この人に聞く
子どもの精神衛生上望ましいのは
保護者が機嫌よく過ごすこと
髙宮 立木さんが今の子どもたちに伝えたいことはありますか。
立木 やはり、平和の大切さでしょうか。わたしが幼いころは戦争のまっただ中で、食料も乏しい時代でしたから、幼稚園の先生からは「おなかがすいたら、お茶を飲みましょう」と言われていました。食べ物をねだってお母さんを困らせないように、というわけです。
また、立木写真館には、当時としては珍しくピアノがあり、文化サロンのような役割を担っていました。そのため、徳島海軍航空基地で編成された若い特攻隊員がよく訪れていたそうです。母が「特攻隊員は、みんなピアノが弾けるのよ」と言っていたのを思い出すにつけ、日本の優秀な若者が真っ先に戦争の犠牲になってしまったことに悔しさを感じます。今の時代に生きていても、そうやって戦争で命を落とした人々の思いを背負っていることを忘れてはならないと思います。
髙宮 ちなみに立木さんはどういう子どもだったのですか。
立木 学校や団体行動が苦手な子どもでした。学校の修学旅行のことはあまり覚えていませんが、友だちと2人で大阪に出掛けて見た「衛生博覧会」の光景は強烈に記憶に残っています。人体のホルマリン漬けや解剖模型などのグロテスクな展示は、少年時代のわたしにとっては衝撃的でした。それに比べると、今回撮影したような骨格標本は清潔でかっこよく、無駄がそぎ落とされた美を感じます。
髙宮 この写真展は、子どももたくさん見に来ると思います。どういうところに着目してほしいですか。
立木 館内の剝製や標本は、すべてが明るく、きれいに見えるように展示されているわけですが、それをひとたび写真として切り取ったときに、新しい見方が生まれることを知ってほしいですね。先輩から聞いた写真の心得のなかで、今も大切にしているのが「難しいものを易しく」「易しいものを深く」「深いものをおもしろく」の三か条です。それを実行するのはなかなか容易ではありませんが、子どもたちにとっては難しいものでも、「おもしろい」と感じてくれたらうれしいです。
髙宮 最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
立木 世の保護者の皆さんにお願いしたいのは、どうか機嫌よく過ごしてほしいということです。子どもの精神衛生上もっとも望ましいのは、保護者の機嫌がいいことです。「早く勉強しなさい」などと叱るのはもってのほかです。笑顔で子どもを見守ってもらいたいと思います。今の時代、お子さんも、保護者の方ともに、忙しい毎日を過ごしていらっしゃるでしょう。日常の喧噪とは切り離された博物館という空間で、写真や展示に触れて、疲れた心身をリフレッシュしてほしいですね。
髙宮 わたしも子どもと一緒に足を運びたいと思います。本日はありがとうございました。
立木さんが撮り下ろした東京大学総合研究博物館の学術標本50点前後を展示。「アート&サイエンス」の融合をコンセプトに、哺乳類や魚類の骨格標本、植物学や考古学の資料など、多様な標本が新たな視点から写真で表現されます。
「in Vitro? in Vivo!
―写真家立木義浩×東京大学」
10月26日(土)~2025年1月19日(日)
インターメディアテク(東京都千代田区丸の内2-7-2 KITTE2-3階)
11:00~18:00(金・土曜日は20:00まで開館)
月曜日(祝日の場合は翌日休館)、そのほか館が定める日
無料
主催:東京大学総合研究博物館
協賛:学校法人高宮学園代々木ゼミナール、株式会社ブラスト
協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社、アチーブメント株式会社、立木義浩事務所
企画:東京大学総合研究博物館インターメディアテク研究部門、心に響く会社合同会社
立木さんが撮り下ろした東京大学総合研究博物館の学術標本50点前後を展示。「アート&サイエンス」の融合をコンセプトに、哺乳類や魚類の骨格標本、植物学や考古学の資料など、多様な標本が新たな視点から写真で表現されます。
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