さぴあ仕事カタログ
臨床心理士・公認心理師
松丸 未来さん
前のページでは、働く分野によって異なる仕事の内容や、臨床心理士になる方法などについて紹介しました。ここでは、心の問題を持つ若者と子どもへの心理支援にさまざまなかたちで携わり、スクールカウンセラーとしての経験も豊富な松丸未来さんに登場していただきます。仕事の内容ややりがいなどについてお聞きしました。
2校のスクールカウンセラーを務め
民間の専門機関にも所属
東京都のスクールカウンセラーに採用されている松丸未来さんは、臨床心理士として経験を積み、2019年には公認心理師の国家資格も取得しました。東京都の場合、スクールカウンセラーの勤務は、同じ学校に週1日・最長6年間という原則があります。2023年度は、公立中学校と私立小学校で週1回ずつスクールカウンセラーとして勤務し、世界中にある日本人学校のスクールカウンセラーもオンラインでしていました。さらに、心理療法を行う民間の専門機関にも所属し、会員になっている日本臨床心理士会と日本公認心理師協会で、ウクライナからの避難者に心理支援を行うプロジェクトにも携わっています。
そのうち公立中学校での主な仕事は、悩みを持つ生徒からの相談に対応することはもちろんですが、これに加え、学校で配布する「相談室だより」を書いたり、年度当初には中1を対象とした心に関する授業を行ったり、先生や保護者の方々からの依頼で不登校支援や怒りについてなどの研修会の講師を務めたりもします。前述したような学校以外の仕事にも携わり、自身の専門分野である行動療法や認知行動療法を広く知ってもらうための書籍の監修と執筆などもしているそうです。
不登校の生徒が学校に慣れるよう
相談室で一緒にゲームをすることも
中学校の相談室には、どんな悩みを持った生徒が訪れるのでしょうか。「友だちや部活の先輩とのトラブルに悩んでいるという生徒もいれば、先生のことばに傷ついた、親が理解してくれない、委員会で役割をうまく果たせない、などといった悩みを相談に来る生徒もいます」と松丸さん。ただ、生徒が自主的に相談に来る場合もありますが、松丸さんから声を掛けることも多いそうです。「保健室登校の生徒の場合、保健室を訪ねてさりげなく声を掛け、顔なじみになってから『相談室で話そうか?』と誘います。先生から不登校の生徒の相談があり、その生徒の家に電話をかけて話すこともあります」
不登校の生徒を学校に誘うときは、「相談室で10分、ゲームで遊ぶだけでいいから、学校に来てみようよ」といったことばを掛けることもあります。そして、実際にその生徒が来てくれたら、最初は何も聞かずに10分だけゲームをするという約束を守り、信頼関係を積み重ねてから、徐々に心に関する話をしていくそうです。
カウンセラーとして相談者と接するときは、“自分”というものを消し、その人が相談室に来ることをどう感じているのか、五感で感じ取ることを大切にしているという松丸さん。相談者は一人ひとり違うので、答えが一つではないところに、この仕事のやりがいがあると言います。「相手の話を耳と目と心でしっかりと聞き、やりとりをして気持ちを通じ合わせ、役立つ情報を持って帰ってもらうように努めています。そんなプロセスのなかで、最初は重い気持ちで話し始めた人が、相談室から帰るときには気持ちが軽くなって、ちょっと笑顔を見せてくれたりするとうれしくなりますね」
スクールカウンセラーに相談したことが
臨床心理士をめざすきっかけに
松丸さんは幼少期から大学までを海外で過ごしました。アメリカ、フランスでの滞在を経て、日本の中3に当たる学年からイギリスに転居し、語学学校で英語を学んでからアメリカンスクールに入りました。大学からは日本で学ぶという選択肢もありましたが、心理学はイギリスのほうが進んでいると考え、レディング大学心理学部に進学。しかし、仕事は日本でしたいと思ったので、卒業後は帰国して上智大学大学院文学研究科の心理学修士課程を修了し、臨床心理士の資格を取りました。
そもそも心理学に興味を持ったのは、海外生活を送るなかで友だちがほしい気持ちが高じて、人に対する関心も強くなり、人間を学問的に知りたいと考えるようになったためです。松丸さんは、イギリスの学校で先生から言われた理不尽なことばに傷つき、うまく英語で言い返せずに悔しい思いをしたことがあったので、そのやり場のない気持ちを何とかしたくて、スクールカウンセラーに相談しました。「すると、わたしの気持ちを吸い取るように話を聞いてくださり、それで気持ちがすっきりしたので、『こういう人になりたい』と思ったのです。それが、臨床心理士をめざすようになったきっかけです」
大学・大学院時代は、さまざまな心理療法、特に行動療法と認知行動療法の最先端を学びました。行動療法とは、問題となる症状を改善させるため、どのように行動を変えていけばいいかを本人と話し合い、実際に行動を変化させていくことで、より症状の少ない生活をめざす心理療法です。たとえばゲームに依存してしまった場合に、より害の少ない別の楽しみを見つけるといった方法が挙げられます。また、認知行動療法は、物事の受け取り方や考え方を変えることで気持ちを楽にする心理療法です。
臨床心理士の仕事に興味のある小学生の皆さんには、「違いを認め合うことを大切にしてください。また、興味を持ったことに積極的に挑戦して、いろいろな体験を積み重ねてください。カウンセラーになろうと思ったら、どんな体験も無駄になりません」と、アドバイスを送ってくれました。
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