受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

挑戦するキミへ

Vol.10

「七転び八起き」の精神で
失敗を恐れず、ベストを尽くそう

 受験シーズン到来。受験生とその保護者の皆さんは、志望校合格をめざし、これまでいろいろなことを我慢して、努力を積み重ねてきたことでしょう。「ここまで来たら、何が何でも第一志望校に合格!」と、気合十分のご家庭がほとんどだと思いますが、柳沢先生はあらためて、中学受験はゴールではなくスタートだと強調します。充実した中学生活のスタートを切るために、必要な心構えは何なのでしょうか。柳沢先生が、アドバイスとエールを送ります。

文責=柳沢 幸雄

ものごとの成功率は意外と低い
気負わずに、力をぶつけよう

柳沢 幸雄

やなぎさわ ゆきお●北鎌倉女子学園学園長。東京大学名誉教授。1947年生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。ハーバード大学大学院准教授・併任教授などを経て、2011年4月から2020年3月まで開成中学校・高等学校校長を務める。2020年4月から現職。

 「七転び八起き」ということばがあります。ご存じのとおり、何度失敗したとしても、屈することなく、奮起して立ち直ることの大切さを説くことわざです。7回転んでも、そのたびに立ち上がり、8回目にようやく思いをかなえる。つまり、8回チャレンジして、1回成功するわけですから、成功確率は8分の1。勝率に換算すると、12.5%ということになります。

 勉強にしろ、スポーツにしろ、勝負に挑むときの勝率として、12.5%というのは、かなり実態に近い数字ではないでしょうか。わたしの人生を振り返ってみても、何か新しいことに挑戦してうまくいった割合は、この程度だったように思います。挑戦しても、多くの場合、はね返されています。

 中学受験をしようと思って、いちばん最初に「ここに行きたい」と思った学校に、最終的に合格できるお子さんも、1割ほどしかいません。実際に受験して、残念ながら力及ばず、不合格になってしまうケースももちろんありますが、受験勉強を進めるなかで、「この成績では、合格する可能性は低いから、受験はやめておこう」と、あきらめるケースもたくさんあります。

 そのように、ものごとの成功率は、われわれが思っているより低いものです。でも、初めからそういうものだと割り切って考えれば、必要以上に気負うことなく、目の前の試験に全力を尽くせる気がしませんか。保護者の方にとっても、お子さんに余計なプレッシャーを掛けずに済むように思います。

自由な社会に競争はつきもの
ひるまずに前向きな挑戦を

 一方で、「12.5%」というシビアな数字を聞くと、「挑戦するのが怖い」「どうせなら、最初から自分の将来が決まっていたらいいのに」と思うお子さんもいるかもしれません。しかし、競争が求められるものの、自分の好きなことに挑戦できる社会と、競争が存在しない代わりに、生まれたときから自分の将来が決まっている社会のどちらが理想的でしょうか。どちらが好きですか。

 かつて、日本には、職業や身分が家ごとに決められていた時代がありました。つまり、農家に生まれた子どもは、将来、農業を継ぐ、大工の子どもは、大人になったら大工になる。それ以外の選択肢はなかったのです。こうした社会では、自分の進路に迷うことも、進路実現のための受験勉強に追われることもありません。しかし、その一方で、やりたいことがあっても、それに挑戦するチャンスすら与えられなかったのです。

 時代は変わり、わたしたちは今、行きたい学校、就きたい職業を自由に選べる社会に生きています。当然、希望者が「定員」を超えれば、そこには競争が生じるわけですが、それは自分の希望をかなえるためですから仕方がないこと。その代わりに享受している自由をかみしめながら、受験生の皆さんには前向きに受験に臨んでほしいと思います。

大切なのは進学先で「どう過ごすか」
環境に順応する力が将来を左右する

 受験を直前に控えた今、あらためて心に留めておいてほしいのは、中学受験はゴールではなく、スタートだということ。どこの中学校に合格したかで、将来が決まるわけではありません。将来を大きく左右するのは、進学した学校で「どう過ごすか」です。

 中学入試で優秀な成績を収めた生徒が、6年後に難関大学に合格するかというと、必ずしもそうではありません。大学入試の結果と高い相関が見られるのは、実は中1の学年末の成績です。それは、中学に入って初めの1年間で、いかに早く自分の居場所を見つけて、充実した学校生活を過ごせたかが、その子の学習意欲に色濃く反映されるからです。

 新しい環境で、いち早く自分の居場所を見つけることができるというのは、生きるうえで非常に大切な能力と言えます。社会人でも、新しい部署、新しい上司にすぐ順応できる人というのは、たいてい高い評価を得るもの。たとえ、進学先が第一志望校ではなくても、自分の気持ちを切り替え、その環境を自分のものにできるかどうかが大事なのです。それができれば、6年後の「逆転」は簡単です。

 そこで、保護者の皆さんにお願いしたいのが、お子さんの前では、受験するすべての志望校に対し、序列をつけないでいただきたいということです。第二志望、第三志望の併願校のことを、第一志望校と比較して悪く言ったり、第一志望校に落ちたからと、あからさまに落胆した態度を表に出したりすると、お子さんは、大好きなお母さん、尊敬するお父さんの期待に応えることができなかったと、自分を責めます。それでは、進学先の中学校で、気持ち良くスタートを切ることはできません。どこの学校に進学したとしても、「進学した学校が、あなたにとってベストな場所だよ」と、周りの大人がおおらかに構えていることが、本人にとって、何より心のよりどころになるはずです。

 中学受験は、公立校という受け皿がある点で、間違いなくノーリスクなチャレンジです。ぜひ、「七転び八起き」の精神で、失敗を恐れず、最後までベストを尽くしてください。応援しています。

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