そこが知りたい!
学力試験と異なる「適性検査」
ふだんの学習と過去問演習が重要
公立中高一貫校が、私立や国立の中高一貫校と大きく異なるのは、入学者の選抜方法です。公立の場合、私立や国立で課される「学力試験」ではなく、「適性検査」が行われます。入学願書とともに提出する「報告書(調査書)」も点数化されます。「面接」が課される学校もあります。
多くの場合、合否判定で最も重視されるのが、適性検査の得点です。「国語」「算数」などの教科ごとのテストではなく、小学校で学んだことをベースに、日常生活に関する事柄を自分の頭で考えて記述し、問題を解決する力が試されるもので、総合的な思考力が問われます。「作文」が含まれることもあります。なお、神奈川県立の中等教育学校では、2023年度からマークシート方式が導入されました。
このように、選抜方法が特殊であるため、私立や国立の中学との併願ができるのかという点が気になるところです。しかし、サピックスで学んでいるお子さんなら、適性検査に対しても、ふだんの学習と過去問演習で十分に対応できるので、それほど心配する必要はありません。むしろ、私立の併願校を選ぶ際、「出題傾向が適性検査に似ている学校」にしようとすると、選択肢を狭めてしまうことになります。選抜方法や出題傾向を優先して学校を選ぶのは本末転倒です。学校の理念や教育内容、在校生の雰囲気などから、お子さんに合った学校を選ぶべきでしょう。
●入学者の選抜方法
出 願
●入学願書
●報告書(調査書と呼ぶ場合も)
小学校での成績、学習・行事に取り組む姿勢などを小学校の先生が評価し、記入するものです。
●志願理由書
子ども本人が書きます。志望理由のほか、「小学校のときに力を入れて取り組んだこと」「これからの6年間で取り組みたいこと」「将来の夢」などを書かせる場合が多くなっています。
※書類の種類、提出の時期や方法は学校によって異なりますので、必ず募集要項をご確認ください。
検査当日
●適性検査(作文を含むこともある)
●面接
※面接は自治体や学校によって実施されないこともあります。
入学予定者の選考
報告書の内容、適性検査の結果、作文・面接などの評価を総合して、入学予定者(合格者)を選考します。
入学予定者(合格者)の決定
公立中高一貫校の受検に向けて
どのような準備が必要なのか
適性検査の特徴と、
求められる力
首都圏にはさまざまな特色を持った公立中高一貫校が、多数存在しています。そのため、私立中学における志望校の選択と同様、学校主催の説明会や公開イベントなどへ積極的に参加することで、受検を検討する学校が、「お子様の個性に応じて成長が期待できる場所かどうか」「ご家庭の教育理念に沿った魅力的な環境かどうか」を、まずは十分に確認することが重要です。
また、公立中高一貫校の場合、入学者の選抜においては算数・国語・理科・社会の4教科による試験は実施せず、「適性検査」「作文」「面接」「報告書(調査書)」などを組み合わせた、総合的な学力が問われます。私立中学で課せられる「学力試験」とは大きく異なっているので、公立中高一貫校への興味はありながらも具体的な取り組み方がわからず、対策について漠然とした不安を持たれる方も多いようです。
まずは、このような点を踏まえたうえで、大きな配点を占める「適性検査」の特徴を三つご紹介します。
①高度な知識は要求されないが、幅広く偏りのない知識が求められている。
②図版・写真などの資料が多数盛り込まれ、教科の枠組みにとらわれない柔軟な出題形式となっている。
③与えられた条件を踏まえて的確に図示したり要約したりするなど、多様な形で表現する力が問われている。
これらを言い換えるなら、「習得した知識を単純にあてはめる力」とは一線を画した、「さまざまなものを複雑かつ総合的に判断する力」が求められているということです。「学んだもの」を単に「教わったもの」として終わらせず、みずから使いこなそうとする姿勢がなければ、対応に戸惑ってしまう出題が現実に多数を占めています。
それでは、こうした難度の高い出題に対して、どのように取り組めばよいのでしょうか。求められる力としては、次の五つが挙げられます。
①読解力…与えられた資料を丹念に読みとり、正確に把握する力。
②分析力…読みとった複雑な内容から、共通点・相違点を導ける力。
③思考力…導き出した情報を論理的につなげ、柔軟に発想する力。
④運用力…生み出した新たな発想を応用して、適切に構成する力。
⑤記述力…他者の視点を踏まえ、自らの考えを明快に表現する力。
意識すべき学び方と、
客観性を養う添削指導
このように列挙すると、かなり高度な力量が要求されていて、その対応に難しさを感じるかもしれません。しかし、この五つの力は「現在の中学受験において要求される必須の力」であり、サピックスで学んでいるお子さんにとっては「常に授業のなかで鍛え上げ、育み培っている力」だといえます。そのため、合格する力を高める基本的な姿勢としては、特別な何かをいち早く実践するというより、一見遠回りに見えても、授業カリキュラムのなかで習得が期待される内容を、たゆまず身につけていくことだといえます。
そして、日々の学習のなかで常に意識したいのは、学んだものを単に机上の学問で終わらせないよう、みずからの日常生活に引き合わせて考えてみることです。たとえば、「理科」で学習した知識を身近な体験に即して考えてみる、世の中のさまざまな出来事を「社会」で学んだことと結びつけるなど、生活のなかで常に「学びをとらえ直そうとする視点」を持てるよう心がけてください。そのような努力をするなかで、五つの力は育まれていくはずです。サピックスの授業では、そうした力を育めるような教材構成、そしてお子さんへのかかわりを行っていますので、ご家庭では「学習で興味を持ったもの」に生活のなかで具体的に触れられるよう、目配りいただければと思います。
また、「適性検査」は出題形式が教科横断型であったり、統計資料・写真図版を運用したりと特徴的なので、過去問を解くことによる「一定の慣れ」は必要だといえます。ただ、十分な基礎学力が身についていない状態では消化不良で終わるだけなので、あまり早い時期からの取り組みはお勧めできません。過去問を解き始める目安はおよそ、6年生の9月以降だとお考えください。
そして、その際に考えなければならないのは、資料活用も多い記述型の出題であるため、お子さんが自己採点することが大変難しいということです。本人がうまく資料を使って解答しているつもりでも、第三者の視点から矛盾なく表現できているかは、まったく別の問題です。このような点を考えると、過去問について「添削指導」を受けることは非常に有効です。たとえば、授業を担当しているわれわれ講師や保護者の方と、添削内容について率直な意見交換をすることで、お子さんはみずからの主張が客観性を持っていたか、さまざまな資料をうまく活用できていたかを、適切に評価することが可能となります。
「適性検査」は、日常的な話題からの気づきを得て解答する場合も多いため、日ごろから新聞やニュースなどで、世の中の現状について十分に興味を持ち、「自分たちの生活と、どのように関係するのか」「自分にできることとして、どんなことがあるのか」など、「今現在の自分の立場から考える姿勢」を忘れないよう心がけましょう。
教務本部 安酸 誠司
- 23年10月号「そこが知りたい!」シリーズ Vol.4:
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