受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

School Now

(「24年6月号」より転載/24年5月公開)

攻玉社中学校・
高等学校

本質の学びを体験する授業が
「知識」を使える道具となる「知恵」に変える

 「誠意・礼譲・質実剛健」を校訓に掲げ、学力の養成だけでなく、人格教育も重んじている攻玉社中学校・高等学校。160年を超える歴史のなかで、いつの時代においても大切にしてきたのが、それぞれの教員が信念を持って取り組む授業です。今回は、中1と中3の生物の授業の様子を見学し、授業を通じて生徒にどのようなことを伝えたいのか、生物科の袴塚瑛介先生に伺いました。 ※2月6日に取材しました。

生徒が「参加」できる授業を展開
実物に触れ、みずから作業を行うのが基本

生物科
袴塚 瑛介先生

 初めに見学させてもらったのは、中1の国際学級の生物の授業。この日は標本室の見学を行います。同校には、約3000もの動植物の標本が展示されている充実した標本室があり、100年以上前から集められた貴重な資料が保存されています。ふだんは入室できないので、中1の生徒がじっくり見学するのは初めてのことです。

 まず袴塚先生が標本の種類やラベルの見方などを解説。標本を観察すると生物の歴史を追えることや、生物の種類によって保存の仕方が異なることなどを学びます。そして、いよいよ標本室へ。生徒はたくさんの標本のなかからお気に入りのものを一つ選んで、それをスケッチします。一つひとつ興味深く観察しながら、楽しそうな様子で“推し”を探していました。授業後には、選んだ生物に関してインターネットや本で調べたことをまとめ、レポートとして提出します。

 次は中3の同じく国際学級の授業です。テーマは「土壌動物の観察」。袴塚先生が、「腐食連鎖」というサイクルで土壌動物や菌類・細菌類が果たしている役割を説明した後、生徒たちは実際に土から土壌動物を探す実験を行いました。

 この実験は、土をザルでふるいにかけて、ビニールの上に薄く広げ、動いているものを見つけたらピンセットを使ってシャーレに採集するという手順で行われます。採集の時間は10分間。全員が夢中になって、土を細かく観察しながら、生物を探しています。集中しているので、最初は張り詰めた空気も漂っていましたが、生物を見つけると、「あっ、いた」「おー」などと声が上がり、徐々に和やかになっていきました。採集の時間が終わると、生物を顕微鏡で観察。「円盤検索表」を用いてどの生物かを推定し、生物名とその特徴やスケッチを指定の用紙に記録します。

 中1・中3のどちらの授業も、生徒が実物に触れ、自分で作業をしながら理解することを基本として進められました。生徒たちが生き生きと授業に「参加」している姿が印象的でした。

身近なものから実物を体験する授業は
時代を超えて受け継がれていく

 袴塚先生は、今の時代の中学・高校生の生活環境について、次のように語ります。「生物に触れる機会は年々少なくなっており、なかには『怖がって』、標本を見たり、解剖に参加したりすることができない生徒もいます。また、インターネットなどで入ってくる情報の量も以前とは比べ物になりません。しかし、ネットの情報が正しいとは限らないので、学校の授業を通じて『本質の学び』を体験してほしいと思っています」

 授業で大事にしているのは、「『知識』を使える道具として『知恵』に変えること」だと言います。教員はただ一方的に教え込むのではなく、好奇心が膨らむように解説。その後、生徒が実物に触れる経験を積むと、それが自分だけの経験となり、自分の知恵をつくっていく基礎となります。そうして身につけた知恵は、ほかの学問の分野とも結びついて広がっていくため、社会に出たときに役に立つ道具となるのです。

 教室で頭をはたらかせ、手を動かして、先生に質問したり、生徒同士で意見を交わしたりすることは、授業でないとできない貴重な経験です。袴塚先生は「本校ではアクティブ・ラーニングはずっと昔から行われてきました。時代の変化に柔軟に対応し、ICTも活用していますが、『何をやるべきか』という本質は変わっていないと思います。できるだけ身近にあるものを生かして、生徒に実物に触れてもらうことを第一に考えています。また、体験をその場かぎりのものとするのではなく、『知恵』として持ち帰ってもらえるように、目的を明確に示すことも心がけています」と説明します。

 最後に袴塚先生は、受験生に向けて次のメッセージを送りました。「攻玉社がこだわっているのは授業です。わたしは本校の卒業生で、在学中に『こんな授業をやってみたい』と思ったことが、教員をめざすきっかけになりました。皆さんが中学受験で身につけた知識は、中学・高校の授業で学ぶさまざまなこととつながり合って、知恵となります。本質が学べる授業をぜひ体験してもらいたいと思います」

標本室を見学する前に、実験室で液浸(えきしん)標本や剝製(はくせい)標本の説明をする袴塚先生 中1の生徒たちは標本室に入ると、たくさんの生物の標本をじっくりと観察しました ルーペとピンセットを使って、土の中を細かく見ながら生物を探している中3の生徒
サピックスを卒業した中1の生徒にインタビュー
「本物に触れる経験で、生物への興味が持てた」

――今日の授業にはどんな感想を持ちましたか。

佐々木 ふだんは見られないような標本をたくさん見ることができたので、楽しかったです。

中村 自分の学校にこんなに貴重な資料が残っているのを知らなかったので、とても興味深く見ました。

――攻玉社で授業を受けてから、生物に対する興味は変化しましたか。

佐々木 もともと生物はそれほど好きではなかったのですが、授業で学んだ知識について、実験室で本物を見るという経験を積むと、興味が持てるようになりました。

中村 理科は暗記がほとんどかと思っていましたが、葉脈だけの標本を見る授業があって、自分なりに葉のつくりを考えてみたら、「生物っておもしろいな」と思えました。インプットだけだと自分のなかに知識があまり残らないけれど、スケッチやレポートなどでアウトプットすると定着するように思います。

中村 航晴さん(左)と佐々木 煌太さん(共に中1国際学級)

――攻玉社を志望した理由を教えてください。

佐々木 ある程度きちんとした規律があるなかで、生徒が自主的に行動できる校風が自分に合っていると思いました。

中村 国際学級の存在が大きかったです。自分の強みを生かしながら、英語以外の教科も伸ばせる環境で学びたいと思いました。

《学校のプロフィール》

攻玉社中学校・高等学校

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