さぴあ仕事カタログ
心理的な不調を抱える人々が、健康を取り戻せるよう、臨床心理学の知識や技法を用いて支援するのが臨床心理士の役割です。小・中学校や高校のスクールカウンセラーとしても、たくさんの臨床心理士が活躍しています。臨床心理士はどんな仕事をしていて、どうしたらなれるのでしょうか。日本臨床心理士会専務理事の奥村茉莉子さんにお聞きしました。
臨床心理士って
どんな仕事をしているの?
臨床心理士は、心の不調や悩みを抱える人たちを対象に、「臨床心理学」に基づく知識や技法を用いて問題の解決に取り組む専門職です。さらに、学校や職場などにおいて、心の教育に携わることもあります。
一般社団法人 日本臨床心理士会
専務理事 奥村 茉莉子 さん
「臨床心理学」とは、人と人との間で生まれる関係のあり方を対象とする学問で、心の不調を抱える人たちを、どのように理解し、支援していくかの指針となる理論や技法を学びます。支援する相手の性格や素質などの情報を集め、関係のあり方や支援方法などを考える際の資料にするのが特徴です。
臨床心理士は、心の不調を抱える人たちだけでなく、その家族からの相談も受けます。基本的には、どういう心理的な困り事を持っているのかを聞いて、その問題を一緒に考え、本人が自分で解決していけるようにサポートします。相談の内容は、学校や仕事に行きたくない、家にこもっている、食事がとれない、眠れない、人への不信感が強い、お酒・薬物・ゲームなどに依存して前向きに生活ができない、怒りっぽい、自分を好きになれない、子育てに不安がある、などさまざまです。外面的には見えない心の情報を浮き彫りにするため、検査や、質問票に記入してもらう心理テストを行い、問題解決のための対策に役立てることもあります。また、相手が子どものときは一緒に遊んで、気持ちの安定や人への信頼感を育てることもあります。
臨床心理士の活躍の場は?
大きく分けて次の5分野があり、分野ごとに特色のある心の支援活動を行っています。
(A)【教育分野】 学校にスクールカウンセラーとして配置されている臨床心理士は、本人や家族、先生から、不登校やいじめ、友だち関係などに関する問題の相談に応じます。教育相談所では、子育てに悩む人からの相談を受けたり、遊びを通して子どもに心の中を表現させる遊戯療法などを行ったりします。大学の学生相談では、学業や進路、友人関係、宗教勧誘の問題などに関する相談に乗り、ハラスメントにも対応します。 (B)【医療保健分野】 病院に心理職として勤務し、医師や看護師などと連携して、患者からの心理相談に応じたり、医師から依頼があった患者の心理療法を担当したりします。児童思春期病棟での相談や、心の傷による症状への心理支援、緩和ケアチームへの参加など、さまざまな場面で仕事があります。一方、保健所に勤務する心理職は、地域の人々から相談を受けたり、保健師と協力して精神障害のある人やその家族の相談に応じたりします。 (C)【福祉分野】 乳幼児から高齢者まで幅広く対応します。児童相談所の心理職として働く場合は、虐待問題に対応し、児童養護施設で子どもの育成に携わることもあります。発達障害のある子どもの生活を支援する放課後デイケアも仕事の場です。高齢者とその家族からの相談の対応、身体に障がいがある人たちへの支援も行っています。 (D)【司法・犯罪分野】 家庭裁判所の調査官、少年鑑別所や刑務所の心理職として働き、罪を犯した人の更生に必要な支援などを担当します。警察の心理職として、犯罪被害者への支援や、犯罪から更生するための集団療法などに取り組むこともあります。 (E)【産業・労働分野】 企業の相談室で仕事上のストレスに関する相談を受けたり、職場におけるハラスメントに対応したりします。また、働く人のための相談機関を自分で運営している臨床心理士もいます。
近年、人の心にはたらきかける必要のある社会課題は広がりつつあります。たとえば少子化問題、介護・生きがい・認知症など高齢者の問題、ひきこもりの増加、ギャンブル・薬物・宗教への依存、宗教2世問題など、多様な問題において臨床心理士が求められています。
臨床心理士になるには?
臨床心理士は、日本臨床心理士資格認定協会が認定する民間資格のため、この名称を使うには同協会が実施する試験に合格することが必要です。なお、この資格試験を受けるには、「指定の大学院または専門職大学院で、臨床心理士を養成するコースを修了すること」(基本モデル)という受験資格を取得しなければなりません。
大学院では、臨床心理学の歴史、カウンセリングや心理療法のさまざまな理論をはじめ、基本となる素質や人格などにかかわる心理査定法などを学びます。さらに、大学院に併設されている臨床心理センターで実習を行い、指導を受けながら地域の人々からの相談を実際に体験します。
臨床心理士に求められる資質は?
少なくとも、人と自分の内面に前向きに興味を持ち、自分の成長過程を否定せずに体験できていることが大事だと思います。心の窓をいろいろな方向に開ける人であることが望まれます。
将来、臨床心理士などの心理職に就きたいと思っている小学生の皆さんは、人を悲しませたり、傷つけたりすること以外でしたら、興味を持ったことには何でも取り組んでみましょう。良いと思ったことも、そうでないことも否定せずに感じてみましょう。どんな体験も必ず未来の自分の助けになり、人の気持ちの理解に役立ちます。
「公認心理師」は心理支援を行う「国家資格」で、2018年に1回目の試験が実施されました。心理支援の専門職には、長年、国家資格がない状態が続き、ここで紹介している「臨床心理士」をはじめとする民間資格を持つ専門職が、カウンセリングなどを行ってきました。「臨床心理士」と「公認心理師」の仕事の内容に違いはなく、現在は、両方の資格を持っている人もいれば、どちらかの資格のみを持っている人もいます。今後は、医療分野の心理職として働く場合は、公認心理師の資格が必要になると考えられます。
公認心理師の国家試験に合格する必要があります。この試験を受験するには、公認心理師養成のカリキュラムを持つ4年制大学(心理学科など)を卒業後、公認心理師養成カリキュラムを持つ大学院の修士課程を修了するか、認定された施設で2年以上の実務経験を積む必要があります。
「臨床心理士」の試験は、指定の大学院で定められたコースを修了すれば受験できますが、「公認心理師」の試験は、4年制大学においても公認心理師養成のカリキュラムで学んでいることが必要ですので、注意してください。
- 「第69回 臨床心理士」:
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