さぴあ職場見聞録
多摩動物公園
飼育展示課 南園第1係2班 主任
杉田 務さん
前半ページでは、動物園ではさまざまな職種の人が働いていることを紹介しました。ここでは、代表的な職種である飼育展示係の仕事を紹介するために、多摩動物公園で主にオオカミの飼育を担当している杉田務さんに登場していただきます。取材の対応や研究など幅広い仕事の内容や、やりがいなどをお聞きしました。
多摩動物公園
飼育展示課 南園第1係2班 主任
杉田 務さん
Qどんな仕事をしているの?
多摩動物公園には2頭のオスのオオカミがいます。その名前は、セロ(16歳)とネロ(17歳)。ともに高齢なので、食べる餌の量は日によって異なり、食べ方もゆっくりです
杉田 飼育展示係として、これまでにライオン、昆虫、日本産動物などの飼育を担当しました。現在は、アジアの動物(モウコノウマ、ユキヒョウ、レッサーパンダなど)の飼育をする7人の班の班長であると同時に、主にオオカミの飼育担当をしています。わたしはいろいろな種類の動物を担当してきましたが、なかにはゾウだけを専門に担当している人、鳥類を専門に担当している人などもいます。
飼育展示係の仕事は幅広く、担当動物の日々の世話に加え、メディアからインタビューを受けて情報を発信したり、イベントを企画したりすることもあります。わたしも以前、ホタルを担当していたときには、観察会を企画しました。
また、動物を守る「保全」という取り組みにも携わります。たとえば、多摩動物公園・上野動物園・井の頭自然文化園などを運営している東京動物園協会では、小笠原諸島のカタツムリの保全に取り組んでいます。絶滅が心配されるカタツムリを島内の飼育施設で繁殖させ、環境が整ったときに自然に返すために、好みの環境や食べ物を調べているのです。そうした取り組みに協力し、動物園でカタツムリを増やして展示したり、小笠原の施設に現状を伝えたりするのも仕事です。わたしはこのプロジェクトに最初から参加させてもらい、現地に行って生息状況を自分の目で確かめ、感じたことを来園されたお客さまに伝えていました。さらに、ホームページや機関誌に記事を書いたり、数年かけて得た研究成果をまとめて発表したりすることもあります。
多摩動物公園には2頭のオスのオオカミがいます。その名前は、セロ(16歳)とネロ(17歳)。ともに高齢なので、食べる餌の量は日によって異なり、食べ方もゆっくりです
Q仕事のやりがいは?
杉田 「動物を飼う」という自分の好きなことを仕事にできているので、日々充実しています。一方で、難しい仕事だと感じることも多々あります。動物は個体によって性格も違い、成長や老化の過程で状態も変わるため、そのときの状態に合わせてケアを変えなければなりません。そのため、次々と考えることが出てきます。臨機応変に対応することが求められますが、それがこの仕事の醍醐味であるともいえます。
オオカミの飼育を担当し始めてからは、まだ1年しかたっていません。この1年は、1頭1頭の性格や健康状態を把握することに努めました。今後、新しいオオカミが来て個体数が増えたら、群れのなかでの順位争いなど、行動の分析もしてみたいです。飼育展示係は、そうした研究や観察に大学の研究者と一緒に取り組むこともできる、おもしろい仕事だと思っています。
Qどうして飼育展示係になったの?
杉田 親も動物が好きだったので、小さいころから家でウサギやイヌを飼っていました。家の近くには緑豊かなエリアがあり、ホタルを見に行ったり、昆虫採集に夢中になったりした思い出もあります。中学・高校時代は、クラブ活動のサッカーに熱中していましたが、やはり自然や動物が好きで、カメや昆虫を飼ったりもしていました。そんなわたしが選んだ進路が、生物を専門とする学科がある帝京科学大学です。理工学部(現:生命環境学部)アニマルサイエンス学科に所属し、当時は動物園で実習ができるサークルがあったため、そこで週に1度、上野動物園の両生爬虫類館と多摩動物公園の昆虫園で飼育実習やイベントのお手伝いなどをしました。
しかし、動物園での飼育現場を実際に見てみると、現実的には飼育員になるのは難しいと感じました。なぜなら、幅広い分野の勉強が必要なうえ、採用が少ない狭き門だからです。そのため、普通の会社員になろうと考え、就職活動をして内定をもらいましたが、動物園の実習でお世話になった飼育員の方から、「飼育員の募集が出ている」という連絡をいただいたのです。一度きりの人生だから好きなことにチャレンジしてみようと思い、内定をもらった会社は辞退して、飼育係の採用試験を受けました。実はその試験では受からなかったのですが、数週間後にたまたま飼育員の欠員が出たので、嘱託職員として働けることになり、それから5年後に正職員になりました。
業務は8時30分から始まります。朝一番に現場に出向き、担当動物の状況や施設の点検を行い、9時30分までに動物を放飼場(展示場)に出すなどの開園準備をします。写真は夕方4時ごろに、放飼場から寝室に戻ったオオカミに餌を与えている杉田さん。食べる量や食べ方などを観察するだけでなく、寝室の掃除をしながら、寝わらや排せつ物の様子を観察して健康状態もチェック。寒さを感じている様子なら、寝わらを入れてヒーターを近くに置く、暑そうならクーラーをそばに置くなどの配慮をします
Q飼育展示係にはどんな能力が必要?
杉田 動物の様子から健康状態などに気づく力が重要です。また、説明文や研究論文を書くための文章力や、相手にわかりやすく伝えるコミュニケーション能力も必要。外国人のお客さまに説明したり、研究のために英語の文献を読んだりする機会もあるので、英語力も必要になります。さらに、動物にとって必要な栄養などを計算することもあるうえ、世界中の動物を飼育するので、世界の地理や気候に関する社会科的な知識も求められます。つまり、飼育展示係になるためにはどんな勉強も役に立つということなので、なりたいと思う小学生の皆さんは、いろいろな勉強に幅広く取り組んでおくといいと思います。
多摩動物公園では毎年、その年の干支にちなんだ企画展を行っています。今年は辰(竜)にちなみ、漢字で「土竜」と書くモグラの企画展を実施。モグラの生態や、多摩動物公園でのモグラ飼育の歴史などを展示しています(4月2日まで開催)
多摩動物公園
東京都日野市程久保7-1-1
TEL042-591-1611
開園時間9:30~17:00
休園日
水曜日(水曜日が国民の祝日や振替休日、都民の日の場合は、その翌日が休園日)
年末年始(12月29日~翌年1月1日)
入園料
一般600円、中学生200円、65歳以上300円(小学生以下、都内在住・在学の中学生は無料)
- 第36回/動物園:
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