この人に聞く
2025年度から「国際教養コース」を新設
「総合知」と高大連携プログラムで
汎用性の高いサイエンスの力を育てる
山脇学園中学校・高等学校は、2023年に創立120周年を迎えた伝統ある女子の中高一貫校です。2021年から中学に領域横断型の授業「総合知」を導入し、来年度からは高校に「国際教養コース」を新設するなど、さまざまな教育改革に取り組んでいます。社会に役立つサイエンススキルと、生徒の「志」を育てる具体的な教育内容について、校長の西川史子先生、教務部長・高校教頭補佐の中田成昭先生、中学教頭補佐の松本健一郎先生に伺いました。
二つの“サイエンス”を追求し
大学や社会で役立つスキルを磨く
広野 最近は「男子は理系」「女子は文系」というジェンダーバイアスがずいぶん薄れ、理系を志望する女子生徒が増えてきたように感じます。貴校ではいかがですか。
西川 本校でも、理系志望者は年々増加傾向にあり、2024年3月の卒業生は、4年制以上の大学に進学した者のうち5%が農・水産・獣医系、10%が理工系、16%が医歯薬保健系に進んでいます。つまり、全体の約3割が理系志望ということです。近い将来には、これを5割に伸ばすのが本校の目標です。
広野 2024年度から高校がスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されました。これによって、今後ますます理系志望者が増えそうですね。
西川 はい。先日、SSHの運営指導員の方が、生徒に向けて“サイエンスマインド”というテーマでお話ししてくださいました。講演後に寄せられたアンケートを見ると、「どのような姿勢で学べばいいですか」「こういう分野に興味があるのですが、どの学問をめざせばよいでしょうか」など、生徒たちがとても主体的な姿勢を持っていることに驚かされました。研究や開発について「自分とは関係ない遠い世界の話」ではなく、「もしかしたら自分にもできるかもしれない」という、当事者意識を持って受け止めてくれたことをとてもうれしく思います。SSHの指定校になったことで、大学や研究機関の力を借りて、これまで以上に深い学びが実現可能になります。生徒たちには積極的に一流のステージを見せたいと考えています。
広野 生徒たちの「もっと知りたい」「やってみたい」という気持ちは、潜在能力を引き出すための大きな原動力になります。たくさんの刺激を与えることはとても大切ですね。
西川 本校のサイエンス教育は、「女子だから」「小学校のときに国語が得意だったから」というような先入観をリセットするところから始まります。漠然とした理系科目への苦手意識が、生徒たちの可能性を狭めることがあってはならないからです。
そもそも「サイエンス」ということばには、二つの意味があると思っています。一つは、数学や理科などの学問を指す、狭義のサイエンス。そしてもう一つは、自分のなかにあるいくつかの知識をつなぎ合わせて問題解決を図る、汎用的な力としてのサイエンスです。将来、どの学問を学ぶにしろ、どんな職業に就くにしろ、後者のサイエンススキルは必要です。そのスキルと、生徒それぞれが持つ「志」が融合したとき、彼女たちの才能は大きく花開くと考えています。ちなみに「志」とは、本校が大切にしている概念で、“自己実現のための目標”と“他者や社会への貢献”の二つの意味を持たせています。
他領域の知識をつなぎ合わせ
生徒の知的好奇心を刺激する「総合知」
広野 学びの土台となるサイエンススキルを身につけるために、どんなことに取り組んでいらっしゃるのでしょうか。
西川 中学に「総合知」というカリキュラムを敷いています。ここでは、自然科学・人文科学・社会科学の各分野の視点を融合した領域横断型の独自科目を設置して、社会での活躍につながる学力を実践的に育んでいます。
松本 たとえば、英語の「イングリッシュアイランドステイ(EIS)」では、ネイティブの教員と気軽にコミュニケーションが楽しめる校内施設「イングリッシュアイランド」を活用し、PBL(課題解決)型の学習スタイルで、4技能5領域の力を伸ばしていきます。たとえば、文法の授業で未来形を習ったら、その語法を使って修学旅行の計画を立ててみる、という形です。実際の使用シーンを想定しながらスピーキングの練習をして、知識をしっかり定着させていきます。
また、国語の「知の技法」という授業では、文章のほかにも絵画や音楽を鑑賞した後、その作品について自分のことばで相手にわかりやすく伝えるトレーニングを行います。ここで大切なのは、根拠となる事実を示すことです。自分の気持ちを「なんとなく」ではなく、「こういう事実からこう思った」と論理的に説明する力を育みます。
中3対象の科学研究チャレンジプログラム研修では、屋久島でのフィールドワークなどを体験しました
広野 根拠を示し、自分の意見を論理的に主張できるかどうかは、まさに「サイエンス」の基本です。生徒たちにとっては大きな学びになりますね。
中田 一方、理科の「サイエンティスト」という授業では、実験器具の使い方や実験方法を学ぶほか、仮説を立て、実際に検証をし、その結果を分析するという一連の思考サイクルを訓練します。また、「探究基礎」では、データサイエンスを学び、データの処理方法や、数字を正しく分析するスキルを養います。さらに高度な学びとして、科学倫理を扱う「ELSI」という授業があります。たとえば、「AIに倫理判断を任せることの問題点」「培養肉技術の実用化の是非」など、科学の発達に伴うさまざまな問題に対し、生徒たちはディスカッションを通して批判的に考える能力を磨いていきます。
広野 どれも生徒の知的好奇心を刺激する魅力的な授業ばかりですね。実際に自分たちの手でロボットを製作するような授業も行われていると聞きました。
松本 はい。「技術」の授業では、3Dプリンターやレーザーカッターを駆使しながら、オリジナルのロボットを製作し、校内ロボットコンテストでその性能を競います。冒頭の話にも共通しますが、ロボット製作と聞くと、どうしても「男子がやること」というイメージを持っている女子生徒が少なくありません。しかし、本校では、その先入観を捨てて、一度触れてみることが大切だと指導しています。実際に触れてみると、「おもしろい」と言って、夢中で取り組む生徒がたくさんいます。各パーツの少しの誤差が後の工程に響くので、生徒たちは細かい寸法にこだわって真剣にものづくりをしています。
西川 ロボコン本番では、デコレーションをした自分のロボットに名前をつけて、「○○子、がんばれー!」と声援を送っている生徒がいました。男子校や高専の大会には見られない光景だったので新鮮でした。根拠のないジェンダーバイアスはなくしていかなくてはいけませんが、女子ならではの視点や楽しみ方は、今後も尊重していきたいと思っています。
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