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  • 24年2月号 [入試に出る時事問題]これだけは押さえておこう! ニュース総チェック

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これだけは押さえておこう! 入試に出る時事問題さぴあニュースバンク2024年 入試対策/ニュース総チェック

 今、この瞬間にも、ウクライナや中東のパレスチナ自治区のガザ地区などには戦火にさらされて苦しんでいる人々がいます。これからの日本と世界を担う皆さんには、こうした問題には関心を持ってもらいたいです。どうするのが正解なのか、簡単には結論が出ませんが、それらの出来事は食料やエネルギーの供給に影響を与え、わたしたちの生活にも直結しています。たとえ小学生でも、自分の頭で考えてほしいことがたくさんあります。
 中学入試の社会科や理科で時事的な問題が多く出されるのは、そうした姿勢を持っているかどうかを確認したいと、学校側が考えているためです。ここでは今年の入試に取り上げられそうな2023年の主なニュースをまとめました。6年生は時事問題の最終チェックに、5年生以下の皆さんはこの1年間の世の中の動きを知っておくために、ぜひご活用ください。 ※西暦のない日付はすべて2023年です。

政治・経済

1NEWS CHECK 続く物価高とその対策

円安の影響も大きい

 2022年から続く物価高が一向に収まる気配を見せません。消費者が買ういろいろな物の価格が前年よりどのくらい上昇、または下落したかを表す消費者物価指数(2020年=100)の推移を見ても、総合指数(天候などの影響で値動きの大きい生鮮食品を除く)は2023年1月から11月までのどの月も、前年同月と比べて2.5〜4.2%上昇していました。

 こうした物価高は小麦やトウモロコシなど、日本が輸入に頼っている物の価格が上昇したことが大きく影響しています。その大きな原因の一つがロシアによるウクライナ侵攻です。ウクライナは小麦の世界的な産地ですが、ロシアの侵攻によって、それを黒海経由で船で輸出することが困難になったのです。ウクライナ産の小麦を輸入しているのは、中東やアフリカの国々が中心ですが、その供給が途絶えると、別の産地の小麦に頼らなければならなくなります。すると、その産地の小麦も値上がりし…といった状況で連鎖的に価格が上昇しました。アメリカ、カナダ、オーストラリアから小麦を輸入している日本にとっても人ごとではないわけです。また、ウクライナはトウモロコシの産地でもあります。日本が輸入しているトウモロコシの多くは家畜の飼料用なので、その価格が上昇すれば、肉や乳製品、卵なども値上がりすることになります。

 また、2022年10月や2023年10〜11月には、1ドル=150円を突破したほどの円安の影響も大きいといえます。円安とはアメリカの「ドル」など外国の通貨に対する「円」の価値が下がることです。日本人が海外に行ったときは、手持ちの「円」をその国の通貨に替えて使わなければなりません。逆に、外国人が日本に来たときは自国の通貨を「円」に替えなければなりません。ところが、通貨の価値はその時々の各国の経済状況などを反映して高くなったり、安くなったりします。「円」の価値が、特にアメリカの「ドル」に対して下がることを「円安」といい、逆に上がることを「円高」といいます。1ドルと交換するために必要な円の金額が少ないほうに動くと円高で、多いほうに動くと円安です。

 最近の円安の背景にあるのは日本とアメリカとの金利(利息)の差だといわれています。金利が上がれば、たとえば家を建てようとする個人や、工場を建設しようとする会社は借りたお金に対して、より多くの利息を払わなければなりません。すると、お金が借りにくくなって経済活動が低調になります。物を買おうとする人が少なくなり、物価も下がることが見込まれます。

 アメリカは経済が好調で、金利も高い状態が続いています。一方、日本はその逆で、景気が悪いため、金利を低く据え置いています。この場合、金利が低い「円」を売って、金利が高い「ドル」を買おうとする動きが活発になります。「円」よりも「ドル」で銀行にお金を預けたほうがより多くの利息を受け取れるためです。こうして円安が進行するわけです。

 そんな状態のとき、海外から物を輸入する場合の代金の支払いはどうなるか考えてみましょう。仮に100ドルの製品があるとします。1ドル=100円のときは1万円で買えますが、1ドル=150円になれば、1万5000円出さなければ買えなくなってしまいます。こうして円安は物価高の原因になるのです。特に影響が大きいのが、海外からの輸入に頼っている石炭・石油・天然ガスです。火力発電所の燃料代がかさむようになったとして、2023年は多くの電力会社が電気料金を大幅に値上げしました。

物価高対策として減税や現金給付

 こうした物価高で国民の生活が圧迫されているとして、政府に対策を求める声が高まりました。それを受けて11月2日、岸田首相は首相官邸で記者会見を開き、定額減税や低所得世帯への現金給付を盛り込んだ17兆円規模の総合経済対策を閣議決定したと発表しました。このうち、定額減税は所得税と住民税を合わせて1人4万円で、納税者本人だけでなく、所得税や住民税を納めていない子どもなどの扶養家族も1人4万円です。2024年6月に実施されます。また、所得が低いため、住民税を課税されていない世帯には、早い市町村では2023年のうちから1世帯に7万円の給付が始まりました。

補足しておくと

 4月9日、日本銀行(日銀)の総裁が黒田東彦氏から植田和男氏に交代しました。黒田総裁は不景気のなかで物価が下がり続けるデフレーション(デフレ)から脱却するため、1年間に物価が2%上がる程度の緩やかなインフレーション(インフレ)を目標として、日銀が金利を下げ、通貨の流通量を増やす金融緩和政策を行ってきました。しかし、物価はほとんど上昇しない状態が続きました。ところが、2022年からは、金融緩和の効果だとはいえない要因で物価が上昇しています。こうした状況のなかでも、植田総裁は金融緩和を当面継続するとしていますが、その方針が変わり始めたともいわれています。日本経済の行方を占う意味でも植田総裁のかじ取りには注目です。

2NEWS CHECK 2024年7月に新紙幣を発行

渋沢栄一らがオモテ面に

 12月12日、日銀と財務省は新しい10000円札・5000円札・1000円札について、2024年7月3日に発行すると発表しました。財務省が紙幣のデザインと肖像を一新すると発表したのは「令和」の新元号が発表された直後の2019年4月のことでした。

 新紙幣のオモテ面の肖像は10000円札が渋沢栄一、5000円札が津田梅子、1000円札が北里柴三郎です。渋沢栄一は「日本資本主義の父」といわれる人で、銀行、製紙会社など500以上の企業にかかわりました。東京女学館や日本女子大学校(日本女子大学の前身)の創立も支援するなど、教育者としての一面もあります。津田梅子は1871年に岩倉具視らの使節団に同行して、満6歳で女子留学生としてアメリカに渡りました。帰国後は津田塾大学の前身である女子英学塾を設立しました。北里柴三郎は東京医学校(現在の東京大学医学部)を卒業後、ドイツに留学し、破傷風菌の純粋培養に世界で初めて成功して血清療法を確立しました。帰国後は慶應義塾大学医学部の設立にかかわり、初代医学部長を務めました。

 一方、新紙幣のウラ面に描かれるのは10000円札が東京駅丸の内駅舎、5000円札がフジの花、1000円札が葛飾北斎の「冨嶽三十六景」の一つである「神奈川沖浪裏」です。

補足しておくと

 新紙幣のこれまでと大きく異なるポイントは額面の文字です。漢数字より算用数字のほうが大きくなりました。これは外国人も使うことを意識したものといわれています。

 紙幣はおよそ20年ごとに一新されていますが、その理由の一つは最新の偽造防止技術を取り入れることです。今回は紙幣を傾けるとホログラムの肖像の向きが変わって見える「3Dホログラム」が世界で初めて採用されました。また、目の不自由な人が触って紙幣の種類を識別できるマークはこれまでも使われていましたが、新紙幣では種類ごとに位置を変えているため、より識別しやすくなります。

3NEWS CHECK 第20回統一地方選挙が実施

4年に一度、地方の首長らを選ぶ

 4月9日と23日の2回に分けて、第20回統一地方選挙の投票・開票が行われました。統一地方選挙とは4年に一度、地方の首長(地方公共団体の長)や議会の議員の選挙を同じ時期に全国一斉に行うものです。第1回は日本国憲法が施行される直前の1947年4月に行われました。首長や議員の任期はいずれも4年なので、それ以来、4年ごとに実施されています。

 20回目の今回は、まず4月9日に前半戦として九つの道府県知事、41の道府県議会議員、六つの政令指定都市の市長、17の政令指定都市の市議会議員を選ぶ選挙が行われました。続いて23日には後半戦として、その他の市町村と東京都の特別区で、首長と議会の議員を選ぶ選挙がそれぞれ実施されました。

 ただし、すべての市区町村で選挙があったわけではありません。首長は任期途中で死亡・辞職することがありますし、議会も解散されることがあり得ます。そのため、選挙の時期は徐々にずれていき、「統一率」は回を重ねるごとに低下しています。

憂慮される投票率の低さ

統一地方選挙(※)の投票率の推移

総務省調べ。 ※知事選挙と都道府県議会選挙

 今回の統一地方選挙のうち、41道府県の議会議員選挙のデータを見ると、投票率は41.85%という低さで、過去最低を更新しました。また、939選挙区のうち348選挙区で、立候補者が定数と同じで、無投票で当選者が決まりました。有権者には選ぶ機会さえ与えられなかったのです。なお、当選者のうち女性の割合は14.0%でした。これでも過去最高ですが、とても高いとはいえない数字です。

 投票率の低さは九つの知事選挙でも同様で、過去最低を更新する46.78%でした。その原因の一つは与党と主要な野党が同じ候補者を推す「相乗り」の選挙が多く、有権者にとっては事実上、選択肢がなかったことにあると考えられます。

 一方、4月23日に行われた市区町村議会議員選挙では、当選者に占める女性の割合が2割を超えました。東京都の特別区の区長選挙では北区・江東区・豊島区で女性が当選し、女性区長は23人中6人になりました。ただ、4月に当選した江東区長は11月に辞職しました。12月10日に出直し選挙が行われましたが、そこでも女性が当選したため、女性区長の数は6人で変わっていません。

 今回の統一地方選挙で注目されたのは、地域政党・大阪維新の会と国政政党・日本維新の会が躍進したことです。大阪府知事には大阪維新の会の吉村洋文氏が再選され、大阪市長にも大阪維新の会の新人が当選しました。近畿地方以外でも地方議会議員を大幅に増やし、全国政党になりつつあります。

補足しておくと

 投票率の低迷はその後も続いています。8月6日に行われた埼玉県知事選挙の投票率は23.76%で、全国でこれまでに行われた知事選挙で最も低くなりました。その原因の一つは与党と主要な野党が同じ候補者を推す「相乗り」の選挙だったということもあるでしょうが、東京都内に通勤しているため、地域との接点がなく、関心も薄い人が多いという大都市圏特有の事情もありそうです。こうした人々は、平日は地域にいないため、候補者の主張を知る機会もあまりないわけです。これでは地方自治の危機は深まるばかりです。選挙では立候補者の主張だけでなく、投票率にも注目するようにしましょう。

4NEWS CHECK 「こども家庭庁」が発足

子どもに関する政策を実行

※引き続き幼稚園、小中高校、大学を担当

 4月1日、子どもに関する政策の司令塔となる新しい官庁「こども家庭庁」が発足しました。内閣総理大臣(首相)に直属する内閣府の外局という位置づけです。政府はこども家庭庁を中核に、「こどもまんなか社会」の実現をめざすとしています。

 政府にはたくさんの省庁があり、子どもに関することでは、たとえば幼稚園を含む学校や、そこでのいじめ対策は文部科学省が、保育所、子育て支援、子どもの虐待防止は厚生労働省が、子どもの貧困対策は内閣府が、それぞれ所管(担当)していました。しかし、どの省庁が所管するかはっきりしない仕事もあれば、逆に複数の省庁が重複して所管する仕事もあります。それにもかかわらず、各省庁が横の連絡も調整も不十分なまま、ばらばらに仕事をするようでは無駄が生じて、政策を効率的に実行することが難しくなってしまいます。こうした「縦割り行政」の弊害はいろいろな分野の仕事で見られるのが現状です。そこで今回は、子どもに関する政策を実行する省庁を「こども家庭庁」にまとめたのです。

 また、同じ4月1日からは「こども基本法」も施行されました。1989年に国連総会で採択された「子どもの権利条約」に即した内容で、子どもや若者は自分に影響を与えるすべての事柄について、自由に意見を表明する権利があるとされています。しかし、日本ではこれまで、子どもや若者の意見を聞いて政策を決めるような体制にはなっていませんでした。

 こども家庭庁はそれを変えようとしています。子どもや若者が自分の意見を表明し、社会に参加できるようにするため、「こども若者★いけんぷらす」という取り組みも行いました。小1生から20代までの人なら誰でもウェブサイトから「ぷらすメンバー」に登録でき、対面やアンケートなどで出した意見が関係する省庁の会議の資料などに反映されるというものです。20代の若者からも意見を募ったのは、こども基本法では、子どもとは「心身の発達の過程にある者」と定義されており、必ずしも18歳未満に限られないからです。こども家庭庁はこのこども基本法の精神に基づき、常に子どもや若者の視点に立って仕事をすることが求められます。たとえば、病気や障害のある親・祖父母・兄弟姉妹などの介護や家事などを日常的に行っている子どもを指す「ヤングケアラー」への支援も、これからはより重要になるでしょう。

補足しておくと

 こども家庭庁は今後5年程度の子ども政策の方向性を定めた「こども大綱」の策定を進めていました。そのために諮問を受けて内容を検討していた「こども家庭審議会」は12月1日、答申を取りまとめてこども家庭庁に提出しました。そこでは子どもや若者の「最善の利益を図る」など六つの基本方針が示されています。まず、大綱がめざす「こどもまんなか社会」とは、すべての子どもや若者が身体的・精神的・社会的に幸せな状態で生活できる社会であるとしました。そのうえで、「誕生前から幼児期」「学童期・思春期」「青年期」といったライフステージ別に重要事項も示しています。たとえば、「学童期・思春期」では「質の高い公教育の再生」「居場所づくり」「いじめ防止」などを挙げました。

 この答申に基づいて、12月22日には「こども大綱」が閣議決定されました。掲げている理想はすばらしいものですが、看板倒れにならず、子どもの幸せを実現させられるかが今後は問われるでしょう。

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