この人に聞く
年内に新校舎も竣工予定
今春の大学入試で高校入学1期生が躍進
多様性に富む環境でさらなる高みをめざす
広尾学園中学校・高等学校と教育連携を結び、共学の中高一貫校として2021年に開校した広尾学園小石川中学校・高等学校。この春に卒業した高校入学1期生は、国公立大学をはじめ、早慶上理、GMARCHなどの難関大学に多数合格しています。開校から4年目を迎え、生徒たちはどのような学校生活を送っているのでしょうか。教育内容や具体的な取り組みについて、校長の松尾廣茂先生に伺いました。
難関大学や海外大学に多数合格
大切なのはあきらめずに挑戦する姿勢
広野 この春の大学合格実績を拝見しました。卒業生124人のうち、国公立大学に9人、早慶上理に28人、GMARCHに70人という好実績に加え、医学部医学科にも合格者が出ていますね。
松尾 今年の卒業生は、開校初年度の高校入試で入学してきた学年です。教員が一丸となり「あきらめずに最後までがんばろう」と言い続け、生徒たちも粘り強く努力をし続けた結果、高2〜3で自学自習の習慣がつき、一気に伸びました。
進路指導で特に気をつけたのは、自分の弱みではなく強みに目を向けるように意識づけたことです。受験校を「目標校」「相応校」「安全校」に分けて面談を重ね、目標をすり合わせながら受験戦略を立ててきました。学校としても、生徒のモチベーションを上げるためのさまざまな仕掛けは用意しましたが、最終的には一人ひとりが「自分ががんばらなくては」とみずから気づき、発奮してくれたことが大きかったと思います。そうした生徒の様子からは、わたしが在籍していた当時の広尾学園と同様に、学校が大きく飛躍する直前の変化の兆しのようなものを感じます。
広野 今後のさらなる躍進を予感させる、幸先の良いスタートになりましたね。
松尾 わたしが感心しているのは、合格を得たにもかかわらず、さらに上の大学をめざして次年度に再チャレンジをすると決めた生徒がいたことです。本校では、「挑戦する気持ちが大事だ」と常に言い続けています。自分の夢に向かって、最後まであきらめない気持ちを持ち続けている姿に頼もしさを覚えると同時に、後輩たちもそれに続いてほしいと思っています。
広野 高校3年間の教育でここまでの結果が出るということは、中高一貫生が卒業する3年後は、さらなる実績が期待できますね。海外大学に進学された卒業生も多いのですか。
松尾 はい。海外大学は延べ20人の合格が出ました。そのうちの1人は本科コースの生徒です。インターナショナルコースの生徒に刺激を受けたことが、海外大学挑戦の大きなきっかけになったようです。
広野 さまざまなバックグラウンドを持つ子どもたちが集まる環境が、生徒の可能性を広げているのですね。
帰国生と国内生が互いに助け合う
インターナショナルコース
SGの生徒も全編英語でプレゼンテーションを行ういちょう祭の研究発表は、英語力向上の成果を披露する良い機会です
広野 あらためて、本科コースとインターナショナルコースの2コース制について教えてください。
松尾 本校では、国内難関大学進学をめざす本科コースを1クラス、海外大学受験をめざすインターナショナルコースを2クラス設けています。インターナショナルコースは、帰国生を中心とした「アドバンストグループ(AG)」と、基礎から英語力を伸ばす「スタンダードグループ(SG)」が同じクラスで活動します。SGの生徒はAGの生徒に英語のわからないところを、AGの生徒はSGの生徒に日本語のわからないところを教えてもらうなど、互いに自分の得意な分野を生かして学び合う光景がよく見られます。
広野 SGの受験を考えていらっしゃる保護者のなかには、貴校の英語環境についていけるかどうか、不安を持たれる方も多いようです。海外経験がなくても問題ないのでしょうか。
松尾 日本人と外国人の2人担任制ですので、わからないことがあれば日本人教員が対応します。また、海外経験や本格的な英語学習経験がない生徒でも、授業や学校生活のなかで日常的に英語に触れることで、ほぼ全員が中学卒業段階で英検®2級を取得しています。毎朝10分間の英会話の授業があることも、SGの英語力が飛躍的に伸びる一因になっていると思います。校舎のなかに外国人の教員が20人以上いますので、休み時間や廊下ですれ違うときに、外国人と気軽に話ができる環境も、生徒の英語力を伸ばしている要因の一つだと思います。
広野 帰国生の生徒たちに見られる特徴はありますか。
松尾 育ってきた国や地域はばらばらですが、共通するのは総じて積極的で、自己主張が強いということです。こちらから質問を投げ掛けると、物おじせず、勢いよく手を挙げて答えますし、自分の意見をオープンにすることに対して何ら抵抗がありません。その点、日本育ちの生徒は真逆です。自己表現が苦手で、人前で間違えることをとても怖がります。しかし、日本育ちの生徒も帰国生の良いところを徐々にまねし始めるので、中3になると入学時とはまるで別人のように変わるケースもあります。そういう点で、日本の小学校を卒業したばかりの12歳が、帰国生から受ける刺激というのは、われわれが想像する以上に大きいのではないかと思います。
※英検®は、公益財団法人 日本英語検定協会の登録商標です。
ふだんの授業や学校行事のなかで
仲間と一緒に「共生」の力を磨く
4月に行う新入生オリエンテーション合宿では、「自律」と「共生」の教育理念を理解し、自己目標とクラス目標を発表します
広野 授業のスタイルも工夫されているのですか。
松尾 どの教科でもプレゼンテーションを多く取り入れ、アウトプットの機会を増やすようにしています。たとえば数学では、ある程度の事前学習を済ませたあとは、その内容について議論を交わす「反転学習」を取り入れています。
広野 自分の意見をわかりやすく表現する、意見の異なる相手と議論を交わすというのは、日本人がいちばん苦手とするスキルですから、授業以外のところでも役に立ちそうです。
松尾 日本では、授業中は静かに先生の話を聞くことが模範的とされますが、海外はとにかく発言重視です。本校の授業では基本事項の説明もしますが、議論したり発表したりするなかで、応用力を身につけていきます。
広野 バックグラウンドの違いから、帰国生と日本育ちの生徒の間で軋轢が生まれるといったことはないのでしょうか。
松尾 中高時代は相手を深く理解することを日々学ぶ時期だと思います。本校の教育理念は「自律と共生」です。特に「共生」については重視しており、学校行事のなかにも、相手を理解し、尊重することの大切さを学ぶイベントを多く設けています。たとえば、中学生は入学してすぐ2泊3日のオリエンテーション合宿に出掛けます。ここでは、チーム対抗のスポーツアクティビティーや、自分の将来の夢を発表する「夢宣言」を通して、心を裸にし、友だちの目標を一緒に応援できるような「共生」の力を磨いていくことを目的としています。
わたしは生徒たちに「君たちが広尾学園小石川中学校のその年度の入学生であるという事実は、生涯変わることはない。隣にいる仲間を大事にしよう」とよく言っています。いくら教員が「挑戦が大事だ」と言い続けたところで、独りでがんばれることには限界があります。友だちや仲間の支えがあるからこそ乗り越えられる壁があるということを、特に強く伝えていきたいと考えているのです。
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