子育てインタビュー
「好き」を仕事にした起業家が語る
志を高く持ち続ければ
社会を変えることができる
話題のChatGPTに象徴されるように、今やAIは社会のあらゆる分野で利用されています。そんなAIを活用した「環境移送技術」を開発してベンチャー企業を立ち上げ、ネイチャーエデュテインメントプログラム「サンゴ礁ラボ」などを提供しているのが、若き起業家の髙倉葉太さんです。海の一部を再現する環境移送技術とはどのようなものでしょうか。なぜ、髙倉さんは起業という道を選んだのでしょうか。SAPIX YOZEMI GROUPの髙宮敏郎共同代表がお話を伺いました。
「好きなこと」を原動力に
東大在学中に起業
髙宮 AIとサンゴ礁というと妙な組み合わせのように思えるのですが、なぜサンゴに興味を持たれたのですか。
髙倉 中学生のとき、熱帯魚を飼育していた父の代わりにわたしが世話をしたのがきっかけで、アクアリウムの世界にのめり込んでいきました。そして、行き着いた先がサンゴです。実際に飼い始めたところ、飼育の難しさに直面しました。生き物や水質、化学反応などに関する科学的な知識、環境を整えるためのエンジニアリングなど、複合的な知識・技術が不可欠です。また、知識があっても理論どおりにいかないなかで、対象を観察しながら我慢強く試行錯誤していく職人気質も必要です。残念ながら、わたしは一度もサンゴをきちんと飼えたことはありませんでした。身をもってサンゴを飼育する難しさを知っているわけです。それもあって、当時はサンゴがビジネスになるとは考えもしませんでした。
髙宮 髙倉さんは兵庫県の私立中高一貫校、甲陽学院の卒業生です。周囲には、医師をめざす人も多かったのではないでしょうか。
髙倉 実は、わたしも医師になるようにと、親にずいぶん勧められました。ただ、自分は生き物と同じくらいにもの作りが好きで、iPhoneを開発したアップル社へのあこがれが強く、ITエンジニアになって起業したいという気持ちが芽生えていました。学校の先生にも相談したところ、「もの作りが好きなら、東大がいい」とアドバイスされました。また、わたし自身にも、「定員は大阪大学医学部医学科が100人、東京大学理科Ⅰ類は約1,000人。難易度が同じくらいなら、定員が多い東大のほうが入りやすい」という計算がありました(笑)。
東大の入学式には「アップルを超える会社を作る!」というフリップを掲げて参加しました。「せっかく東大でやりたいことができるのだから、ビッグになろう。新しいテクノロジーを作ろう」という意気込みでしたね。
髙宮 一般企業への就職ではなく、起業を志しながら学んでいったのですね。
髙倉 大きな転機となったのは、情報工学の研究者・暦本純一先生との出会いです。「素人のように大胆に発想して、玄人として実現していく」という姿勢に刺激を受けました。大学院では暦本研究室でもの作りやAIを研究しつつ、並行して大学4年のときに起業した会社の経営にも携わっていました。
もう一つの転機は、ある起業家育成塾において、数々のベンチャー企業をサポートしてきた株式会社リバネスの代表取締役CEOの丸幸弘さんに出会ったことです。この丸さんに、「アップルの後追いではなく、自分が本当に好きなものを事業にするように」と、アドバイスを受けました。それを受けて、あらためてサンゴやアクアリウムの世界を調べることにしたのです。
受験はあくまでも手段
大切なのはその先の目的
当てる光の種類を変えると、螢光タンパク質によって美しく光るサンゴ(上)
髙宮 高校時代には「ビジネスにならない」と考えていたサンゴとアクアリウムに活路を見いだした点がユニークですね。
髙倉 調べ直し始めて、まず気づいたのは、海の生き物のおもしろさです。サンゴやクラゲに含まれる蛍光タンパク質ががんの治療に使われたり、フジツボをヒントに医療用接着剤が開発されたりするなど、多様なイノベーションが海から生まれています。ただ、陸上の動植物利用に比べると、海の生き物利用は圧倒的に少ないのが実情です。海の生き物には、まだ誰も目をつけていないイノベーションの可能性が秘められていて、まさにブルーオーシャン、競合相手の少ない分野だと思ったのです。
髙宮 ブルーオーシャンに漕ぎ出したイノカの、今後の展望をお聞かせください。
髙倉 海洋研究のプラットフォーマーをめざしています。その第一歩として、質の高い水槽環境で本物を見せられる強みを生かすために、さらに多くのAI技術者やアクアリストを育てていきたいと考えています。さまざまな分野の生き物好きが集まれば、集合体として大きなビジネスができるようになるはずです。
髙宮 最後に、ご自身も中学受験の経験がある髙倉さんから、受験生の皆さんにアドバイスをお願いします。
髙倉 これまで紆余曲折はありましたが、志を高く持ちながら愚直に取り組み続ければ、社会を変えていけるという実感を持っています。受験期は目の前の志望校やその偏差値にとらわれがちですが、受験は目的ではなく手段にすぎませんから、その先を見据えて、大志を抱き続けてほしいですね。
髙宮 AIなどの発達で情報が簡単に収集できるようになったからこそ、本物の体験が重要になります。サピックスの生徒たちにも、本物のサンゴを見て、さまざまな刺激を受けてほしいと思います。本日はありがとうございました。
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