挑戦するキミへ
Vol.22
受験は自分と試験との戦い
周囲を気にせず「自分基準」で挑もう
いよいよ中学受験本番です。受験生とそのご家族は、期待と不安の入り交じった複雑な気持ちで毎日を過ごしているのではないでしょうか。試験当日に実力を最大限に発揮するためには、「周囲の受験生を気にせず、目の前の問題に集中することがいちばん大事」と柳沢先生は話します。ここまで親子二人三脚でがんばってきた成果を最大限に発揮し、悔いを残さないための大切な心構えについて、アドバイスをいただきました。
文責=柳沢 幸雄
本番に強くなる“コツ”は
周りを気にしないこと
柳沢 幸雄
やなぎさわ ゆきお●北鎌倉女子学園学園長。東京大学名誉教授。1947年生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。ハーバード大学大学院准教授・併任教授などを経て、2011年4月から2020年3月まで開成中学校・高等学校校長を務める。2020年4月から現職。
人間には二通りのタイプがあります。試験でふだんどおり、もしくはそれ以上の力が出せる「本番に強い人間」と、反対にふだんどおりの力すら出せなくなる「本番に弱い人間」です。仮に、本番に強い人が平常時の120%で、本番に弱い人が平常時の80%で同一試験に挑んだとしたら、たとえ同等の学力を持っていても、後者は前者の3分の2しか得点できないということになります。1点、2点を争う入学試験で、これが大きな差になるのはいうまでもありません。
それでは、いったいどうすれば本番に強くなれるのか。その答えは、「自分基準」で挑むことです。つまり、周囲に気を取られず、自分のことだけに集中すればよいのです。本番に弱い人は、周囲の影響を受けやすい傾向があります。見知らぬ受験生の様子をうかがって、「あの人は自分よりも頭が良さそうだ」「きっと余裕があるに違いない」などと考えはじめると、みるみるうちに焦りが生じ、平常心を保つことが難しくなります。受験はあくまで自分と試験との戦い。目の前の試験問題に集中し、1問でも多く解答することでしか、合格をたぐり寄せることはできません。
昔からあるおまじないとして、「緊張したときは、手のひらに『人』の字を3回書いてのむ」というものがあります。まさしく、緊張に打ち勝つ方法は、「人をのむ」ことです。周囲が目に入らないほどの高い集中力で、最後の1秒まで問題に食らいつく。それほどの強い気迫を持って臨めれば、ふだんどおり、あるいはそれ以上の力が発揮できるはずです。
偏差値に一喜一憂せず
確かな成長を自信に変えよう
「自分基準」で考えたほうがいい、という点では、偏差値の推移も同じです。偏差値は、平均点を取った場合は50になる相対評価でしかありません。ですから、偏差値が上がった、下がったと一喜一憂するよりも、過去の自分を振り返り、1年前や半年前と今とを比べてどう変わったかを、評価の基準にしてほしいと思います。わたしはこれを「垂直比較」と呼んでいます。以前は解けなかった算数の問題が解けるようになった、読めなかった漢字が読めるようになった。たとえ思うように偏差値が伸びなくても、こうした成長を自覚できたら、確かな自信になるはずです。そして、「自分はこうやって弱点を克服してきたのだから、いま直面している課題もきっと乗り越えられる」と受け止めれば、足りない部分を冷静に分析し、自己肯定感を持って次のステップに進むことができるのではないでしょうか。
日本の子どもたちは、幼いころから「みんなと仲良くしましょう」と言われて育つためか、「自分は周りと比べてどうか」「周りは自分のことをどう考えているか」を強く意識しているように見えます。もちろん協調性は大事ですが、自分を否定したり、押し殺したりしてまで相手に合わせる必要はありません。「他人は他人」と割り切って、自分の信じた道を自分のペースで歩むことが、人生を切り開くうえでは非常に大切だと思います。
どこに行くことになっても
進学先がいちばん輝ける学校
人生を長い目で見ると、学校でも職場でも、自己評価と他己評価が一致しているときに、ベストパフォーマンスが発揮できるものです。周りから過小評価されている場合はもちろん、過大評価されている場合も、ある種の居心地の悪さがつきまといます。それを回避するために必要なのは、能力に合った環境に身を置くことです。そういう意味では、試験当日に「実力以上の力を出そう」と気負うよりも、「できることを精いっぱいやろう」と、どっしりと構えて問題に向き合うほうが、自己評価と他己評価の一致が期待できますし、入学後の学校生活も伸び伸びと送れるのではないかと思います。
そこで大きな意味を持ってくるのが、出願校選びです。学校を選ぶ際に、受験生の皆さんに必ず確認してほしいのは「どんな先輩たちがいるか」です。実際に足を運び、在校生の印象が良い学校、もしくはお子さんに似た雰囲気を持つ在校生が多い学校は、お子さんにとって、自分らしさを発揮できる場所になるはずです。
そして、出願校がある程度固まったら、そのすべてが第一志望だと考えてください。特定の学校にあこがれや強い思い入れを持つのは結構ですが、「絶対にこの学校に合格しなければ」と入れ込みすぎると、のちのち子どもの心に大きな傷を残す可能性があります。大事なのは、「この学校もいいし、あの学校もいい」と、選択肢に幅を持たせておくこと。「この学校なら、こんな施設があるよ」「あの学校だったら、このクラブが良さそうだね」など、ふだんの会話からそれぞれの良さを挙げて、出願校に序列をつけないようにしてほしいと思います。
そして、最後は必ず、保護者の口から「どこに行くことになっても、そこがあなたに合った学校だから大丈夫だよ」と伝えてあげてください。それによって子どもは安心して試験に臨むことができ、受験が終わった後も、自己肯定感を持って中高生活をスタートできます。一人でも多くの受験生が、自分らしさを発揮できる学校にご縁をいただけますように。皆さんの健闘をお祈りしています。
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