市川中学校・高等学校の教育方針は、「個性の尊重と自主自立」です。そして、親から受ける第一教育、学校で受ける第二教育に対して、「自分で自分を教育すること」を「第三教育」と名づけ、教育の柱としています。生徒みずからが考え、行動するためのきっかけづくりの場として開講されている「土曜講座」について、第三教育部部長の坂本修治先生と、中3のサピックス卒業生3人にお話を聞きました。
興味のあることに出合い
自分で追究していくことの大切さ
第三教育部部長・
第三教育センター長
坂本 修治先生
―最初に、第三教育部部長の坂本先生にお聞きします。「土曜講座」の内容と狙いについて教えてください。
坂本 本校の教育の柱に、自分で自分を磨いていく「第三教育」があります。この第三教育の実践の場の一つが「土曜講座」です。各分野の第一線で活躍する著名人を講師として招き、講演をしていただいています。年間8回開催し、毎回2名の講師を招くので、1年間に開講されるのは16講座です。全学年の生徒が興味のあるテーマを選んで受講できます。生徒たちには、トップレベルの研究や活動に関する話を聞いて刺激を受けるとともに、興味のあることを見つけ、追究していくことの大切さを感じてほしいと思います。講師の方々も、好きなことを突き詰めた先に今があるというメッセージを生徒たちに送ってくれます。
―中3の皆さんにお聞きします。今日も二つの講座が開講されましたが、どちらを受講しましたか。感想も聞かせてください。
中川 「市民科学とは? ~人新世と向き合う科学・教育・社会のイノベーション~」を受講しました。「市民科学」「人新世」ということば自体、初めて聞いたのですが、意外と自分の身近にあるテーマで、自分にかかわるものだと気づきました。「市民科学」とは、科学を本職としない一般の人(市民)が科学研究のプロセスにかかわることです。もちろん市民にはぼくたち中高生も含まれます。「人新世」とは、人類活動が地球環境を大きく変えた過去半世紀ほどの時代を意味するそうです。ぼくは理科が好きなのですが、地球が1年間に供給できる自然資源の量と、人間がそれを使い果たしてしまう速さなどがわかり、とても興味深い内容でした。
阿部 わたしは「芸術を友に ~文学、美術、音楽に親しむ日々を~」を受講しました。講師の先生はショパンの研究家でもあり、音楽家としてのショパンだけではなく、彼の内面や人生などを詳しく解説してくださいました。これまでショパンの曲をピアノで弾いたことはありましたが、彼の人間性などは知りませんでした。それを知ったうえでピアノを弾くと、また違う感情が生まれるような気がします。
木檜 わたしも「芸術を友に」の講座を受講しました。今までずっと音楽が好きで、音楽にしか興味がなかったのですが、今日は文学、美術(絵画)の魅力も知ることができました。創意工夫して多くの人に感動を届けるという点は、音楽と共通していると感じたので、これからは広く芸術に触れてみたいと思いました。
―これまでで特に印象に残っている講座はありますか。
阿部 昨年、プロの指揮者の方を招いた講座があったのですが、その講座は、わたしが所属するオーケストラ部と共演するかたちで開催されました。プロの指揮で演奏する貴重な経験となりました。
木檜 わたしもオーケストラ部なので、プロの指揮者の方の講座が印象に残っています。中1~高2の部員約100名で演奏しました。それまでわたしは楽器を弾くことで精いっぱいだったのですが、指揮者の方が音の強弱、表現の変化などを的確に教えてくださったので、演奏力が身についたと思います。
阿部 受講している生徒のなかから指揮者を募って演奏する体験型の試みもあり、とても盛り上がりました。毎年音楽系の講座があって楽しみにしていますが、中1のときの、人気テレビドラマのチーフプロデューサーの講座も印象に残っています。テレビドラマを制作する現場の裏側の、非常に興味深いお話を詳しく聞けました。
中川 JAXAの「はやぶさ2」のプロジェクトメンバーである教授による講座もおもしろい内容でした。宇宙の謎についての話、そして「はやぶさ2」の小惑星探査ミッションについての説明を聞いて、宇宙のことをもっと知りたいという思いが強くなりました。
「自分も」という思いが
生徒たちに受け継がれていく
左から、中川 洋さん(サピックス松戸校OB)
阿部 遼さん(サピックス海浜幕張校OG)
木檜 茉美さん(サピックス松戸校OG)
―「土曜講座」を通して何を身につけてほしいとお考えですか。
坂本 今日の芸術の講座の質疑応答で、高2の生徒から、「ぼくは理系を選択していて、芸術の知識はあまりないのですが、どのように芸術に触れればいいですか」という質問がありました。講師の先生は、「ぜひ、美術館に足を運んでみてください。理系の生徒さんならではの感じ方もあると思います」というアドバイスを送ってくれました。このように、土曜講座をきっかけにして視野を広げ、「この分野もおもしろい」と気づいてほしいのです。
―自分で自分を育てる「第三教育」を重視する市川中の魅力を、あらためて教えてください。
坂本 「自分が土曜講座の講師になって戻ってきます」と言っていた卒業生が、実際に講演してくれたときはうれしいですね。「自分も」という思いが生徒たちに受け継がれていきます。
阿部 文系・理系の選択は、「この教科が得意だから」ではなく「将来やりたい仕事に必要だから」という理由で選ぶべきだと先生からもよく言われています。興味のあることに出合うきっかけをくれる土曜講座は、魅力的なプログラムです。
木檜 たとえば文化祭の企画も、体育祭の種目も、自分たちで決めて取り組み、実現させます。あらゆる場面で「自分」を発揮できる学校なので、主体性が身につくと思います。
中川 6年間好きなことに打ち込める学校だと思います。ぼくは部活動(ハンドボール部)にも熱中しています。自分次第で成長できる環境だと実感しています。
坂本 本校では、図書館を「第三教育センター」と呼んでいます。本を借りて読む場所や自習スペースとして利用するだけでなく、授業でも使用しています。図書館を活用して、探し、調べ、読むという行動を伴う授業です。国語の授業で始め、現在は理科・社会科でも取り入れています。こうした、いろいろな仕掛けのある学校であるという点も魅力です。
中高生が自分事として環境問題に向き合う「市民科学」をテーマとした講座。受講レポートは、講演後にその場で提出します
芸術に触れる魅力を伝える講座は、約200人が受講。質疑応答では、生徒が積極的に質問し、講師がていねいに答えます