創立以来、“時代を超えて輝き、翔ばたく女性”の育成に取り組んできた、共立女子中学高等学校。近年では、特定の分野について高い能力と意欲を持ち、大学レベルの学びに触れる機会を希望する生徒が増加していることから、東邦大学理学部との高大連携を強化しています。夏休みを利用して行われた東邦大学による実験講座と、ワークショップの様子をレポートします。
電気の性質を学びながら
オーロラの発生にチャレンジ
東邦大学理学部物理学科の准教授である古川武先生。装置を用いて、オーロラを人工的に発生させます
7月23日(火)、共立女子中学高等学校で、中学生を対象とした東邦大学理学部による実験講座「夏のサイエンス・フェスタ オーロラを作ろう!」が行われました。担当したのは、東邦大学理学部物理学科の准教授、古川武先生です。
「オーロラとは、北極や南極などの極地に近い場所で見られる、空一面に光が広がる現象のこと。『太陽風』として宇宙から飛んできた電子と、大気中の小さな原子・分子が衝突することで発生します。そのオーロラの光を人工的に作ってみましょう」と古川先生は説明しながら、装置を使ってオーロラの光を再現しました。不思議な紫色の光に、生徒たちも「すごい」「きれいだね」と興味津々です。
本実験講座では、1班4人のグループに分かれ、プラズマボールという装置を利用してオーロラの光を再現します。プラズマボールとは、透明なガラス球の中心に高圧の電極を設置し、中に窒素ガスなど混合気体を閉じ込めたもの。回路をつなげて電気を流し込めば、オーロラと同じ原理で紫色の光を発生させることができます。なお、「一つのプラズマボールのみ、窒素ガスではなく別のガスを入れている」と古川先生。何色の光を放つのか、併せて確認します。
まず、光を発生させる高周波高電圧の回路を作ります。タイマーIC回路とトランジスタを電源につなげるという作業ですが、「これでいいのかな」「ちゃんとつながっているのかな」と生徒たちは四苦八苦。つなぎ方を間違えると回路が壊れてしまうため、説明書を読みながら慎重に作業を進めました。
接続が完了すると、古川先生は一班ずつ回りながら、装置に電気を流します。「電気を流しているときは感電の危険があるため、回路には絶対に触らないようにしましょう。感電すると、とても痛いですよ」と注意すると、生徒たちは手を机から引っ込めて、真剣な表情で古川先生の作業を見守ります。
電気を流すのが成功すると、プラズマボールの内部がぴかぴかと光り始めました。実験室の明かりを消すと、ガラス球の中に美しい紫色の放電光が揺らめいているのがはっきりと確認できます。ガラス球に指で触れると、紫色の光は魔法のように指に向かって伸びていきました。生徒たちはガラス球に触れながら、「両手で触れるとアニメの超能力者みたいだね!」「触ると少し温かいね」と、口々に感想を述べていました。
さらに、古川先生が明かりのついていない蛍光灯をプラズマボールに当てると、不思議なことに蛍光灯がパッと光りました。「電気には、より通りやすいものへ流れていくという性質があります。プラズマボールから流れる高周波の電気が人間の体を通じて地面に流れていく途中で、より電気の通りやすい蛍光灯の中を通過するため光ったのです」と古川先生。そして、蛍光灯が光る原理はオーロラと同じで、電気が流れる際に、電子が蛍光灯の中に満たされたガス(原子)と衝突・放電し、紫外線の放電光がガラス管内面に塗布された蛍光物質を光らせていると説明しました。
さて、先述した「窒素ガスではなく別のガスを入れた装置」は、何色に光ったのでしょうか。答えはピンク色で、窒素ガスではなく貴ガスが入っていたとのこと。古川先生は、「なぜガスの種類によって色が変わるのか、発展問題として、ぜひ皆さんも家で考えてみてください」と提案しました。
最後に古川先生は、生徒たちに「日常の当たり前の現象に疑問を持ってほしい」とメッセージを送りました。「自然現象であるオーロラと、ふだん何気なく使っている蛍光灯が、同じ放電現象に起因して光っていることには、皆さんも驚いたと思います。このように、『なぜ光っているのか』といった疑問を抱き、試行錯誤することで、科学は発展してきました。皆さんも、身の回りの『当たり前』に、どんどん疑問を抱いてほしいと思います」
実験講座に参加した生徒は、「何となく『きれいだな』と思っていただけのオーロラのしくみを知ることができて、とても参考になりました。今後、テレビ番組でオーロラの特集などがあった際は注目したいです」と感想を述べました。古川先生の実験講座は、理科への興味・関心を刺激する貴重な機会となったようです。
自分にとっての「幸福」とは何か
将来を考えるワークショップを実施
実験講座に続いて、東邦大学理学部生命圏環境科学科の朝倉暁生教授による、「将来を考えるワークショップ」が行われました。テーマは「これからの社会に求められるWell-being」について。Well-beingとは、well(良い)とbeing(状態)からなることばで、その人が身体的・精神的・社会的に幸福な状態であることを指します。日本の幸福度は世界各国と比べると低いという調査結果がありますが、どのような状態であれば幸福といえるのでしょうか。
「配布した『ウェルビーイングカード』を見てください。そこには、希望・思いやり・平和・自然など、26のキーワードが並んでいます。自分のWell-beingにつながるものを三つ選び、その理由をグループ内で発表しましょう」と朝倉先生。生徒たちは、「せっかく働くなら熱中できることがいいから、『熱中』のキーワードが大事だと思う」「わたしは『応援・推し』を選ぶかな。推しがいると毎日が楽しいから」と、思い思いにみずからの考えを発表しました。
最後に朝倉先生は、イギリスの統計学者ニック・マークスと、アメリカの精神科医ロバート・J・ウォルディンガーが提唱した、「幸福であるためのポイント」を紹介しました。
「二人は、良い人間関係をつくること、活動的であること、学び続けることなど、幸福になるためのヒントを教えています。特定の学校や会社に入りさえすれば、幸福になれるわけではありません。皆さんも進路を考える際は、先人の知恵を参考にしながら、『そこで何をするのか』『どのような人たちがいるか』『どのような理念を持つか』ということを重視してほしいと思います」と朝倉先生。本ワークショップは、進路について真剣に考える、良いきっかけとなったに違いありません。
2022年に東邦大学理学部と高大連携協定を結んだことで、大学レベルの実験や研究がより身近になった共立女子。今後も、物理・生物・プログラミングなど、さまざまな分野の講座やワークショップを実施していく予定です。
ガラス球の内部で紫色の光が発生すると、生徒たちから歓声が。ガラス球に触れると、光が指のほうへ伸びていきます
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実験講座を受講したIさんとMさん。マジックのように、ガラス球や蛍光灯が光ることに驚いたと話します
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Well-beingにつながるキーワードを選ぶ第2部のグループワークでは、「平和」を選ぶ生徒が多かったようです
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