受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

挑戦するキミへ

Vol.26

「アファーマティブ・アクション」を活用し
男女が等しく活躍できる社会へ

 教育や労働における男女格差を解消するため、近年さまざまな改革が推進されています。真の男女平等社会に至る過渡期に「アファーマティブ・アクション」(積極的差別是正措置)を活用することが望ましい理由と、ジェンダーレスの時代だからこそ高まる男女別学の意義や、ロールモデルを見つけることの重要性について、柳沢先生に語っていただきました。

文責=柳沢 幸雄

真の男女平等を実現するには
生物学的な違いへの配慮が必要

柳沢 幸雄

やなぎさわ ゆきお●北鎌倉女子学園学園長。東京大学名誉教授。1947年生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。ハーバード大学大学院准教授・併任教授などを経て、2011年4月から2020年3月まで開成中学校・高等学校校長を務める。2020年4月から現職。

 146か国中118位。これは、今年6月に世界経済フォーラムが発表した、ジェンダーギャップ指数における日本の順位を表す数字です。ジェンダーギャップ指数とは、「政治・経済・健康・教育」の4分野における男女格差の現状を、統計をもとに評価したもの。日本の総合スコアは前年からわずかに上昇したものの、先進7か国のなかでは、引き続き最下位となっています。

 この現状を打破し、日本が男女平等社会を実現するためにはどうすればいいのでしょうか。それには、社会的存在としての男女の平等性とともに、生物学的な違いに目を向ける必要があると考えています。一般的に、体力や腕力では女性よりも男性のほうが上回る一方、妊娠や出産という重要な役割は、男性が女性に取って代わることはできません。いくら男女の立場は対等であるべきだからといって、すべての社会的条件を同一ラインにそろえればいいというわけではないのです。両者の違いを十分に配慮した社会構造にしなければ、お互いにとって幸福な男女平等社会を実現することは難しいでしょう。つまり、機械的、形式的に男女同一の社会をつくり上げたとしても、それは望ましい「ジェンダーイクオリティー」の理念とはいえないと思います。

不平等を是正する動きが
国内大学にも徐々に広がる

 もう一つ忘れてはいけないのが、これまでの人類の歴史が多くの国において男性優位の社会であったという歴史的事実です。

 社会のなかで担ってきた役割の男女格差が、次世代の進路選択に投影される、つまりロールモデルがいないことによって男女格差が継続してしまう現実です。この格差を是正する手段として、わたしが注目しているのが「アファーマティブ・アクション」(積極的差別是正措置)です。これは定員内に一定の枠を設けたりする優遇措置のことで、実際にアメリカでは、大学入試や採用試験などですでに導入され、歴史的な格差の是正が行われています。

 国内でも、アファーマティブ・アクションを取り入れる動きが少しずつ見られるようになりました。たとえば、京都大学では、2026年度から理学部と工学部の特色入試(総合型・学校推薦型選抜)において、女子枠を計39人分設けるほか、東京工業大学でも、2025年度入試において、総合型・学校推薦型選抜で合計149人の女子枠を創設します。これらの措置については、一部では批判的な声も聞かれますが、男女における機会均等が軌道に乗るまでの一時的な施策としては、極めて有効な方法だとわたしは思います。

ロールモデルを見つける場所として
大きな役割を持つ中高一貫校

 もう一つ、長年にわたる男性優位社会の弊害として挙げられるのが、実社会における女性のロールモデルの不足です。良妻賢母型の教育が一般的だったころは、結婚後は家庭に入ることが女性の最善の道だと考えられてきました。母や祖母など、身近な女性の多くが専業主婦だったので、それ以外の職業を選択することへのリアリティーが非常に希薄だったわけです。

 昔に比べてさまざまな職業選択が可能になった今でも、組織のトップには男性が就くことが多く、女性のロールモデルが不足していることに変わりはありません。しかし、今年の7月には、日本で初めて女性の検事総長が誕生しました。11月に大統領選挙を控えるアメリカでは、建国以来、初の女性大統領が生まれる可能性があります。このように、「ガラスの天井」(資質はあってもマイノリティーであるがゆえに一定の職位以上に昇進できない組織内の見えない障壁)を破る女性が増えることは、後に続く若者を勇気づけるロールモデルとなり、男女平等社会に近づくための大きな一歩となることでしょう。

 子どもたちにとって、「ガラスの天井」はまだ先の話だとしても、より多くのロールモデルを見つけられる場所の一つが中高一貫校です。自分のお手本となる年の近い同性の先輩、またはすでに社会で活躍している卒業生の話を、自分と重ね合わせて聞くことができる環境は、将来を設計するうえでプラスにはたらくからです。

 そこで突き当たるのが、男女別学校がいいのか、共学校がいいのかという選択です。ロールモデルの見つけやすさにおいては、大きな差はありませんが、「共学校のほうが平等なジェンダー観が身につくのではないか」という意見には、わたしは懐疑的な立場です。なぜなら、共学校では男女による役割分担が求められる場面が多いのに対し、別学校では「男だから」「女だから」にとらわれず、すべてのタスクにおいて責任を負わなければならないからです。これからのジェンダーフリー時代においては、別学校はますますその意義が高まっていくのではないかと考えています。

 日本における男女格差の是正の動きは、まだまだ発展途上です。まずはそれを認識したうえで、今できる最善の選択をすべきでしょう。そして、男女ともに過去の慣習にとらわれることなく自己実現に努め、やがて若者が自分のロールモデルとなる人物を容易に見つけられる環境になったとき、男女が等しく活躍できる、真の男女平等社会が実現するのではないでしょうか。

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