受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

新学習指導要領を築いたキーパーソンに聞く

子どもの可能性を引き出す
「主体的・対話的で深い学び」とは

 「解なき時代」といわれるなか、小学校では2020年度から新学習指導要領の下での学びが始まっています。これからの学習のカギとなる「主体的・対話的で深い学び」とは、一体どのようなもので、その狙いは何なのでしょうか。文部科学省初等中等教育局視学官として新学習指導要領の作成に関わられた國學院大學の田村学教授に、新しい教育の在り方や、子どもの力を伸ばすために家庭で留意すべき点などについて伺いました。

知識を精緻化するためには
「書く」ことも重要

広野 子どもたちの対話を促そうとするとき、低学年のころは元気よく発言していたのに、年齢を重ねるとともにおとなしくなってしまう傾向があるように感じます。そうした子どもたちを、どう指導すればよいでしょうか。

田村 本来は、学年が上がって知識量と理解力が増えるとともに発話量は増え、内容も豊かになるはずです。ただ、年齢が上がるにつれて他者の視線が気になり始め、自分の発話がどう評価されるかということを意識するようになるため、口が重くなってしまうのでしょう。教える側はその点を踏まえて、学習者自身が語りたくなるような状況をつくっていく必要があります。まず、学習者が興味を持って話したくなることを上手に掘り起こさなければなりません。そして、語ったことが互いに受容される、共感的な集団であれば、語ることのリスクは減るわけですから、そうした雰囲気をつくる必要もあります。単一の答えを求めるような働き掛けだと、「正解じゃなかったらどうしよう」と悩みますが、解が複数ある問い掛けなら、あれも言える、これも言えるという雰囲気になります。

広野 歴史の教科書で、鎌倉幕府成立の時期が変わってしまったように、覚えた知識がいつまでも正しいとは限りませんしね。

田村 インターネットの力で大量の知識が簡単に手に入るようになりましたし、研究が進めば知識はどんどんと更新されます。だからこそ、知識のストックそのものよりも、どうやって知識を活用し結び付けるか、その方法を獲得することを重視すべきです。

広野 教育現場では、アクティブ・ラーニングを重視すると称して、「書く」ことのウエイトが減る傾向にあるようです。これについては、どうお考えですか。

田村 アクティブ・ラーニングとは、グループワークや対話だけを指すものではありません。そうした音声言語を使った活動も大切ですが、知識を能動的に活用する「深い学び」につなげるためには、文字言語を使った活動も必要です。音声で他者と関係を持つことで、さまざまな知識や気づきが得られますが、それらを結び付けて精緻化するには、文字で書いてアウトプットすることが有効です。文字言語には、知識や気づきをシャープにして自覚しやすくする、共有しやすくする、蓄積しやすくする、というメリットがあります。大まかに言えば、「音で広げて文字で刻む」といった学びのイメージを持っていただければいいでしょう。今後も文字を使ったアウトプットが重要であることに変わりはありません。

結果ではなく過程に目を向け
社会参加の意欲を育てよう

広野 先生のご専門の一つである探究学習では、自分でテーマを探さなくてはならないことがあり、親子で戸惑うことがあります。何かアドバイスをお願いします。

田村 学び手のなかにある、二つの感覚を利用するといいでしょう。一つは、問題状況に対する違和感です。目の前に起きている問題状況に対する違和感や不快感は、「何とかしよう」という課題設定につながります。もう一つは、理想状況に対するあこがれです。「あんなふうになるといいな」というあこがれも、それに向けてのプロセスを考えるきっかけになります。そうしたことを意識して、保護者の方は学びをサポートしてあげるといいですね。

広野 最後に、新学習指導要領の下で学ぶ小学生の保護者の方々にメッセージをいただけますか。

田村 どの子にも、それぞれ異なる可能性があります。その可能性を広げるためには、その子の置かれている環境が重要になります。とりわけ、まだ幼い小学生にとっては、環境の大部分を占めるのは家庭ということになるでしょう。ですから、ご家庭ではお子さんの良いところを見いだし、認めて、伸ばしていってください。テストの点数をほかの子と比べるのではなく、「こんなにがんばって取り組んでいる」「少しずつだけど前に進んでいる」といったことに着目してほしいですね。結果ではなく、過程を評価してください。それが子どもにとっても、保護者自身にとっても幸せなことだと思います。

 もう一つは、子どもたちのなかに、未来社会を創造する主体としての自覚を育んでいってほしいということです。つまり、子どもたちが「未来の社会を創造するのは自分たちなのだ」と思えることが大事なのです。残念ながら、わたしたちの国の教育は、そこのところが少し弱かったのかもしれません。だから、選挙での投票率が低い、社会参加に対する意識が弱いといったことになっています。子どもたち一人ひとりが、「言われてやらされている」のではなく、「将来、こんなふうに社会で活躍して、みんなに貢献し、すばらしい世の中を作っていく一員になる」と思えるようになってほしいですね。

広野 子どもたちの本来持つ力を信じて、伸ばしていくことが大切ですね。本日はありがとうございました。

『はっけん いっぱい! まちのしせつ』
シリーズ全5巻

田村学 監修
ポプラ社 刊
各巻 3,190円(税込)

 小学校2年生の生活科での「まちのしせつ調べ」に役立つ学習参考書。豊富な写真やイラスト、QRコードから視聴できる動画により、まちの施設の使い方や目的、注目点などを解説します。「図書かん」「じどうかん」「えき・電車」「バス」「公園」の5巻があります。

『NHK for School おばけの学校たんけんだん たいけんしよう生活科』
シリーズ全2巻

田村学 監修
NHK「おばけの学校たんけんだん」制作班 編
NHK出版 刊
各巻3,520円(税込)

 NHK Eテレの「おばけの学校たんけんだん」(毎週火曜日9時〜9時15分放映)は、小学校1・2年生向けの「生活科」の番組。その内容をじっくり楽しめる書籍です。体験した内容を絵や文でまとめる方法などを紹介するほか、番組や動画が視聴できるQRコードも付いています。

23年3月号 子育てインタビュー:
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