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今、この瞬間にも、ウクライナや中東のパレスチナ自治区のガザ地区などには戦火にさらされて苦しんでいる人々がいます。これからの日本と世界を担う皆さんには、こうした問題には関心を持ってもらいたいです。どうするのが正解なのか、簡単には結論が出ませんが、それらの出来事は食料やエネルギーの供給に影響を与え、わたしたちの生活にも直結しています。たとえ小学生でも、自分の頭で考えてほしいことがたくさんあります。
中学入試の社会科や理科で時事的な問題が多く出されるのは、そうした姿勢を持っているかどうかを確認したいと、学校側が考えているためです。ここでは今年の入試に取り上げられそうな2023年の主なニュースをまとめました。6年生は時事問題の最終チェックに、5年生以下の皆さんはこの1年間の世の中の動きを知っておくために、ぜひご活用ください。
※西暦のない日付はすべて2023年です。
気象・災害・環境
1NEWS CHECK 国内外で気象災害が多発
猛暑の記録を次々と更新
もはや「異常気象」が通常の気象のようになっていますが、2023年も極端な気象や、それを原因とする気象災害が国内外で多発しました。
日本国内でまず記憶に残るのは猛暑でしょう。たとえば、東京都心では7月6日から9月7日まで64日連続で、1日の最高気温が30℃以上の真夏日が記録されました。これまでの記録は2004年7月6日から8月14日までの40日連続だったので、それを大幅に更新する最長記録となりました。真夏日は結局、合計90日も観測され、2010年の71日という記録を大きく更新しました。
また、1日の最高気温が35℃以上の猛暑日は7月に13日、8月に9日の計22日を数え、これも2022年の16日という最多記録を更新したのです。
2023年は暑さがなかなか収まらない年でもありました。11月7日には東京都心で27.5℃を記録し、11月の最高気温記録を100年ぶりに塗り替えました。2023年11月は4日と6日も最高気温が25℃以上の夏日だったのですが、東京都心で11月に夏日が3日も記録されたのは2023年が初めてです。
こうした猛暑がもたらされた主な原因は、7月後半に太平洋高気圧の日本付近への張り出しが強まったことにあると考えられています。また、上層の亜熱帯ジェット気流が北へ蛇行し、北日本や東日本は上空の高いところでも高気圧になっている「背の高い」高気圧に覆われたため、晴れて気温の高い日が続きました。一方、8月には移動のスピードが遅かった台風6号・7号と、日本付近への張り出しがやや弱まった太平洋高気圧との間を通り、南海上から暖かく湿った空気が日本上空に入り込む状況が続きました。これにより、特に日本海側でフェーン現象による気温の上昇が起こりました。
大雨や台風の被害も頻発
大雨や台風の被害も頻発しました。7月10日には日本付近に停滞していた梅雨前線に向かって南から暖かく湿った空気が流れ込み、「線状降水帯」が形成されたことにより、九州北部を中心に猛烈な雨が降りました。これを受け、気象庁は午前6時40分に福岡県に、午前8時に大分県に、それぞれ大雨特別警報を発表。各地で土砂災害や河川の氾濫が発生しました。
同じ場所で積乱雲が次々に発生する状態になると、発生した積乱雲が移動した後の元の場所では新たな積乱雲が発生し続けるため、いくつもの積乱雲が線状に連なることになります。これが線状降水帯で、同じ場所で数時間にわたって激しい雨を降らせるため、災害を引き起こす可能性が高くなります。
9月8日にも台風13号が東海・関東地方に接近した影響により、千葉・茨城・福島の各県で線状降水帯が発生し、記録的な降水量を観測しました。3県ではこの日、数年に一度しかないような大雨が降ったときに出される「記録的短時間大雨情報」が計22回も出されました。
海外では山火事が猛威
海外では猛暑の影響か、山火事の被害が相次ぎました。特に多かったのはスペイン、イタリア、ギリシャなど南ヨーロッパの地中海沿岸です。この地域は日本とは異なり、夏はほとんど雨が降らない「地中海性気候」なので、非常に乾燥していて火災が発生しやすいのです。アメリカのカリフォルニア州も同様の気候のため、例年、夏には山火事が頻発し、深刻な問題になっています。人家にも延焼し、大きな被害を出すこともあります。
2023年にはハワイ州でも大規模な森林火災が発生しました。8月8日にマウイ島で発生したものです。その原因はハワイ諸島の南を通過したハリケーンの影響による強風で電線が切れ、草木に火がついたためとみられます。ハワイでは外来種の燃えやすい植物が固有種の植物を駆逐して分布を広げており、それが被害を大きくしたようです。この火災は日本人観光客にも人気のある同島西部のラハイナの町に延焼し、死者は100人以上に達しました。
洪水による被害もありました。9月10日から11日にかけ、地中海で発生したハリケーンのような強い低気圧が北アフリカのリビアを襲ったのです。東部の都市デルナでは町を流れる川の上流のダムが大雨により決壊し、洪水が発生しましたが、死者・行方不明者は1万人を超えたとみられています。地中海は日本の本土と同じくらいの緯度です。そこで台風のような強い低気圧が発生したのは、海水温が記録的に高かったからではないかと考えられます。内戦により、国が東西に分裂した状態で、災害への備えができていなかったことも被害を大きくしました。
補足しておくと
2023年の暑さについては国連も危機感を示しています。7月27日には国連本部で世界気象機関(WMO)の報告書が発表されました。その内容は、2023年7月が観測史上最も暑い月だったというものでした。これを受け、アントニオ・グテレス事務総長は記者会見で「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と述べました。
WMOは11月30日、2023年は観測史上最も暑い1年になることが確実になったとも発表しました。10月末までの記録では、世界の平均気温は産業革命前より1.4℃上昇しており、これは比較的温暖だった約12万5000年前を上回るとしています。
2NEWS CHECK 地球温暖化対策とCOP28
気候変動枠組み条約とは
地球温暖化が進むと、どんなことが起こるのでしょうか。前項で触れた猛暑や山火事の多発、南極の氷が解けることなどによる海面の上昇、氷河の縮小による水不足などが考えられます。また、単に気温が上がるだけでなく、各地で雨の降る量やその時期も変わることになります。台風やハリケーンが強大化するともいわれています。洪水や干ばつの被害が増加し、食料生産に悪影響が出るでしょう。そのため、「温暖化」ではなく、「気候変動」と呼ぶことも多くなっています。それに対応できない生物は絶滅に追い込まれ、生物多様性が失われる恐れもあります。
こうした事態を食い止めようと、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた国連環境開発会議(地球サミット)で採択されたのが「気候変動枠組み条約」です。現在では約200の国とEUが批准しており、その代表は1年に一度、一堂に会して締約国会議を開いています。この会議のことを「COP」といいます。
2015年にフランスのパリで開かれた第21回締約国会議(COP21)では「パリ協定」が採択されました(発効は2016年11月)。「産業革命以降の気温上昇を2℃未満に抑える、かつ1.5℃以内をめざす」ため、先進国も発展途上国も、それぞれ目標を設定して二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出削減に取り組むという内容です。
この「1.5℃以内」は、初めは「努力目標」でした。しかし、2021年にイギリスのグラスゴーで開かれた第26回締約国会議(COP26)で採択された「グラスゴー気候合意」では、「産業革命前からの世界の気温上昇を1.5℃以内に抑える努力を追求する」という表現が盛り込まれました。この結果、「2℃」ではなく「1.5℃」が事実上の新たな目標になったのです。
これを実現するには、今世紀半ばまでに温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」にすることが必要だとされています。この「実質ゼロ」とは「まったく排出しない」ということではなく、「森林などによる吸収量以上には排出しない」という意味です。このことを「カーボンニュートラル」といいます。
そのために重要になるのが、CO2の主な発生源である石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料を使う発電を減らすことです。化石燃料のなかでは、天然ガスはCO2の排出量が比較的少ないのですが、石炭は大量に排出します。しかし、コストは石炭が最も安いので、発展途上国のなかには発電のエネルギー源を石炭に頼っている国も少なくありません。中国やインドがその代表格です。日本も石炭火力発電の割合が比較的高い国です。そこで、グラスゴー気候合意には石炭火力発電を「段階的に削減する」ことも盛り込まれました。ところが、2022年にはこれまで脱石炭を推進してきたドイツなどヨーロッパの国々でも、石炭火力発電所を再稼働する動きが見られました。ロシアのウクライナ侵攻により、ヨーロッパ諸国ではロシアに対し、経済制裁を科すことになったため、エネルギー源をロシア産の石油や天然ガスに頼り切っていた状況を変える必要が生じたのです。石炭火力発電所の再稼働は急場をしのぐための一時的なもので、廃止をめざす方針に変わりはないとドイツは説明していますが、地球温暖化問題に対して暗い影を落としています。
それ以前に、戦闘行為そのものにより、大量のCO2が排出されていることも忘れてはなりません。「戦争は最大の環境破壊」だとはよくいわれることです。
「脱石炭」が大きなポイントに
石炭・石油・天然ガスの化石燃料を利用して発電する場合、CO2の排出量が少ないのは天然ガス・石油・石炭の順です。しかし、コストが安いのは石炭・天然ガス・石油の順です。つまり、環境負荷が最も少ないのは天然ガスなのですが、コストはCO2排出量が最も多い石炭が最も安いわけです。だからこそ、石炭の使用量をなかなか減らせないのです。
日本はコストの安さを重視して石炭火力発電を推進していたため、海外からは温暖化対策に消極的だと非難されてきました。日本政府ではこの点を考慮し、老朽化した石炭火力発電所は2030年までに段階的に休止・廃止する方針を決めました。「脱石炭」への第一歩をようやく踏み出したといえるでしょう。
化石燃料の代わりに、温室効果ガスを排出しない太陽光・風力・地熱・水力・バイオマスなどの自然エネルギーを使うようにしていくことも大切です。これらは有限の資源である化石燃料と異なり、使ってもなくならず、繰り返し利用できることから「再生可能エネルギー」とも呼ばれます。
ただし、太陽光や風力が特にそうですが、天候や時間帯などによって発電量が大きく左右されるというデメリットもあります。電気は大量にためておくことができないため、再生可能エネルギーの利用が進めば進むほど、いざというときの押さえとして、化石燃料による火力発電が必要になるというジレンマも考慮しなければなりません。
ところで、ガソリンで動く自動車もCO2の排出量が多く、温暖化の要因としてかなりの割合を占めています。そのため、急ピッチで開発が進められているのが、CO2を排出しない、または排出量がより少ない「エコカー」です。充電した電気で動く電気自動車、水素を燃料とする水素自動車、水素と酸素を反応させて得た電気で動く燃料電池車などです。日本が得意とする、電気でもガソリンでも動くハイブリッド車もあります。
ただし、電気や水素で車を動かすだけでは、環境に配慮していることにはなりません。火力発電の電気で充電しているのなら、別の場所でCO2が大量に排出されていることになりますし、水素も化石燃料から取り出すのであれば同じです。このことには注意が必要です。
ガソリンエンジン車は近い将来に禁止しようという動きが世界的にあり、日本政府も2030年代半ばまでに国内で販売する乗用車の新車をすべて電気自動車やハイブリッド車にする方針を決めました。EUはより積極的で、2035年までにハイブリッド車を含むエンジン車の販売をすべて禁止するとしていました。しかし、2023年3月、太陽光などの再生可能エネルギーを利用して生成される水素とCO2から作られる合成燃料を使うエンジン車であれば、2035年以降も販売を認めることにしました。そのような合成燃料であれば、温室効果ガスの排出量は事実上ゼロと見なせるためです。
COP28がドバイで開催
・2030年までに石炭・石油・天然ガスからの脱却を図る |
・2030年までに世界の再生可能エネルギーの設備容量を3倍にする |
・2035年までに温室効果ガスの排出量を、2019年の排出量との比較で60%減らす |
・原子力の利用を拡大し、再生可能エネルギーなどと並ぶ柱に |
・「損失と被害」基金は、当面は世界銀行が運営し、先進国などが資金を拠出 |
こうした問題を話し合う2023年の気候変動枠組み条約締約国会議は、11月30日からアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれました。第28回なので「COP28」です。議長国のUAEは中東の産油国の一つですが、産油国は脱化石燃料が進むと、自国の石油が売れなくなるという理由で、温暖化対策に消極的だと、これまで批判されてきました。しかし、UAEも、石油が好きなだけ使える時代はいつまでも続かないと認識しており、原子力発電所を建設するなどして「脱石油」を図っています。
今回、焦点となっていたのは、これまで触れることができなかった「脱化石燃料」への強いメッセージを打ち出せるかどうかでした。100以上の国が石炭・石油・天然ガスの「段階的廃止」を合意文書に盛り込むよう働きかけていたのですが、産油国の利益を守る組織である石油輸出国機構(OPEC)のリーダー格であるサウジアラビアが反対。今回の議長はUAEの国営石油会社のトップでしたが、その議長が12月11日夜に出した案では「段階的廃止」の文言がなくなり、「消費と生産を低減する」という表現に後退しました。すると、今度は気温の上昇によって海面が上がると、国土の浸食が懸念され、最悪の場合、国そのものがなくなりかねない島国などが猛反発。これを受け、12日夜に、2030年までに対策を加速させ、「化石燃料から脱却する」という、「廃止」よりはあいまいなことばを使った案をまとめ、各国と調整を続けました。会期は12日までの予定でしたが、1日延長され、13日に「2050年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロを達成するために、化石燃料からの脱却を加速させる」という内容の合意文書を出すことができました。
「化石燃料からの脱却」ということは、具体的には原子力や再生可能エネルギーによる発電を増やすということになります。12月1日・2日に行われた首脳級会合では「2050年までに世界の原子力発電の設備容量を3倍にする」ことに、日本、アメリカ、イギリス、フランス、韓国、ウクライナなど22か国が賛同しました。また、「2030年までに世界の再生可能エネルギーによる発電の設備容量を3倍にする」ことには、日本を含む118か国が賛同しました。
また、前年のCOP27で正式に議題となった、気候変動によると考えられる災害で「損失と被害」を受けた発展途上国を支援するための基金については、当面は世界銀行が運営することで合意しました。先進国の資金拠出は義務化されてはいませんが、任意での拠出を促しています。すでに議長国のUAEをはじめ、日本、アメリカ、イギリス、ドイツなどが資金の拠出を表明しました。
補足しておくと
近年、COPの会期は毎回のように延長され、最終日は徹夜で妥協点を探る参加者の姿が見られるようになっています。環境問題ではそれぞれの国が置かれている立場による対立が激しいからです。特に発展途上国は、これまで大量の温室効果ガスを排出しながら豊かになってきた先進国が、これから豊かになろうとしている自分たちにも排出削減を求めることに不満を持っています。しかし、地球の未来を救うためにはどこかで妥協し、温暖化を抑制しなければなりません。柔軟な発想は今後ますます必要になるといえるでしょう。
パリ協定によると、各国は温室効果ガスの削減目標をそれぞれ設定し、国連に報告することになっています。たとえば、日本は2030年度までに、2013年度の排出量と比較して46%削減することをめざしています。こうした目標を達成するため、世界の温暖化対策の進捗状況を5年ごとに評価する「グローバル・ストックテイク」という仕組みがありますが、今回のCOP28ではそれが初めて行われました。日本はその評価結果を受け、2035年度までの削減目標をより厳しいものにすることが求められます。
3NEWS CHECK 福島第一原発の処理水を海洋に放出
「トリチウム」とは
2011年3月11日の東日本大震災による津波で重大な事故を起こした東京電力(東電)福島第一原子力発電所では、壊れた原子炉建屋に流れ込んだ雨水や地下水が核燃料などに触れ、放射性物質で汚染された水が発生し続けています。それは敷地内のタンクにためて外に出さないようにしてきましたが、タンクの容量にも限りがあります。そこで、その汚染水から「トリチウム」以外の放射性物質をほぼ取り除き、大量の海水で薄めた「処理水」が、8月24日の午後1時すぎから海に放出され始めました。東電は翌日、放出開始後に周辺海域で採取した海水の放射性物質の濃度に異常は見られなかったと発表しました。
トリチウムとは普通の水素の3倍の重さがある「三重水素」のことです。水の粒1個は水素の粒2個と酸素の粒1個からできています。その水素の粒1個は、普通は陽子1個と電子1個からできていますが、陽子1個、中性子1個、電子1個からできている「重水素」や、陽子1個、中性子2個、電子1個からできている三重水素もあります。つまり、トリチウムは三重水素からできている水の一部であるため、ろ過したり、何かに吸着させたりして取り除くことができないのです。ただ、トリチウムは原発からだけ発生するわけではありません。普通の水素が宇宙線を浴びて重水素やトリチウムに変わることもあります。コップ1杯の水のなかにも何百万個も含まれているものなので、政府は大幅に薄めれば問題ないという立場です。
それでも放射線を出すことは事実なので、危険だというイメージを持つ人がいます。福島県沖などでとれた水産物は「風評被害」を受け、安全であっても売れなくなる懸念があったほか、諸外国の反発も予想されたため、慎重に事を進める必要がありました。具体的には国際原子力機関(IAEA)の調査を受け入れ、その安全基準を満たすことです。現地調査を重ねた結果、「放出計画はIAEAが定める国際的な安全基準に合致しており、環境や人体に与える影響は無視できるレベル」だとする報告書が、7月4日から7日まで来日したIAEAのラファエル・グロッシ事務局長から公表されました。8月24日からの放出はこれを踏まえて実施されました。それにもかかわらず、中国政府や韓国の野党は強く反発しました。中国は日本からの水産物の輸入禁止に踏み切ったため、日本の水産業にも大きな影響が出ています。
補足しておくと
幸い、海洋放出が始まった後も、福島県沖などでとれた水産物への風評被害はほとんどありませんでした。むしろ中国が日本の水産物の禁輸に踏み切ったことを受け、水産物の国内での消費を拡大して漁業者を支援しようとする動きもありました。世界への情報発信もかなり成功し、多くの国は海洋放出に理解を示しています。ただ、中国との間では外交問題になってしまいました。日本政府は中国の原発からもトリチウムは放出されていると反論していますが、中国への水産物輸出が再開できる見通しは立っていません。また、本当のゴールは事故を起こした福島第一原発の廃炉作業を終えることです。処理水の海洋放出はそのためのステップの一つにすぎません。事故は過去のことになったとはいえず、現在進行形で続いているともいえるので、今後も関心を持ち続ける必要があるでしょう。
4NEWS CHECK 相次ぐクマによる被害
人的被害は過去最多
2023年はクマ、イノシシ、シカなどの野生動物による被害が多発した年でした。
まずクマですが、環境省によると、2023年4〜12月にクマに襲われて死傷した人は19道府県で217人に上ります。2008年度以降では2020年度の158人が最多だったのですが、それを大きく上回ったのです。特に目立つのは東北地方で、秋田県が70人、次いで岩手県が49人となっており、この2県で半数以上を占めています(いずれも12月末現在)。たとえば、秋田県北秋田市では10月19日の1日だけで6人が襲われました。こうしたニュースがたびたび伝えられたため、地元ではわずかな距離の移動でもタクシーを利用する、子どもは自家用車で学校に送迎するといった動きが広がり、安全な暮らしが脅かされました。
こうしたことから、北海道東北地方知事会(新潟県も参加)は11月13日、環境省を訪れ、クマ対策の強化を緊急要望しました。まず挙げたのはクマ類を「指定管理鳥獣」に追加することです。現在、指定されているのはイノシシとニホンジカですが、クマ類が追加されると、捕獲作業や、それに従事する者の育成などにかかる費用が国から都道府県に交付されるようになるからです。また、小屋などにクマが入り込んで長時間出ていかなかったこともあったため、建物に侵入したクマに対して麻酔猟銃を使えるよう法令を見直すことも求めました。さらに、クマを駆除した地方公共団体にクレームが殺到したケースもあったことから、駆除の必要性を国から情報発信することも要望しました。
2023年度に人的被害が急増したのは、クマの生息域が拡大しているからではないかとも考えられています。近年、地方では高齢化・過疎化により、山林と平野の間に位置する「中山間地域」での人間の活動が減ったとされています。集落に人がいなくなると、クマの人に対する警戒心が低下し、クマが出没しやすくなって、やがてはそこがクマのエリアになってしまうのです。また、放棄された田畑が増え、やぶなどで覆われるようになったため、クマが市街地近くまで見つからずに移動することも可能になっています。秋田県では県庁所在地の秋田市の住宅地など、「まさかこんな所に」と思うような場所にもクマが出没しました。
クマは11〜12月から冬眠に入るため、その前に餌をたくさん食べ、体に脂肪を蓄えることが必要です。しかし、2023年秋は東北地方でクマの餌となるブナやミズナラなどの実(ドングリ)が凶作で、その代わりとなる餌を求めて人里に現れる個体が増えたようです。人が放置した食べ物の味をそこで覚えてしまったクマは、人里への出没を繰り返すようになるともいわれています。
補足しておくと
イノシシやニホンジカがクマの行動に影響を与えているという見方もあります。たとえば、岩手県では野生動物による農業被害額が急増しています。イノシシによる農業被害額は、2011年度には100万円余りだったのが、2022年度には4000万円を超えました。従来、岩手県など東北北部にはイノシシは生息していなかったのが、この10年ほどで生息域が北に拡大し、今では普通に見られるようになったことが影響していると思われます。岩手県ではイノシシだけでなく、ニホンジカも個体数が増えているようです。餌をイノシシやニホンジカに奪われたクマが人里に現れていることも考えられます。
クマやイノシシによる人的被害が発生するとニュースになります。しかし、野生動物による農業被害が年々増えていても、それがニュースとして伝えられることはほとんどないため、都市の住民はその深刻さを認識しません。やむを得ず野生動物を駆除した地方公共団体にクレームが寄せられるのも、その地域の住民の生活が脅かされていることへの理解が十分ではないという背景がありそうです。
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