受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

「動物言語学者」からのメッセージ

大切な中高時代の6年間
好きなことに打ち込める環境を

 ことばを持つのは人間だけ──そんな常識を覆した若き研究者がいます。今回は、鳥のことばを世界で初めて解読し、「動物言語学」という新しい研究分野を切り開いた、東京大学先端科学技術研究センター准教授の鈴木俊貴先生にインタビュー。シジュウカラという身近な野鳥を対象にした研究の過程やその成果、そして、それを可能にした大学や中高時代の学びなどについて、お話を伺いました。

研究者としての原点は
部活動にのめり込んだ中高時代

広野 ご自身の研究者としての原点は、どこにあるとお考えですか。

鈴木 母校である桐朋中学校・高等学校での6年間の生活です。幼いころから虫や魚を飼って観察していたわたしにとって、敷地内にある雑木林「みや林」は大きな魅力でした。「この林には虫がたくさんいるはず。ここに通いたい」と、学校選びの決め手となりました。入学後は同級生10人を誘って生物部に入り、学校の内外で虫捕りや魚釣りをして、捕まえた生き物は飼って観察するという毎日を過ごしました。わたしたち人間が見ている世界は、姿形のまったく違う動物たちにはどのように映っているのだろうと、当時から興味があったのです。ほかの部員もそれぞれが自分の興味・関心のあることを追究し、互いに刺激し合っていました。そのときの仲間の約半数が、今は研究者として活躍しています。

 桐朋が自由と自主性を尊重する学校だったことも大きなポイントです。先生方の指導からは、生徒の得意分野を伸ばそうという熱い思いが伝わってきました。わたしが生物部の活動にのめり込む姿を温かく見守り、「苦手科目をもっと勉強しなさい」などと注意することはありませんでした。

広野 生物部での活動だけでなく、学校の教育方針や校風そのものが、研究者としての鈴木先生を育てたということですか。

鈴木 研究者にとって大切なのは、自由な発想をベースに自分なりのテーマを設定し、研究の方法をみずから工夫する自主性です。桐朋における6年間の学校生活で、まさにそこを大きく伸ばしてもらいました。

 高校卒業後は、アホウドリを絶滅から救った海鳥研究者の長谷川博先生にあこがれ、東邦大学に進学しました。「10年は研究しないと見えてこないものがある」「そうやって身につけた観察力は最大の武器になる」など、アホウドリのために1970年代から島に通い続け、成果を出した先生ならではの助言は、今でも心に残っています。先生からは、研究者としての心構え、研究に対する基本的な姿勢を学ばせていただきました。

子どもの興味・関心を引き出し
みずから学ぶ力の育成を


「お鷹の道・真姿の池湧水群」にて。緑が豊かで野鳥も多く飛来するため、鈴木先生のお気に入りの場所の一つ

広野 ご家庭では、鈴木先生の興味を引き出すような働き掛けが何かあったのですか。

鈴木 親の仕事の関係で引っ越しを繰り返しましたが、住まいはいつも川や森の近くの自然と触れ合える場所にありました。今思うと、あえてそういう環境を選んでくれていたようです。小学生のときから、バッタやセミ、カエル、トカゲ、カタツムリなど、いろいろな生物を飼って観察したり、川や森など自然環境に入って観察したりしていました。それを好きなだけやらせてくれたことに感謝しています。

広野 研究者にあこがれている子どもたちや、その保護者の方々にアドバイスをお願いします。

鈴木 一般的には、「研究者になるには大学院に進んで博士課程を修了すればよい」というイメージがあるようですが、実際にはそう簡単な話ではありません。博士課程までは指導教員にテーマをもらって何とかなる場合も多いのですが、その後は自力でテーマを探し、研究を進め、実績を出していく必要があります。そのときになって初めて、どれだけ自分なりに思考し、研究の手法を工夫してきたかが問われるわけですが、この時点で戸惑ってしまう人が少なくありません。わたしは学部生時代から、もっといえば中高時代、そして子どものころから自分なりの研究に取り組んでいたので、ポストドクター(博士研究員)時代も行き詰まることなく研究を続けてこられたのだと思います。

 知っておいていただきたいのは、「研究」と「勉強」はまったく違うということです。勉強では、すでに明らかになっている知識を頭に入れていきます。研究では、誰も知らない世界の真理を解き明かしていきます。ですから、勉強ができるから研究もできるとは限らないし、研究のできる人が勉強も得意とは限りません。研究するために必要なのは、先入観にとらわれない自由な発想と、自分で新しい分野を開拓していく力だと思います。

 今は受験のために知識を身につけながら志望校を探す時期かと思いますが、学校選びに当たっては、自分の好きなことに打ち込めそうな環境、雰囲気かどうかを見てみるといいかもしれませんね。

広野 偏差値だけでなく、そこでの学びも意識しながら学校を選び、受験勉強に取り組めるといいですね。本日はありがとうございました。

『動物たちは
何をしゃべっているのか?』

山極寿一・鈴木俊貴 著
集英社 刊
1,870円(税込)

 動物言語学者・鈴木俊貴先生と、ゴリラ研究の世界的権威として知られる京都大学の前総長・山極寿一先生が対談。シジュウカラやゴリラなど、さまざまな動物のコミュニケーションの取り方について語り合いながら、人間とは何か、社会とは何かというテーマに迫ります。

『にんじゃ
シジュウカラのすけ』

大塚健太 文、出口かずみ 絵、
鈴木俊貴 監修 世界文化社 刊
1,540円(税込)

 鈴木俊貴先生が監修した絵本。仲間たちと協力して大きな敵に立ち向かう、ことりにんじゃたちの話。「ヂヂヂヂヂ」「ヒヒヒ、ヒヒヒ」など、小鳥たちの実際の鳴き声(シジュウカラ語)が、ことりにんじゃの秘密の言語として登場します(巻末にシジュウカラ語の解説付き)。

24年1月号 子育てインタビュー:
|2

ページトップ このページTopへ