受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

中学受験に詳しい「心の専門家」がアドバイス

誰かと比べるのではなく
わが子自身の成長に目を向けて

 今回登場していただいたのは、臨床心理士として活動する傍ら、今年6月に『中学受験 合格メンタルの作り方』(日本能率協会マネジメントセンター)を上梓された真田涼さんです。なぜ、真田さんは中学受験をテーマに取り上げたのでしょうか。「心の問題」を扱う専門家であり、ご自身がお子さんの中学受験を経験された保護者でもある真田さんに、執筆の動機や中学受験で合格を勝ち取るために必要なメンタルケアなどについてお聞きしました。

一日の締めくくりは
「できたね」のことばで

広野 著書でも紹介されていますが、保護者の方々へのアドバイスを、学年ごとにお願いします。

真田 新4年生から通塾を始めるご家庭が多いかと思います。急に難しい勉強が始まって戸惑うでしょうが、まずは学ぶ楽しさを知っていただきたいものです。大切なのは保護者も一緒に楽しむことです。たとえば、国語の問題文には楽しそうな題材がたくさんあります。興味をひかれたら、題材になった本を買って親子で読んでみるのもいいですね。

広野 子どもは楽しいもの、好きなものに夢中で取り組みます。この時期は成績に一喜一憂せず、勉強を楽しめるような環境をつくることを、わたしもお勧めします。勉強を教えるのは塾にお任せいただき、ご家庭では子どもが何を学んでいるのかを把握しながら、楽しくサポートするように意識してみてください。たとえば、いろいろな所を旅行し、楽しみながら地理を学ぶなどという体験をさせてあげるのもいいですね。

真田 わが家では、公園でセミの羽化を観察するイベントに参加していました。都市部でも、自治体や博物館などが自然観察教室を開催したりしています。保護者の方は、そういった情報を集めたりするのも楽しいですよ。

広野 勉強が本格的になってくる5年生では、どのように過ごしたらいいでしょうか。

真田 子どもが自分の強みを見つけられるように意識してはどうでしょうか。全体の成績を底上げしてくれるような科目や分野があると、自信につながると思います。

広野 5年生になると、子どもたちのエンジンがかかってきます。自分が一生懸命がんばっていても、周りもがんばるので、相対評価としての成績はなかなか上がりません。でも、絶対評価で見ていくと、先月の自分よりは確実に力がついているはずです。算数の「基礎力トレーニング」で、前は必ず二つ間違えていたけれど、今は一つになったとか、そういった成長を保護者はしっかりと評価してあげることが大切です。

真田 6年生になったら、5年生で身につけた武器を発揮できる学校を探しましょう。たとえば、算数が得意なら算数の配点が高い学校を、国語で記述が得意なら記述の配点が高い学校を志望校に選ぶと、受験勉強はもちろんのこと、入学後の学校生活も楽しいものになるはずです。

広野 入試問題の形式や傾向などは、その学校の教育理念と直結しているケースが多いので、学校選びの際には特に注目していただきたいですね。

 次に、年齢をさかのぼって、就学前から低学年児の保護者の方にアドバイスはありますか。

真田 この時期の子どもにとって大事なのは、自己肯定感を育てることです。小さなころから習い事や勉強に取り組むのはいいのですが、保護者が一生懸命になるあまり、ほかの子と比べて、「あなたはここがだめ」などと指摘し過ぎると、自己肯定感の発達を阻害する可能性があります。そうすると、何かにチャレンジしようという気持ちがなくなり、力が伸びにくくなってしまいます。

 就学前や低学年児の保護者の方には、「できないことがあっても、できた問題まで戻り、『できたね』ということばで、その日を終わらせましょう」と伝えています。基本は、「誰かと比べないこと」です。比べるなら、その子自身と比べてほしいですね。広野先生が先ほどおっしゃったように、「昨日の自分よりも成長したのなら、すばらしい」と子どもに伝えるのです。特に就学前は、個人ごとに発達の度合いが大きく異なる時期です。目の前の成績だけを切り取って「遅れている」などと悩まず、長いスパンで見ていただけたらと思います。

反抗期の子どもには
自己決定権を持たせることが大切

広野 高学年になってくると、反抗期に入る子どもも多くいます。保護者はどう対応すればよいのでしょうか。

真田 押さえつけて言うことを聞かせようとするよりも、選択肢を提示して、本人に自己決定権を持たせて選ぶ機会をつくることが大切です。たとえば、「勉強、どこでやる?」でもいいですね。うちの子どもの場合は、人目があると反抗的な気持ちが落ち着くようだったので、よく「カフェで勉強する? それとも家でする?」と選ばせていました。

広野 受験本番が近づいてくると、成績が思うように上がらず、思い詰めるご家庭も見受けられるようになります。そうした保護者の方にアドバイスはありますか。

真田 うまくいかない時期があると、大人は「思い切って環境を変えたらいいのでは」と考えがちです。たとえば、塾やテキストを替えたくなるかもしれません。ただ、6年生はもはやその時期ではないと思います。新しい環境に慣れるのにはある程度時間がかかりますし、もしその環境が本人に合わなかったら取り返しがつきません。どの子にも必ず成績の波はありますから、成績が下がったタイミングであわてるのではなく、早めに塾の先生などに相談しながら、対策を立てることが大切です。

 また、保護者の方は成績のことばかりを考えるのではなく、ストレッチや音楽、食事など、子どもが集中したりリラックスしたりしやすい方法を探すことにも目を向けてください。拙著には「ヨガインストラクターMiho」のコラムも設けていますので、参考になさってはいかがでしょうか。

広野 最後に、がんばっている受験生親子にメッセージをお願いします。

真田 受験の結果というのは時の運もありますから、志望校選びに当たっては、「通わせたい」「通いたい」と思える学校を複数選んで、それぞれの長所をたくさん見つけておくといいですね。そして、せっかく中学受験にチャレンジする道を選んだのですから、ぜひ親子で一緒に楽しみながら取り組んでください。きっといい経験に、そして今後の糧になることでしょう。

広野 お子さんの日々の成長をしっかりと見守りながら、受験生活を実りあるものにしたいですね。本日はありがとうございました。

臨床心理士が書いた決定版!!
中学受験 合格メンタルの作り方』

真田 涼 著
日本能率協会マネジメントセンター 刊
1,760円(税込)

 「子どもがやる気になる方法は?」「見直しをしたがらない子にはどう声掛けしたら?」「わが子の成績に一喜一憂してしまう」といった中学受験での悩みに、東大生の母であり、臨床心理士である著者がアドバイス。学年ごとに相談の多いケースを取り上げ、親子でメンタルを安定させ、楽しく受験に取り組む方法を紹介します。

『受験精が来た!』Kindle版
真田 涼 著
講談社(青い鳥文庫) 刊
715円(税込)

 主人公の「希望」は、あこがれの男子が中学受験することを知り、自分も受験することを決意します。でも、勉強法がわからないし、時間もありません。あきらめきれない希望の前に、受験の妖精、「受験精」が現れます。希望の中学受験はどうなるのでしょうか…。勉強法のヒントなどが満載された、親子で楽しめる受験物語です。

24年10月号 子育てインタビュー:
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