中高一貫校として今年で14年目を迎えた二松学舎大学附属柏中学校・高等学校は、「人間力の向上」と「学力の向上」を柱に、多様な価値観を共有できる真の国際人の養成をめざしています。そのなかで特に力を入れているのが探究学習です。「グローバル探究」「総合探究」の2コース制に加え、地域から世界へと視野を広げる体系化されたプログラムについて、グローバル探究室長の森寿直先生にお聞きしました。
中3の探究学習がリニューアル
「学問・国際・地域」から分野を選択
グローバル探究室長
森 寿直先生
二松学舎大学附属柏中学校では、2022年度から「グローバル探究」と「総合探究」の2コース制を導入し、探究学習を通じた21世紀型スキルの育成に力を入れています。この2コース制を導入した経緯について、グローバル探究室長の森寿直先生は次のように話しました。「本校では、まだ『探究』ということばが一般的ではなかった約10年前から、教科横断型・課題解決型の『自問自答プログラム』を推進してきました。それらのノウハウがある程度蓄積されてきたタイミングで、あらためてその中身を整理し、より深い学びを実践できるよう、カリキュラムの体系化を考えたのです」
探究学習の目玉となるのは、中3の「『探究』~自問自答~」で、興味のあるテーマについて1年かけて研究・考察を行い、論文にまとめて発表します。今年度はその内容を一部リニューアル。これまでは個人研究がメインでしたが、今年からはグループ研究も選べるようになりました。また、テーマも「学問探究(アカデミックフィールド)」「国際探究(グローバルフィールド)」「地域探究(ローカルフィールド)」からの選択制とし、いずれかの分野で探究学習を進めていきます。
たとえば「学問探究」では、各教科に紐づく学問に関する疑問や、そこから派生したテーマを掘り下げます。数学であれば素数、公民であれば憲法学など、個別のトピックについての見識を深める生徒のほか、「南極に花を咲かせるには」という視点から冷凍庫で植物を育てたり、木材を透明化できる薬剤を用いて「透明木材の活用方法を考える」というテーマに挑戦したりしている生徒もいるそうです。
一方、「国際探究」は、グローバル探究コースの生徒が対象です。身の回りの社会課題の解決策を探る「ソーシャルチェンジ」と、企業研究を発展させ経営課題にアプローチする「コーポレートアクセス」との二つの切り口で、高い課題解決能力を身につけていきます。
手賀沼をテーマにした「地域探究」
教科横断型の学びで地域理解を深める
そして「地域探究」では、学校に近接した利根川水系の湖沼「手賀沼」をテーマにした教科横断型の探究に取り組みます。手賀沼はかつて「日本一汚い沼」と呼ばれるほど水質汚染が進んでいましたが、さまざまな働きかけによって今ではずいぶん改善されています。生徒たちにとっても、中1のころから「沼の教室」と題して、生物観察や水質調査を行っているなじみ深い場所であり、その手賀沼をより深く分析するのが、この「地域探究」です。今年は「水」「文学」「鳥」という独自の観点から調査を行いました。
まず、「手賀沼と水」では、沼の5か所の採水ポイントで、水のCOD(化学的酸素要求量)を測定。そのデータを、直近数か月の数値や、40年前の数値、ほかの地域に流れる水の数値と比較しました。「生徒たちは、夏休みを利用してさまざまな場所から水を採取してくれました。おかげで、海外はイギリスのケンブリッジに流れるケム川、カナダのバンクーバーにあるスタンレーパーク内のロストラグーン、国内は東北地方から中国・四国地方まで、30か所以上のデータが集まりました」と森先生。収集した数値はグラフにしてまとめますが、森先生は「棒グラフがいいのか、折れ線グラフがいいのかなど、見せ方を工夫しながらデータ処理を行いました。生徒たちは意外にもバンクーバーのロストラグーンより手賀沼のほうが水質が良いことに驚いていましたね」と明かします。
次に「手賀沼と文学」では、スペイン風邪を題材にした志賀直哉の小説『流行感冒』を取り上げました。志賀直哉はかつて我孫子(現・我孫子市緑)に居を構えており、手賀沼にも深い縁があるためです。生徒たちは我孫子市の古地図を取り寄せ、作品に出てくる景色を現在の町並みに重ね合わせたり、当時の新聞記事を検索し、1919年に流行したスペイン風邪と2020年に流行した新型コロナウイルスの類似点・相違点について考察をしたりしました。
最後に「手賀沼と鳥」では、鳥の研究で学会参加経験を持つ高3の女子生徒の協力を仰ぎ、渡り鳥の観察を行いました。具体的には、学内のどこにどのような鳥がいたかをマッピングし、鳥にとって手賀沼および学校施設がどのような役割を持つのかを調べるというもの。設置した巣箱のうちの一つにシジュウカラが巣を作ったことから、巣材を調べたところ、木の皮やコケのみならず、化学繊維や人毛が多く使われていることが判明しました。「その結果からわかったのは、人間の近くで生活するのは鳥にとってもメリットがあるということ。生徒たちは学校環境の価値や人間が野鳥に与える影響を見直すことができたようです」と森先生は振り返ります。
手賀沼の水質調査を行う「手賀沼と水」。ほかの場所から採取した水と比較することで、より理解を深めています
「手賀沼と鳥」では、シジュウカラ用とスズメ用の巣箱を製作し、学校敷地内に10か所設置しました
探究学習が希望進路実現を後押し
地域に根ざした活動で世界を変える
これらの探究学習の成果は、生徒たちの希望進路の実現にもつながっています。ある生徒は、斎藤道三の娘で織田信長の正室となった「濃姫」について研究に取り組んだところ、その内容が評価され、筑波大学に合格しました。また、ある生徒は柏市内の神社仏閣をくまなく回り、それぞれの建立の由来を調べたことが、地方創生や地域活性化への興味につながり、國學院大学観光まちづくり学部に進学。将来は土地の歴史を尊重した新しい街づくりをするのが夢だそうです。
森先生は、同校の探究学習の特徴を「地域に根ざしている点」と述べ、次のように続けました。「世界で問題になっていることを『柏市ではどうか』『手賀沼ではどうか』と身近な例に落とし込んで比較・考察を行うからこそ、地域のことをより深く知ることができ、それがゆくゆくは世界を変える第一歩になると考えています。世界的な視点を持ち、身近なことから実践するという『グローカル』な考え方こそ、まさに本校が大切にしている姿勢です」と語ります。
最後に森先生は、同校の求める生徒像を「机上の勉強に満足せず、実際に『見てみたい』『触れてみたい』という意欲にあふれた生徒」と説明する一方で、「今はまだ『自分が何をやりたいのかわからない』という生徒にもぜひ来てほしい」と言います。「それは本校が、皆さんの心を動かすような多彩な体験活動を用意しているという自信の裏返しでもあります。その出合いを楽しみに、ぜひご入学いただきたいと思います」