受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

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2022年11月のBooks

 あなたは勉強するとき、近くに人がいると気が散りますか。それともまったく気になりませんか。今月の「先生お薦めの一冊」の『もえる! いきもののりくつ』によれば、淡水魚のゼブラフィッシュは、経験を重ねると餌のある場所を覚えることができますが、近くに仲間がいると、仲間のことが気になってか覚えられないそうです。ほかにも「つられあくび」など、人間のような行動をとる生き物もいます。生き物の不思議さに驚かされるとともに「人間も動物なんだな」とあらためて感じさせられます。

星屑ほしくずすぴりっと』

  • 林けんじろう=作

  • 講談社=刊

  • 定価=1,540円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

病気のいとこのため 中学生2人の “いかつい”挑戦が始まった

注目の一冊

 広島県尾道に住むイルキは、10歳以上も年上のいとこ、せいちゃんが大好きです。小さいころから、せいちゃんに付きまとっているので、親戚から「ひっつきもっつき」と呼ばれていました。ひっついて離れない「ひっつき虫」のことを、広島ではこう言うのです。せいちゃんは映画が好きで、脚本家になる夢を持っていましたが、大阪の大学の映像学科に在学中に突然、難病の多発性硬化症を発症し、車いす生活になります。イルキが話し掛けてもぼんやり庭を見ているだけで、ほとんど話さなくなってしまったせいちゃん。ところがある日、ぽつんと「映画が見たい」と言ったのです。それ以上は何も語らず、何の映画のことかは誰にもわかりませんでした。
 中学生になったイルキが、大阪から引っ越してきたハジメと共に、せいちゃんが見たいという映画を探して、尾道から京都まで旅をします。広島弁を話すイルキに対し、訳あって何年たっても大阪弁を使い続けるハジメ。そんな2人のテンポの良いやりとりが楽しく、軽快な会話のなかに、お互いを思いやる温かさが伝わります。
 どうして、せいちゃんは病気になったのか。いくら考えてもわからない理不尽さに苦しむイルキ。それでも何としてでもこの作戦を成功させ、「せいちゃんに喜んでもらいたい」「庭以外の明るい場所を眺めてもらいたい」と思います。ひっついて絶対にあきらめない。それでこそ「ひっつきもっつき」です。物語の終盤で、病床のせいちゃんがひと言ひと言、絞り出すように話す場面は、胸が熱くなります。思いが真っすぐに届いたときの美しさがそこにあります。

電車でんしゃになったあおむし』

  • 菅原真知子=作

  • 鈴木びんこ=絵

  • 絵本塾出版=刊

  • 定価=1,540円(税込)

  • 対象:幼児向け・小学校低学年向け

緑のからだ、丸っこい顔 チョウになれなかったあおむしはどこへ?

 雨上がりの暖かな日。けんちゃんは家の近くで、やってくる路面電車を見ていました。電車が大好きなのです。特に好きなのは、緑色の車体に白い線が入った電車です。前から見ると丸っこい顔に見え、前を通ると笑い掛けてくる気がします。ある日、八百屋さんでキャベツの葉に付いたあおむしをもらってきたけんちゃん。野菜の葉と一緒に虫かごに入れておいたら、ある朝、いなくなっていました。
 いなくなったあおむしは、どこに行ったのでしょう。大好きなあおむしだからこそ、想像はどんどん膨らんでいきます。長年、本誌の表紙を描いてくださった鈴木びんこさんの絵が、豊かなイメージの広がりを生き生きと描き出します。

『海のこびとと ひみつの島』

  • サリー・ガードナー=作

  • リディア・コーリー=絵

  • 中井はるの=訳

  • ポプラ社=刊

  • 定価=1,430円(税込)

  • 対象:小学校低学年向け

ごみを使うって楽しい! でも増え過ぎた ペットボトルには大弱り

 キャンディはラビッシュ島に住むこびと。島のこびとたちは、人間が海に捨てた物を使って家を建て、洋服を作り、ごみを大切に使って楽しく暮らしています。実はこの島も、壊れた船で作った動く島なのです。でもペットボトルが大量に流れ着き、ボトル山が高くなり過ぎて、島の前方が見えなくなって大問題に。何とかしようとスプーン船長はじめ、ユニークなキャラクターたちがアイデアを出しますが…。
 増え過ぎたペットボトルは本当に困りもの。「丈夫で何度でも使えそうなのに、なんでたくさん流れてくるの?」と、こびとたちは首をかしげます。楽しい物語で海のごみ問題を伝える、新感覚ファンタジーです。

『空と大地に出会う夏』

  • 濱野京子=著

  • しらこ=絵

  • くもん出版=刊

  • 定価=1,430円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

人の考えをあれこれ 想像したって意味がない、 そう思ってた、でも…

 6年生のリイチは合理性を重んじ、無駄なことが嫌い。いつも冷静で、他人が言ったことに腹を立てるなんて意味がないと思っています。ある日、リイチは隣のクラスの海空良と偶然、会ったことから、海空良がお菓子作りを習っている家に、一緒に行くことになります。そこは、転校していった大智の家でした。
 何事も適当で無駄が多い海空良と、考えることがずれていて、いつもぼんやりしているように見える大智。成績が良く、スポーツもピアノもできるリイチは、得意なことがないように見えても自分らしく生きている2人をまぶしく感じるようになります。2人との交流を通じて変わっていくリイチの、ひと夏の成長物語です。

『不思議屋 「風待ち」』

  • 西村友里=作

  • こがしわかおり=画

  • 文研出版=刊

  • 定価=1,650円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

絵の中の人が動いた? 不思議なことが起こる 画廊の秘密とは?

 美音は小さいころから絵を描くのが好き。でも母はなぜか絵が嫌いで、美音が中学の美術部に入るのも大反対です。そのことで母とけんかをして家出した美音は、「風待ち」という小さな画廊を営む叔母の家に身を寄せます。画廊に入り、翼の生えた男の子の絵に目がとまった美音。美音は一瞬、その男の子と目が合ったような気がしました。
 絵に描かれた神社にお参りしたり、絵の中に迷い込んだ子猫に母猫が呼び掛けたり。「風待ち」にある絵は不思議なものばかり。それにしても、なぜ母は絵が嫌いなのでしょう。美音の祖先にまつわる話を軸に、絵と現実の世界をつなぎながら、娘の思いと母の思いが重なっていきます。

『水辺のワンダー ~世界を旅して未来を考えた~

  • 橋本淳司=著

  • 文研出版=刊

  • 定価=1,650円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

今、何が起こっているのか 世界各地を巡って 伝える水問題の実際

 インド北部の高地、ラダックは雨が少なく、山々が雪や氷としてたくわえた水を利用して人々は生活をしています。ところが地球温暖化が進んで雪が減ったせいか、使える水が少なくなったと村人は言います。水不足で農作物の収穫量が減り、村を出ていく人たち。人間は水のない場所では暮らせない、そんな当たり前のことを、著者はラダックであらためて思い知らされました。
 日本を含む世界各地の水辺を巡りながら、水問題の現実を伝える一冊です。水不足、水害、生き物の激減など、気候変動の影響は、世界各地でさまざまなかたちで表れています。こうした事例から水問題を考え、行動を起こすきっかけにしてほしいと著者は訴えます。

『もえる! いきもののりくつ』

  • 中田兼介=著

  • ミシマ社=刊

  • 定価=1,980円(税込)

不思議な生態と その訳を楽しく解説 生き物への興味が広がる一冊


センター南校 校舎責任者

 昆虫・哺乳類・鳥など、さまざまな生き物の不思議な生態についてわかりやすく解説しています。81編の独立したエッセイになっていて、どれも身近なほほ笑ましいエピソードから話題に入っているので、小学生でも読みやすいと思います。
 たとえばイシガメ。生まれてくる子がオスかメスかは、卵が置かれた場所の温度によって決まります。温度が低いところだとオスになり、高いところだとメスになります。実は、これは中学入試でも取り上げられたことがある話です。また、鳥のモズは、後で食べるために、捕まえた獲物を枝などに刺しておくという話が出てきますが、この「早贄」も中学入試で取り上げられています。最近の入試では、授業で扱わないような内容でも、説明文を示して、いろいろな方向から理科に落とし込んで考えさせるものが多くなっています。特にこの本は、不思議な生態を紹介するだけではなく、その理由まで説明してくれるので役立つ部分が多いと思います。奇妙な行動に見えても、そこには生きるための「りくつ」があるのです。
 生存競争や集団社会、からだのつくり、賢さなど、さまざまな話が出てきますが、何といっても多いのはオスとメスの話です。オスが出産したり、一匹でオスとメスの両方の役割を果たしたり、途中で性別が変わったり。奇妙な生態であっても、違う生き物にも同じことをするものがいて、興味を駆り立てられます。都会には光に向かわないガが多い、都会の鳥は田舎の鳥より声が大きいなど、人間による光害や騒音が生き物の生態を変えてしまうという話も、知っておきたいところです。
 世界の動物行動学者たちの最新研究を楽しく紹介してくれる一冊です。虫を見て逃げる子どもたちが多いなか、こうした本を通じて少しでも生き物に興味を持ってくれたらうれしいです。知らない生き物のちょっと変わった生態に興味を持つところから、広がってくる世界もあるのではないでしょうか。

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