受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

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2023年3月のBooks

 子どもたちは甘いお菓子が大好きですが、今から何百万年も前の人たちも甘いものが好きでした。でもこの時代、甘いものなんて熟した果物かハチミツぐらいしかありません。見つけたらほかの動物に取られる前に早く食べてしまう、それが当たり前でした。今月紹介する『人類の物語』によれば、わたしたちが甘いものが好きだったり、夜におばけを怖がったりするのは、大昔の祖先から受け継いだ性質だとのことです。歴史が苦手な人にも人類の壮大な物語としてお薦めの一冊です。

『人類の物語 ヒトはこうして地球の支配者になった

  • ユヴァル・ノア・ハラリ=著

  • リカル・ザプラナ・ルイズ=絵

  • 西田美緒子=訳

  • 河出書房新社=刊

  • 定価=1,760円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

わたしたちの祖先は どう世界をつくってきたのか、そして わたしたちはどう未来をつくっていくのか

注目の一冊

 今から何百万年も前、人類は野生動物の一つに過ぎませんでした。木の実を採ったりミミズやカタツムリを捕まえたりして自然の中で暮らしていました。ライオンやクマが現れれば逃げるしかない弱い生き物でした。でも今はどうでしょう。かつては大型の動物が支配していた大地も海も空もすべて人類が支配しています。なぜそんなことができたのでしょうか。道具を使うことを覚えたから? 火を扱えるようになったから? それだけでは世界を支配することはできません。
 わたしたちの生物の一種としての学名は「ホモ・サピエンス」で、アフリカから世界中に広がりました。その過程で、ヨーロッパなどほかの地域でネアンデルタール人やデニソワ人などの別の人類と出会いました。これらはすべてホモ・サピエンスに滅ぼされました。ホモ・サピエンスにはほかの人類にはないスーパーパワーがあったのです。それは人類を飛躍的に発展させた力であり、地球上の大型動物をことごとく絶滅させた力でもありました。
 世界的なベストセラー『サピエンス全史』の著者が子どもたちに向けて、わたしたちの祖先の壮大な歴史を語ります。ユーモアあふれる表現が多く、石器時代の人が洞窟の壁に残した手形を「自撮り」にたとえたり、採集民の生活を今の学校生活に置き換えたりと、身近な具体例を使ってわかりやすく説明してくれます。過去を語ってはいるものの、常に現在と未来への視点があり、SDGsや多様性といったことばこそ出てきませんが、子どもたちに託したい地球の未来への思いがあふれています。

『げんきになったよ こりすのリッキ』

  • 竹下文子=文

  • とりごえまり=絵

  • 偕成社=刊

  • 定価=1,540円(税込)

  • 対象:幼児向け・小学校低学年向け

病気が治って退院 でも久しぶりの学校は ちょっとどきどき

 いつもは元気いっぱいのこりすのリッキが、病気になって入院することになりました。リッキは早く良くなりたくて、痛い注射も嫌な検査もがんばりました。やがてリッキが退院する日がやってきました。でもリッキの体は弱ったまま。学校に行っても体育は見学。かけ回って遊ぶこともできませんでした。
 退院してもすぐに元どおりの生活ができるわけではありません。「久しぶりの学校でうまくできるかな」。そんな不安がいっぱいです。でもリッキは少しずつ元気になっていきます。病気で長く学校を休む子どもたちはたくさんいます。そんな子どもたちのことを少しでもわかってほしい、という願いから作られた絵本です。

あか鉄橋てっきょうわたっていくよ』

  • 岡田光司=写真

  • 岡田康子=文

  • 文研出版=刊

  • 定価=1,650円(税込)

  • 対象:小学校低学年向け

「がんばれ別所線!」 みんなが応援した 赤い鉄橋の復旧物語

 長野県上田市。街の真ん中を千曲川が流れ、その上に赤い鉄橋が架かっています。1924年に造られて以来、地元のシンボルとして愛されてきた橋です。ところが2019年10月、大きな台風によって堤防が崩れ、鉄橋は川に落ちてしまいました。復旧の見通しは立ちませんでした。でも地元の人たちは、壊れたままの鉄橋を黙って見てはいなかったのです。
 前半は上田電鉄別所線と鉄橋、車両の魅力を紹介。後半では鉄橋が復旧するまでの物語を写真でつづります。2021年3月、鉄橋の修理が終わり、別所線は全線開通しました。虹が浮かぶ空の下、白い車両が赤い鉄橋を渡ります。ガタンゴトン、うれしそうに走る電車の音が聞こえてきそうです。

見て 聞いて まねして 楽しむ 歌舞伎絵本 狐忠信きつねただのぶ

  • 中村壱太郎=文

  • くまあやこ=絵

  • 尾上松也=声

  • くもん出版=刊

  • 定価=1,870円(税込)

  • 対象:小学校低学年向け・小学校中学年向け

変身あり、宙返りあり 文と絵と音でも味わえる 歌舞伎のおもしろさ

 源義経といえば源平の合戦で平家を倒したヒーロー。ところが兄の頼朝にあらぬ疑いをかけられ、追われる身になります。恋人の静御前と別れて逃げることになった義経。そのとき静御前のお供につけたのが家来の佐藤忠信です。なんとキツネがその忠信に化けたことから、奇妙なことが起こり始めました。
 歌舞伎の名作をもとにした話を、歌舞伎俳優が子ども向けに書き直した絵本です。人が動物に変身したり、宙返りをしたり、「けれん」という歌舞伎の演出方法を取り入れた歌舞伎ならではの物語です。アプリをダウンロードすれば、尾上松也さんの読み聞かせも楽しめます。文・絵・音の三つのおもしろさが味わえる一冊です。

『ジャングルジム』

  • 岩瀬成子=作

  • 網中いづる=絵

  • ゴブリン書房=刊

  • 定価=1,540円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

強気で受けてしまった 上級生との“決闘” さあどうする?

 3年生のすみれには1歳違いのお姉ちゃんがいます。ある日、お姉ちゃんが泣きながら帰ってきました。聞けば同級生のかりんちゃんに意地悪されたとのこと。見かねたすみれは「復讐しよう」と、ダンゴムシで驚かす作戦を試みますが、見事に失敗。逆にかりんちゃんから「学校が終わったら公園に来て」と呼び出されてしまいます。
 表題作「ジャングルジム」を含む5編を収めた短編集です。意地を張ったり我慢したり大人に気を遣ったり。さまざまなことが起こる日常のなかで、細かい気づきがあるのは、相手を思い自分を省みているからこそです。今を懸命に生きている登場人物たちの息遣いが感じられる短編集です。

『どすこい!』

  • 森埜こみち=作

  • 佐藤真紀子=絵

  • 国土社=刊

  • 定価=1,540円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

元力士のじいさんは言った 「勝ちたかったら 必死になって考えろ」

 春の相撲大会に出場した凡ちゃんと健太。対戦相手の小学生は本物の力士のように強く、2人はこてんぱんにやられてしまいます。でも秋の大会は学校対抗の団体戦。絶対に負けたくありません。駄菓子屋のじいさんが元力士だと知った2人は、相撲を教えてもらおうと店に出掛けます。ところが「商売のじゃまだ」と追い払われてしまいます。
 体重なら誰にも負けない凡ちゃんと小柄で細身の健太が、駄菓子屋に通う日々が始まります。駄菓子屋に群がる子どもたち。揚げたてのコロッケ。みんなでテレビを囲んで見る相撲中継。ノスタルジックな下町の雰囲気が漂うなか、相撲に全力で取り組む少年たちをさわやかに描きます。

『サマータイム』

  • 佐藤多佳子=作

  • 新潮社=刊

  • 定価=506円(税込)

出会い、別れ、再会 子どもにとっての特別な瞬間を みずみずしく描く一冊


白金台校 校舎責任者

 ある夏の日、11歳の進が片腕のない少年、広一と知り合うところから物語は始まります。進には1歳違いの佳奈という姉がいて、3人の関係性を軸に話は進んでいきます。これが進の語りでつづられる「サマータイム』と題された最初の物語です。全体が四つの話で構成される短編集のように見えますが、2番目の「五月の道しるべ」は、佳奈の語りでつづる彼女の目から見た物語、3番目の「九月の雨」は、広一が語る物語、というように4編全体で一つの物語になっています。主な登場人物は3人のほか、広一の母、その恋人の種田さん、佳奈の友だちの店で働くピアノ調律師のセンダくん。どの人もとても魅力的で、そのなかで姉と弟、母と子、少し年上の友だちや異性との関係がていねいに描かれています。
 わたしが特に印象に残ったのは、広一が種田さんに自転車の乗り方を教わる場面です。父が亡くなってから母は何人も恋人をつくりますが、広一はその誰とも打ち解けず距離を置いてきました。それが今までの人とはまったく違って何の取りえもなさそうな種田さんには自分から距離を縮めていった、その瞬間が鮮やかに描かれています。それは自分が変わるきっかけになった瞬間です。単に自転車の練習をしただけの場面なのですが、人生が変わる瞬間のような感じがして感動しました。
 誰かと出会ったり別れたりすることは、大人になると当たり前になってしまいます。でも子ども時代の出会いや別れ、あるいは再会には特別なものがあります。ここではピアノと自転車がそうですが、物との出合いも同じです。子ども時代のそんな特別な時間、あるいはその時期の楽しさ、思いどおりにいかないもどかしさやいら立ち。そういったものが感じられる、さわやかでみずみずしさがあふれた作品です。3人の語り口で進んでいくので文章は読みやすく、その時々の心情に自分を重ねて読むことができると思います。保護者の方にもお薦めです。

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