受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

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2022年7月のBooks

 倶楽部(クラブ)、伯剌西爾(ブラジル)、那翁(ナポレオン)。いずれもいわゆる「当て字」です。今月紹介する『漢字ハカセ、研究者になる』の著者は、中学生のとき漢字集めに熱中しました。特にはまったのが「当て字」で、それらを集めて自分で「当て字辞典」まで作るほど。その後、略字、異体字、国字など、漢字への興味はどんどん広がります。そんな漢字に彩られた人生をつづりながら、漢字のおもしろさを教えてくれる一冊です。漢字練習も必要ですが、たまには漢字の広い世界を眺めてみませんか。

カメレオンのレオン ないしょの五日間』

  • 岡田淳=作

  • 偕成社=刊

  • 定価=1,650円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

あちらの世界と こちらの世界を行ったり来たり 変身探偵レオンが大活躍

注目の一冊

 桜若葉小学校では不思議な事件がたびたび起きます。先生が急に高く跳び上がったり、大きな金魚が空中を泳いでいたり。不思議なことが起こるのは、学校の庭のクスノキにサクラワカバ島につながる通路があって、そこから島の住人がやってくるせいなのです。サクラワカバ島はこちらの世界とは違う世界で、変な人がいっぱい住んでいます。
 その一人、カメレオンのレオンは何にでも姿を変えられます。ふだんはコート姿の探偵ですが、必要とあれば校長先生になったりテントウムシになったり。かばんにだってなれます。その特殊能力を生かして、探偵として二つの世界を行き来しながら事件を解決するレオン。ただ、何にでも変身できるので、読者は途中で混乱させられないよう注意が必要です。大事なところを忘れないでいれば、作者が謎を明かす前にぴんとくるものがあるはず。そこがこの物語のおもしろさです。
 レオンの相棒は、島の高校で歴史を教えているヒキガエルのヒキザエモン。事件解決に喜ぶレオンにヒキザエモンは言います。「アフターケアと言いましてな。そのあとのことをよく見ておかなければいけない、ということでござる」。仕事を重ねるごとに、気持ちのアフターケアができるようになっていくレオン。異世界の物語なのにすっぽり入り込んでしまえるのは、気持ちの描き方がていねいだからかもしれません。この本は、設定紹介を兼ねた第1・2話とメインの第3話、おまけの第4話の4編で構成。楽しいストーリーはもちろん、無駄のない日本語表現の美しさにも注目です。

『おうち りくじょうグランプリ』

  • 二宮由紀子=文

  • 国松エリカ=絵

  • 文研出版=刊

  • 定価=1,430円(税込)

  • 対象:幼児向け・小学校低学年向け

冷蔵庫もテーブルも マットレスもパンツも 優勝めざしてがんばります!

 今日は「デカスロン」の日。「デカスロン」とは100m走、走り幅跳び、走り高跳びなど、十種目で競い、優勝者を決めるレースです。出場するのは「冷蔵庫」「ダイニングテーブル」「マットレス」「食器棚」「勉強机」「洋服ダンス」「ダイニングテーブル」そして「お父さんのパンツ」の8選手です。最初の種目、100m走がスタートしました。さて勝つのは誰かな?
 家にある「もの」たちが競技場で大奮闘するお話です。マットレスが疲れて寝てしまったり、勉強机の引き出しから0点のテストが飛び出したり。そんなハプニングが連続するなか、「途中きけん」も続出。選手たちの表情もゆかいな、大笑い間違いなしの、おうちの中でのレースです。

『だいじょうぶくん』

  • 魚住直子=作

  • 朝倉世界一=絵

  • ポプラ社=刊

  • 定価=1,628円(税込)

  • 対象:小学校低学年向け

ぬいぐるみは言いました 「いちばん好きなのは 子どもの幸せです」

 ある日、そうたがリサイクルショップの前を歩いていると、誰かが声を掛けてきました。声を掛けたのはなんと、店のワゴンにあるぬいぐるみでした。古いカピバラのぬいぐるみのようで、お店では売れないで困っていたので、そうたは持ち帰ることにしました。家に着くとそのぬいぐるみは言いました。「わたしは、まりちゃんのぬいぐるみです。まりちゃんの家を探してもらえないでしょうか」
 そうたと不思議なぬいぐるみとの冒険物語です。それを手助けするのは身の回りにある「もの」たち。でもどうやったら、口もきけない「もの」たちが手助けするのでしょうか。児童文学の名手が贈る、楽しくて心に染み入る物語です。

『病院図書館の青と空』

  • 令丈ヒロ子=作

  • 講談社=刊

  • 定価=1,540円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

名作の挿絵のなかから 手を差し伸べてきた少女は 妖精? それとも幽霊?

 転校して間もなく、病気で入院することになった空花。院内には患者用の図書館があり、本好きの空花が行ってみると、そこにはかつて読んだ、なつかしい名作がたくさんありました。ところが一冊開いてみると、クッキーを焼いている場面の挿絵から、甘い匂いがしてきました。おまけに挿絵の端から、アオと名乗る青い服を着た女の子が、顔を出してきました。びっくりする空花の手を引いて、アオは挿絵のなかに誘い入れるのでした。
 『赤毛のアン』『長靴下のピッピ』などの名作のおいしい場面がたくさん出てきます。アオはいったい何者なのでしょうか。病院が舞台なだけに、読み進むうちに想像が膨らみます。

『ソノリティ はじまりのうた

  • 佐藤いつ子=作

  • KADOKAWA=刊

  • 定価=1,650円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

すごいやつはいる でも俺たちにだって めげない才能がある

 吹奏楽部に入っているからというだけで、合唱コンクールの指揮者を押しつけられた早紀。指揮者には練習をリードしていく役目もあり、おとなしい早紀は気が重くてなりません。一方、晴美は、ずばずばものを言う半面、音痴であることにトラウマがあります。晴美と同じバスケ部には晴美が思いを寄せる涼万と、早紀がひかれる岳とがいて、彼らも悩みを抱えていました。
 悩み、迷い、異性への思いが交錯するなかで成長していく彼ら。4人それぞれの視点で描きながら、合唱コンクール本番の最終章に向けて物語は加速します。汗のしずく、重なる声の響き、シルエットの美しさ。中学生ならではの輝きを描く五感に届く物語です。

『漢字ハカセ、研究者になる』

  • 笹原宏之=著

  • 岩波書店=刊

  • 定価=902円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

漢字とつき合い続けた 人生を振り返って語る 「好きを仕事にするには?」

 著者が漢字に興味を持ったきっかけは、小学5年生のとき。難しい漢字を知っている同級生が、「カンワジテンに載ってるよ」と言ったのを耳にしたことからです。「カンワジテン」とはいったい何なのか。兄の部屋に行って漢和辞典を探して開いてみると、おもしろく、魚へんの字がたくさんあることにわくわくしました。
 漢和辞典との出合いから始まり、「当て字」集めに夢中になった中学生時代、「国字」に興味を持ち始めた高校生時代、そして、研究者になるまでのそれぞれの時期に、漢字のどこにひかれたのかを当時の世相も交えて語り尽くします。好きなことを仕事にするには、「もっと知りたい」が原動力となることが伝わってきます。

『話すチカラ』

  • 齋藤孝、安住紳一郎=著

  • ダイヤモンド社=刊

  • 定価=1,540円(税込)

いろいろな情報に触れ 自分を豊かにすることが 話す力につながる


東戸塚校 校舎責任者

 話手の名手である2人が、人に伝わる話し方について語っています。といっても人に話をするときには、相手の言うことをきちんと聞いて理解することが前提になります。また、人の話を理解するには、ある程度、自分で情報を得ておくことも必要です。この本には、そういった話す前に必要なことも具体的に書かれています。
 わたし自身も「話す」ことをメインとしていますので、どう話したら伝えたい内容が伝わるかを日々考えています。この本にある「人の集中力は15秒ももたないので、短く話すよう気をつけている」「聞く人の興味から外れていると感じたら、用意した素材を捨て、その場で構成を考える」などは、常日頃から大切にしています。
 また、「いろいろな情報を多く得ることで、話のねたや語彙が豊かになって、話し上手につながる」とも書かれています。極端な話ですが、著者の安住さんはTBSに入社当時、テレビを8台買って同時につけていたそうです。多くの情報を得ることが目的だったようですが、同じニュースでも伝え方によって差があり、比較することでさまざまな発見があったと述べています。人は自分が好きなものだけに目が行きがちです。でも、好きなもの以外にいろいろな本を読んだり、興味がない話や聞いたことがある話でも耳を傾けたりすることで知見を広げることができます。それが他者の話を正しく理解し、自身の考えを具体的にわかりやすく伝えることにつながっていきます。
 本書は大学生に講義した話をまとめたものですが、小学生でも読みやすいと思います。全体を通して、話すことも聞くことも情報を集めることも、人とのかかわりに重きを置いて書かれています。この先、どのように社会が変化しようと、人とのつながりがなくなることはありません。人とどうつながっていくか。この本から少しでも学んで、これからの人生に生かしてもらえたらうれしいです。

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