし、もうすぐ引っ越すんだ」と。何をするにも一緒だった貴緒が、3年生になったらもういない…。ちさとは驚きと怒りで混乱しましたが、LINEが苦手な貴緒の提案に従って文通を始めることにしました。
 お互いにかけがえのない友だちだと思っていても、相手を思う気持ちの表し方は違います。貴緒を大切に思うあまり、複雑な思いが空回りするちさと。一方、貴緒は貴緒で大きな悩みのなかにいました。物語の終盤、前に向かって新しい一歩を踏み出せるようになったちさとの手紙が胸を打ちます。なお作者のデビュー作は、多くの中学入試問題に取り上げられています。

『こども鉱物図鑑』

  • 八川シズエ=著

  • 中央アート出版社=刊

  • 定価=1,760円(税込)

意外に身近な鉱物の世界 パラパラ見るだけでも楽しい 図鑑っぽくない図鑑


用賀校 校舎責任者

 理科の講師として、理科に興味を持てるようなおもしろい授業を工夫して行っていますが、なかにはなかなか興味を持ちづらい分野もあります。その一つが岩石や鉱物の分野です。そこで、少しでも興味を持ってほしいと思って選んだのがこの本です。
 鉱物図鑑とはいっても分厚い本ではなく、気軽に手に取ってパラパラ見るのに最適です。鉱物はどの部分をとっても同じ性質の物質からできている、規則正しい形をした結晶です。一つひとつ顕微鏡写真で見るときれいです。そして、この本の最初にも書いてありますが、鉱物は身近なものです。たとえば、食事や料理に使う食塩はもともと「岩塩」という鉱物です。また、勉強で使う鉛筆の芯には「石墨」という鉱物が使われていますし、時計には「石英」という鉱物が使われているものもあります。
 「鉱物百科」という章では、そんなさまざまな鉱物の説明が写真とともに掲載されています。「色」「重さ」「でき方」「産地」など、項目別の説明は簡潔でわかりやすく、おもしろい発見もできます。たとえば、皆さんがよく知っている高価な宝石、ダイヤモンドのところを見てみましょう。ダイヤモンドなんて日本では採れないと思うかもしれませんが、「産地」を見ると「日本ではつい最近、愛媛県で発見されました」と出ていて驚かされます。サファイアも富山県などで採れ、意外に日本で採れる宝石は少なくありません。
 鉱物の集合体が岩石で、岩石の集合体が地殻、つまり地球の殻のようなものです。鉱物を知るには地球を知らなくてはなりません。この本には、地球の誕生や歴史についての説明もあります。理科のテキストなどで見たことのある図や写真も発見できるでしょう。そんな知っていることをきっかけに読み始めてもおもしろいと思います。鉱物に限らず、身の回りにはじっくり見てみるとおもしろいものがたくさんあります。それを知るきっかけになる本としてもお薦めです。ぜひ手に取ってみてください。

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