受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

<楽しみながら勉強できる力>を培う子育て法

「好きなこと」がある子どもは
どんな環境の下でも伸びていく

落合 ひろみさんOchiai Hiromi

(おちあい ひろみ)東京生まれ。共立女子大学卒業後、複数の外資系航空会社で秘書、CAとして勤務。その後、大手代理店と契約し、ロサンゼルスを拠点に数々の音楽番組を手掛ける。テレビ番組制作会社を設立し、映画やドラマ、音楽番組を制作。現在は日米婦人会の活動に注力し、国際交流を推進している。夫は国際政治ジャーナリスト落合信彦氏。長男は筑波大学図書館情報メディア系の准教授で、メディアアーティストの落合陽一氏。著書に『「好き」を一生の「強み」に変える育て方』(サンマーク出版)。

 「子どもの個性を伸ばしながら、学ぶ力を身につけさせるにはどうすればいいの?」。そんな保護者の疑問に答えるために、メディアアーティスト、研究者、起業家として活躍する落合陽一さんと、母親である落合ひろみさんが『「好き」を一生の「強み」に変える育て方』(サンマーク出版)を上梓しました。今回は、落合ひろみさんに登場していただき、子どもを伸び伸びと育て、勉強好きにするポイントについて伺いました。

たくさんの大人に見守られて
伸び伸びと自由に過ごす

広野 ご子息の落合陽一さんは、メディアアーティストとして、研究者として活躍し、デジタル技術と環境を融合させて人と物質とのかかわり方を変え、新しい文化的価値を創造する「デジタルネイチャー(計算機自然)」という概念を提唱されています。こうした自由で個性的な発想はどのようにして育まれたのか、大いに気になるところです。まずは、幼少期の家庭環境などについてお話しください。

落合 陽一は、大家族で育ちました。ただ、周りの大人が手取り足取りして育てていたわけではありません。わたしたち夫婦はもちろん、同居していたわたしの両親も妹も、みんなが仕事を持っていたため、それぞれができる範囲で陽一にかかわっていたのです。ですから、本人はかなり自由に過ごしていました。

広野 育児を分担できると、大人の側も肩の力を抜いて子どもと向き合えるというメリットがありますね。

落合 陽一にとっては、特に祖父が話しやすい相手だったようです。祖父が陽一のことを「目の中に入れても痛くない」と言っていたものですから、「ぼくは、おじいちゃんのお目々に入りたい」などと言って、しょっちゅう甘えていました。子どものときに、いろいろな大人から愛情をたっぷり受けたことによって、生きる力を蓄えられたのだと思います。

 また、祖父母が積極的に子育てにかかわってくれると、その世代ならではの経験や知恵に触れられ、教えられたり、励まされたりすることがたくさんあります。そういう意味でも、家族の協力はわたしにとって大きなプラスになりました。

広野 同居はしていなくても、親戚やご近所と交流して、多くの大人に育ててもらうという気持ちでいると、親も子も過ごしやすくなりそうです。

 周りの大人たちに見守られて伸び伸びと暮らしていた陽一さんですが、どんなことに夢中でしたか。

落合 工具箱の中のドライバーがお気に入りで、時計や計算機など、家中のいろいろなものを分解していました。そのことについても「あとでまた組み立てておくのよ」と言って、基本的には好きにさせていました。ただ、テレビと電話機だけは元に戻らなかったら家族みんなが困るから、「それだけはやめてね」と止めていましたね(笑)。

子どもの「なぜ」につき合い
好奇心・探究心を刺激する


サピックス教育事業本部
本部長
広野 雅明

広野 好奇心の旺盛な陽一さんに対して、どのような接し方を心がけていらっしゃいましたか。

落合 陽一は機械だけでなく生き物も大好きで、見るもの触るもの何もかもを珍しがり、「これ、なぁに」をこちらが怖くなるくらい連発していました。うまく名前を答えられても、次は「どうしてそうなるの」と問い掛けてきます。そこで、家に動物図鑑や植物図鑑をそろえて、一緒になって調べたり、実際にピラニアやマダガスカルゴキブリといった生き物を飼ったりしました。幼いころの「これなに期」「どうして期」に親がしっかりとつき合ったことで、研究者としての素地が養われたのかもしれません。

広野 調べること、知ることを親子で楽しむのは、学びそのものを好きになる近道だと思います。ただし、調べるときはIT機器に頼りすぎないことも大切です。インターネットで検索するだけでなく、ときには図鑑や事典を広げたほうが周辺知識も目に入り、興味・関心がさらに広がります。お目当ての虫のそばに載っているほかの虫の特徴を見ていると、生物のグループ分けなどにも気づくことがありますからね。

落合 おっしゃるとおりです。英語についても同様で、翻訳ソフトで和訳・英訳を調べるよりも、大きな辞書を広げたほうがたくさんの例文に触れられて、シチュエーションに合った文章を作ることができます。わたしはもともと英語が専門でしたので、検索して細切れの知識を得る勉強法に対しては、「ことばにはもっと膨らみがあるのに…」と残念に思います。

広野 父親である信彦さんは、どのように接していらっしゃったのですか。

落合 陽一が小学生のころから子ども扱いせず、対等につき合うようなところがありました。あるとき、父子でけんかになり、夫が「哲学の本を読め。おれはニーチェを読まないやつとは口をきかない」などと吹っ掛けて、それをきっかけに陽一が哲学書を読むようになったこともありました。

広野 大人から対等に扱われると、話題についていこうとして、さらに知的好奇心が刺激されるのでしょうね。サピックスでも6年生になって公民を学ぶと、大人とニュースの話ができるようになって、勉強が一層楽しくなるようです。

『「好き」を一生の「強み」に
変える育て方』

落合 ひろみ、落合 陽一 著
サンマーク出版 刊
1,650円(税込)

 子どもの個性を伸ばしたいと思う一方で、早期化する受験にどう対応すべきかと悩む保護者は多いようです。そこで本書では、落合ひろみさんと陽一さん親子のエピソードや科学的なエビデンスも含めて、「才能を伸ばす」子育て法を紹介。学歴か才能か、ほめるか叱るかなど、子育ての悩みにヒントを与えてくれる一冊です。

25年9月号 子育てインタビュー:
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