森村学園では、建学の精神である「独立自営」の下、「アカデミックマインド」「テクノロジーマインド」「グローバルマインド」からなる「イノベーションマインド」の涵養に力を入れています。なかでも「テクノロジーマインド」の土台として重視しているのが理科教育です。多彩な実験を通じて、確かな科学的思考力を育む同校の理科教育について、理科主任の栗原美幸先生と理科教諭の飯塚明範先生にお聞きしました。
さまざまな実験を通して
机上の知識を自分のものに
理科主任 栗原 美幸先生、理科教諭 飯塚 明範先生
森村学園では、これからの時代に必要なスキルを「アカデミックマインド」「テクノロジーマインド」「グローバルマインド」という三つの柱に集約し、それらをバランスよく身につけるための教育活動として「イノベーションマインドプロジェクト」を推進しています。
なかでも、技術革新が加速する現代社会を生きるうえで重視しているのが、「テクノロジーマインド」を支える理科教育です。モットーとして「Practical Science 実験ベースで科学的思考力を育む」を掲げ、中高ともに、実験を多く取り入れた授業を展開しているのが特徴です。
理科の具体的な授業内容について、「第一分野と第二分野を週に2時間ずつ、先取りせずにじっくり進めています。全学年で実験を多く取り入れていますが、中1の1学期は特に顕著で、2~3回に1回の頻度で実験を行います」と理科主任の栗原美幸先生は説明します。
実験は、3~4名のグループに分かれて行われ、生徒たちは積極的にコミュニケーションを取りながら、手を動かす人が偏らないようにうまく役割を交替しているそうです。また、授業中は、担当教員に加えて、教員免許を持つ実験助手を必ず配置。生徒が安心・安全に実験を進められるように配慮しています。
先日は、中1のクラスで「固体の融点を調べる」というテーマの下、パルミチン酸を加熱する実験が行われました。時間の経過とともに温度を測定し、グラフに記録していくというものですが、パルミチン酸の温度が63℃付近から上がらない現象に、生徒は戸惑いをみせたそうです。「そのとき、生徒は『失敗してしまったかも』とつぶやいていました。しかし、その温度が一定になる現象こそ、その固体の融点を示すものです。つまり、生徒たちには『固体には融点がある』という知識こそ頭にあっても、実際に未知の物質を加熱し、温度が一定になった現象を見た際の反応では、知識と現象をうまく接続させていない状態であるとわかりました」と栗原先生。そのため、授業にたくさんの実験を取り入れることで、「中学受験や学校の授業で得た机上の知識を、確実に自分のものにしてほしい」と栗原先生は考えています。
日常を意識した理科実験で
生徒の科学的関心を高める
授業に実験を多く取り入れるようになってから、「生徒の科学的関心は高まってきている」と栗原先生は言います。たとえば、ある生徒がスーパーでアイスクリームを買ったとき、保冷用のドライアイスを入れるポリ袋に穴が開いていたそうです。そのことを疑問に思った生徒が、「なぜなのか」と栗原先生に尋ねてきたことがありました。そこで、栗原先生は「ドライアイスは温度が上がるとどうなる?」「物質が固体から気体になるとき、体積はどうなる?」と一つずつ質問してみたところ、生徒は「あっ」という顔をして、その理由に気づき、納得したそうです。「日常生活のなかには、科学的現象がたくさん潜んでいます。小さなことにでも『なぜ』『どうして』と疑問を持ち、その仕組みを理解することも、科学的思考力を高めるうえで非常に大切だと考えています」(栗原先生)
現在、中2の生物と地学を担当する理科教諭の飯塚明範先生も、「日ごろの授業で心がけているのは、日常の現象と科学を結びつけること」だと言います。先日は、ボンタンアメを食べて、オブラート(デンプン)がどのように分解されるかを実際に口の中で体験する試みを行いました。オブラートを口に含むと、唾液の作用でデンプンがアミラーゼに変質するため、デンプンの状態のときは無味だったオブラートが、アミラーゼに変化した途端、甘さを感じるようになるというもの。「生徒たちは『プラスチックみたいなシートが、お餅の味に変わった』と驚いていました。教員にとって、デンプンは甘くないのは常識ですが、生徒にとってはそうではありません。実際に体験することで、認識の齟齬も解消できたので、とても意義があったと思います」と飯塚先生は振り返ります。ほかにも、種子の模型を校舎の3階から落とし、どのように落下していくのか、どのようにすれば滞空時間が延びるのかを考える実験、化石を掘る体験など、生徒の知的好奇心をくすぐるプログラムを数多く実施しています。
さらに、関心の高い生徒には、休日を使った発展授業も行っています。昨年は、狛江の川辺で化石を探す試みを実施したそうです。飯塚先生は、その狙いについて次のように説明します。「理科を学ぶには、知識も必要ですが、それは高等部に上がってからでも間に合います。中等部生のうちは、理科を通して『わくわくした』という経験をたくさん味わってほしいのです」
中1の化石発掘の授業の様子。約30万年前の湖底の地層から、木の葉化石やハエの化石が発掘されました
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理科実験におけるICT活用を進めている森村学園。授業での実践は学会誌にも掲載されています
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生徒が夏休みを利用して作成する「筋肉の収縮モデル」。どのように筋肉が体を動かしているかを学びます
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同校の理科学習の土台を支える
人前で積極的に発言できる雰囲気
これらの理科学習が活発に行われる背景には、人前での発言をいとわず、積極的に意見を共有しようという生徒の雰囲気も大きいと言います。「素直な生徒が多いのが、森村学園の特徴です。自分の考えを自分のことばで表現できる、そしてそれをみんなが受け入れるという土壌があります」と栗原先生。飯塚先生も「わからないことをわからないと素直に言える子が多いですね。そういう子の存在は、『こんなことを質問したら恥ずかしいのでは』と思ってなかなか手を挙げられない消極的な子にも、好影響を与えています」と話します。
最後に、栗原先生と飯塚先生は、受験生に向けて次のメッセージを送りました。
「受験勉強の際には、問題を解くだけではなく、それが身の回りのどういうことに結びつくかを意識してください。実験の知識にしても、『なぜそうなるのか』と考えながら学ぶ習慣をつけてほしいと思います。自分の中にイメージを膨らませて、それを自分のことばとして表現することが大切です」(栗原先生)
「わくわくしたいという気持ちがある生徒と一緒にがんばっていきたいですね。本校は、成績によってクラスを分けることはありません。できる子もいれば、できない子もいて当たり前の、多様性のある学校です。どんな子でも伸び伸びと個性を発揮できる環境があるので、もし興味を持っていただけたら、一度学校に足を運んでみてください」(飯塚先生)