子育てインタビュー
「数学のお兄さん」からのアドバイス
実物に触れ、ときには回り道して
数や図形への理解を深めよう

横山 明日希さんYokoyama Asuki
(よこやま あすき)●早稲田大学大学院数学応用数理専攻終了(理学修士)。株式会社math channel代表取締役。公益財団法人日本数学検定協会認定幼児さんすうシニアインストラクター。日本お笑い数学協会副会長。算数・数学の楽しさを広く世の中に伝えるために、「数学のお兄さん」として多様な活動を展開。2017年、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)主催のサイエンスアゴラにおいて、サイエンスアゴラ賞を受賞。著書に『文系もハマる数学』(青春出版社)、『マンガ 遊んでいるうちに得意になる算数パズル144』(かんき出版)など。
「子どもを算数好きにするにはどうすればよいのか」。そんな悩みをもつ保護者は少なくないようです。そこで今回は、算数・数学のおもしろさを伝えるために、「数学のお兄さん」として執筆、講演、TV出演、イベント開催など多彩な活動を展開している数学教育者の横山明日希さんにインタビュー。小学校低学年のうちに算数・数学の基礎力を定着させることの重要性やその具体的な方法について伺いました。
実物教材を活用して
算数のおもしろさを伝える
広野 横山さんは株式会社math channelの代表取締役を務め、算数教室も開いているそうですね。
横山 渋谷区・代々木を拠点に、オンラインとリアル、両方の方式で算数教室を運営しています。中学受験を意識しないで、低学年ではパズルなどの実物をたくさん使いながら体験的に算数に触れ、無理なく概念を理解していけるようなプログラムにしています。3年生以上の子どもには、自分の興味があることと算数を絡めて学んだり、自分の興味のある算数の分野を深掘りしたりするといった、探究的な学びを体験できるプログラムを用意しています。また、毎週通えない子どものために、イベントや出張授業も開催しています。
広野 算数教育には、公式や解法だけを暗記させて効率的に解くことをめざすもの、あるいは原理から考えさせるものなど、いろいろな方向性がありますが、横山さんの教室は後者を重視されているのでしょうか。
横山 効率化された学習方法と、体験や興味を通じて学んでいく方法については、それぞれに合う子もいれば合わない子もいますから、どちらも大事にしたいところです。ただ、効率的に多くのことを学ぶ方向については、学校や多くの塾・予備校が非常に洗練されたカリキュラムを実施しています。だからこそ、わたしたちはこれまでなかなかアプローチされてこなかった、アナログ的な学びを発信していきたいという思いがあります。
わたしたちが特に大事にしているのが、先ほども少し触れた、個々の興味を算数で体現することと、STEAM教育的な活動のなかでのアウトプットです。実物を使った図形パズルも、ただ課題に挑戦するだけではなく、自分でパズルの問題を出して周りの人に解いてもらうということも行います。みんなで合わせてさいころを1万回以上振って、確率について考えるプログラムもあります。いわば、「自分のつくってみたいものを算数で表現する」という授業を展開しているのです。
広野 幼いころから実物を通して算数に触れる体験は、後々生きていくのでしょうね。
横山 「どういうモノがあれば、小学校高学年で扱う問題を1年生でも解けるようになるのか」。そういう発想で実物教材を考えています。たとえば、高学年でも苦手な子が多い立方体の切断面の問題も、透明な立方体に色水を入れた教材があれば、「この3点を結ぶように傾けると、正三角形が作れるんだな」と、どの学年の子どもでもすんなり理解できます。水の量を変えて、中学で扱う体積の問題に発展させることもできます。
自由に発想し、図形感覚を養う
『サピックス式タングラム・ハート』
サピックス教育事業本部
本部長
広野 雅明
広野 実物に触れながら図形感覚を養う重要性はわれわれも感じていて、今年2月に幻冬舎から『サピックス式タングラム・ハート』を発刊することになりました。これはハート形を10個に分割したパズルで、ピースを組み合わせてさまざまな図形を作ることができるという教材です。実は今回、その問題編を横山さんに担当していただきました。いろいろと苦労をおかけしたと思いますが、作問時はどのようなことを意識されましたか。
横山 このタングラム・ハートは、ピースに絶妙な厚みがあって立体も作れるなど、既存のパズルよりも自由度が高く、想像力をかき立てられる点が特長です。子どもたちがどのように取り組むのか楽しみです。ですから、テキスト部分も単にパズルの問題として解くのではなく、そのなかに自由でおもしろい世界が広がっていて、「好きにやっていいんだ」という意識を持って取り組めるように、いろいろな仕掛けを工夫しました。導入用のポスターは、ストーリーに沿って冒険をしていくようなシチュエーションになっていて、遊んでいてわくわくしますよ。そこから本編のワークブックに入り、徐々に難しい問題にステップアップしていく構成になっています。
広野 導入部は保護者の方が一緒に取り組み、お子さんを冒険の世界に引き込んでいただけるといいですね。問題にも単なるドリルとして向き合うのではなく、「このパーツの向きを変えるとお姫様のドレスみたい」などと自由に発想し、楽しみながらチャレンジしてほしいと思います。
横山 図形を反転させたり向きを変えたりすると、どのように見えるのかを知っておくと、中学受験などで出題される、複雑な複合図形の面積の求め方なども理解しやすくなることでしょう。
広野 「立体図形はセンスがものをいう」と多くの方が思い込んでいるようですが、実はそうではありません。確かに、抽象的な説明や黒板や紙に描かれた図だけですっと理解できる子どももいますが、大半の子は実物に触れながら試行錯誤する経験や訓練を通じて、空間感覚を育んでいきます。保護者の方には、そのことを知ったうえで、お子さんがこうした教材を使って手を動かし、あれこれ考えた末に「わかった!」と納得する瞬間を待っていただきたいと思います。
『10歳からの確率やってみた!
おもしろいほどキミの 直感 を裏切る!』
横山明日希 著
くもん出版 刊
1,650円(税込)
日常生活のなかで起こる出来事には、「どのくらい起こりやすいか」を数字で表した「確率」が大きくかかわっています。そんな確率について、ナゾの鳥・Pちゃんや小学生のマイとダイスケと一緒に、マンガと会話形式で考える本です。クイズに答えたり、手を動かしたりしながら確率を体感するうちに、いつの間にか確率のことが好きになります。
『つい、人に出したくなる
おもしろ算数クイズ』
横山明日希 著
文響社 刊
1,595円(税込)
「マッチ棒6本を使って正三角形をぴったり四つ作るには?」など、小学生から大人まで夢中になってしまう算数クイズがいっぱい。50問のクイズが、レベル1〜3の難易度順、「論理」「発想」「図形」「工夫計算」「注意計算」のジャンル別にまとめられています。どれもシンプルで覚えやすい問題なので、友だちとも一緒に楽しめます。
- 25年3月号 子育てインタビュー:
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