受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

新学習指導要領を築いたキーパーソンに聞く

子どもの可能性を引き出す
「主体的・対話的で深い学び」とは

田村 学さんTamura Manabu

(たむら まなぶ)國學院大學人間開発学部初等教育学科教授。新潟大学教育学部卒業後、小学校教諭、新潟県柏崎市教育委員会指導主事、文部科学省・国立教育政策研究所教科調査官を経て、2015年4月より文部科学省初等中等教育局視学官となり、新学習指導要領作成に携わる。2017年より現職。日本生活科・総合的学習教育学会副会長。著書に『「深い学び」を実現するカリキュラム・マネジメント』(文溪堂)、『学習評価』(東洋館出版社)などがある。

 「解なき時代」といわれるなか、小学校では2020年度から新学習指導要領の下での学びが始まっています。これからの学習のカギとなる「主体的・対話的で深い学び」とは、一体どのようなもので、その狙いは何なのでしょうか。文部科学省初等中等教育局視学官として新学習指導要領の作成に関わられた國學院大學の田村学教授に、新しい教育の在り方や、子どもの力を伸ばすために家庭で留意すべき点などについて伺いました。

実社会で活用できる
資質・能力の育成を重視

広野 田村先生は文部科学省・国立教育政策研究所の教科調査官などを経て、現在は大学で教鞭を執っていらっしゃいます。まずは、先生の専門分野、研究テーマを教えていただけますか。

田村 現在は、主に小学校の教員をめざす学生の指導に携わっています。教科としては、生活科と総合的な学習の時間、今話題の探究が専門です。また、それらを含めてカリキュラムをいかに編成し、デザインしていくかということも研究しています。探究については、小・中学校での教育のみならず、その先の社会教育の分野ともつながりながら関わっています。かつては文科省で学習指導要領の改訂にも携わっていましたので、今の学習指導要領や教育改革の方向性を教育関係者や現場の先生方に正しく伝え、授業の質を上げていくために、講演や執筆活動などを通して尽力しているところです。

広野 学習指導要領は学校教育における目標や学ぶべき内容を定めたものですが、近年は大きな改訂が続いている印象があります。その流れや背景について説明してください。

田村 学習指導要領は、1998年の改訂までは「ゆとり教育」と称されるように、学習内容を減らす傾向にありました。しかし、2008年の改訂では、学習内容を少し増やす方向に舵を切りました。直近の2017年の改訂では、学ぶ内容や方法が大きく再構成され、当時の文部科学大臣が「明治維新以来」と表現するほどの大きな変化となりました。これが小学校では2020年に施行された現行の学習指導要領です。

 それまでは一つひとつの知識を獲得することに重きを置いた教育でしたが、変化の激しい社会では、知識を獲得しても、みずからの生活や問題の解決に使えないケースが目立つようになってきました。そのため、学校教育を実社会で活用できる資質・能力を育成する方向に変えることになったのです。そして、その資質・能力を育成するために、子ども一人ひとりが「主体的・対話的で深い学び」をしていくことにしました。実社会で活用できる資質・能力の重視は、日本だけではなく国際的なトレンドといっていいでしょう。

知識と知識をつなげて
構造化していく学びが必要


サピックス小学部
教育情報センター 本部長
広野 雅明

広野 新しい学習指導要領のキーワードともいえる「主体的・対話的で深い学び」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

田村 主体的な学びとは、「自分で自分の学びがコントロールできること」と考えるとわかりやすいでしょう。自分が興味を持ったことに「よし、がんばるぞ」「前に向かって進むぞ」と意欲的になるだけでなく、たとえ「面倒くさくて大変だな」「苦手だな」と思っても、将来を見据えながら「これを乗り越える必要がある」「どうやって乗り越えていこうか」という強い意志を持って学びと向き合っていくということですね。それができれば、実社会で役立つ資質・能力は大きく育つはずです。

広野 そういう姿勢で学びに取り組めば、精神的な成長も促されますね。では、「対話的な学び」とは、どういったものでしょうか。

田村 文科省による定義をわたしなりのことばで説明すると、「異なる多様な他者との対話による学び」です。対話とは、音声言語によるコミュニケーションですが、そこに異質性や多様性があることが極めて重要です。自分一人で学んでいると、得られる情報や視点が限定されます。しかし、そこにクラスの友だちや先輩・後輩、あるいは留学生や地域の人といった他者が介在すれば、多様な情報が入ってきます。そうした異質性や多様性があればあるほど、学びの質は上がります。これまでは先生が一方的に教え込む受動的な学習が大半でしたが、今後は対話を中心にした授業が増えていくでしょう。

広野 多くの学校で導入され始めた「アクティブ・ラーニング」が、まさにそれに当たりますね。もう一つの「深い学び」については、いかがでしょうか。

田村 これもわたしなりのことばで説明すると、「知識構造を駆動する状態に向かわせていく学び」ということになります。単体の知識を辞書的に覚えるのではなく、知識と知識をつなげて構造化していく学びです。歴史の学習でいえば、年号と出来事だけを覚えるのではなく、全体の流れを理解し、共通するものを見つけていくことが大切になります。国語で物語を読むときも、あらすじを追うだけでなく、作者の生い立ちや作品が生まれた土地、時代背景にまで目を向けながら、作品を理解していきます。こうした、より概念的で構造的な理解を深めると、静的なものだった知識が、極めて動的なものに変わっていきます。

 ここで必要になるのが、先ほど話に出たアクティブ・ラーニングです。アクティブ・ラーニングでは、インプットした知識をいかに活用し、発揮するか、言い方を換えると、いかにアウトプットするかが問われます。さらに言い方を換えると、音声言語と文字言語をいかに使うかといったことが重要になります。学校教育の場で増えているグループワークは、こうした音声言語による対話を活性化しようという取り組みなのです。

 もちろん、インプット、つまり土台となる知識の習得はきちんとしなくてはなりません。ただ意識すべきは、インプットしたものをいかにアウトプットして活用・発揮していくかです。活用・発揮することで、獲得した知識をつなげて、自分のなかで構造化していくというイメージを持っていただければいいでしょう。

23年3月号 子育てインタビュー:
1|

ページトップ このページTopへ