暁星中学校・高等学校は、学校生活を通じて他者とのかかわりを学び、多くの人々の幸福のために行動できる人物の育成を教育活動の基本としています。放送部の生徒たちは、2023年6月の運動会で、インターネットを利用した生中継に挑戦しました。コロナ禍による活動停止期間を経て、なぜ新システムの導入に挑んだのか。その思いを、今春同校を卒業する2人に伺いました。
学校生活に欠かせない
放送部で過ごした6年間
左から、城倉 拓人さん、矢野 良樹さん
暁星中学校・高等学校の放送部では、校内連絡をアナウンスしたり、学校行事で音楽を流したりするなど、音にかかわるさまざまな活動をしています。
城倉拓人さんと矢野良樹さんは、中高6年間、放送部で活動しました。「入部したきっかけは、矢野さんに誘われてクラブを見学したこと。流す音楽を選定するなど、音にかかわる活動ができるところが楽しそうだと感じました」と、城倉さんは思い返します。一方の矢野さんは、小学校でも2年間放送部に入っており、中高でも続けたいと思って入部したと言います。「ただ、一人で入部するのは少し寂しかったので、城倉さんに声を掛けました」と笑みを浮かべました。
放送部は、日々の学校生活や行事で欠かせないものの、あまり目立つクラブではありません。しかし、多くの魅力があると2人は語ります。「アナウンスでは、大勢の人に情報をどのように伝えるか、どのように話せばわかりやすく伝わるのかといったことを考えるのがとても楽しいと思います。エトワール祭(文化祭)で音楽を流すときは、より聞きやすい音に調整するという腕の見せどころもありました」と矢野さん。城倉さんもこれに同意しながら、「入部してすぐにコロナ禍に突入し、活動を再開したころには指導役の先輩が卒業していたという困難もありましたが、自分たちで音響を一から学ぶことにやりがいを感じました」と話します。
時間も予算も限られるなか
生中継を実施する方法を模索
運動会の開会式の様子。全学年での運動会が実施されたのは実に3年ぶりであることもあり、生徒たちは大いに盛り上がりました
2人は、中高6年間の集大成として、2023年6月の運動会で、動画配信サイトを利用した生中継を実施しました。知識がないにもかかわらず挑戦すると決めたのは、コロナ禍での経験が大きかったと城倉さんは言います。「運動会に行きたくても、感染するのが心配であったり、遠方に住んでいたりなど、さまざまな事情で会場で観戦できない方がいることを知り、見てもらえる機会をつくりたいと思いました」
2023年度の酷暑も挑戦のきっかけになりました。保護者の方が、わが子が出場していないときは室内で休憩しながら中継を見られるようにするなど、長時間外にいなくても快適に観戦できる環境をつくりたいと考えたそうです。
「コロナ禍による活動停止の間に先輩方が卒業し、いきなり放送部の部長になってしまいましたが、これを機に新しいことを始めようと思いました。そこで思いついたのが生中継だったのです。多くの学校で、インターネットを活用した行事の配信をしており、ぼくたちにもできるはずだと挑戦を決めました」と矢野さんは振り返ります。
生中継は、さまざまな視点から競技を見られるように、グラウンドに3台のカメラを設置し、パソコンとつなげて実施しました。ここで問題となったのが、インターネット配信には欠かせないLANケーブルの長さです。グラウンドにあるカメラから、教室内にあるパソコンへとつなげるには、長さがまったく足りなかったのです。そこで放送部のメンバーは、対処方法を本やインターネットで調べ、無線LANルーターやLANリピーターを設置して何とか課題を解決することができました。
城倉さんは、時間と予算がなかったことにも苦労したと言います。「生中継を企画したのは、高3の5月ごろ。6月の運動会本番まで、2か月ほどしかありませんでした。その間に中継の方法を考えるだけでなく、機材もそろえる必要がありましたが、予算は限られています。一部のカメラは友人から貸してもらったり、学校の備品を利用したりしました」とのこと。矢野さんもうなずきながら、「実施には相当なプレッシャーがありました。先生方や後輩たちなど、多くの方に手伝ってもらったので、本番で失敗したらと思うと怖かったです。無事に終わり、本当に安心しました」とつけ加えました。
試行錯誤する難しさと
やり遂げる楽しさを学んだ
生中継は、生徒や保護者から高い評価を得ました。「生徒からは、自分の活躍を映像で見返せるのがうれしいという声をもらいました。また、保護者の方からは、遠方に住んでいる親族も見ることができたのでよかった、家で家事や仕事をしながら見られてよかったという喜びの声をいただきました」と矢野さん。来年度以降も、後輩たちに生中継を続けてほしいと2人は話します。
さまざまな困難を乗り越えて、生中継を成功させた放送部。この挑戦で多くのことを学んだと言います。「知識をゼロから積み上げていくのは、大きなやりがいを感じました。中高最後の運動会で、仲間と力を合わせて結果を出せたことは、今後の糧になると思います」と城倉さん。矢野さんも、「試行錯誤する難しさを実感しましたが、『生中継、とてもよかったよ』とたくさんの方から喜びの声をいただき、やり遂げる楽しさも感じました。この経験を大学や社会でも生かしたいです」と話しました。
最後に2人は、暁星をめざす小学生に、応援のメッセージを送りました。
「6年間をここで過ごし、本当にすばらしい友人や先生方と出会うことができました。中学に進学するうえで不安もあると思いますが、楽しく学べる環境が整っているので心配は無用です。入試本番まで、体調に気をつけてがんばってください」(城倉さん)
「同じクラスだけでなく、学校全体に仲の良い友人ができる点が暁星の特徴です。先生と生徒との距離も近く、まるで一つの家族のようでした。生徒の姿勢も重んじられており、『やりたい』と決意すれば、先生方は徹底的にサポートしてくださいます。受験勉強は大変ですが、合格すれば暁星での楽しい学校生活が待っています。小学校とはまったく違うので、楽しみにしていてください」(矢野さん)
運動会の準備の様子。さまざまな機器やソフトを使って、生中継を行います
同校のシンボルである時計塔をバックに記念撮影。中高6年間で、たくさんの思い出ができました