教育目標に「考えて行動のできる人」の育成を掲げる横浜創英中学・高等学校は、2020年度より「自律」をキーワードにした学校改革を推進してきました。昨年度には科学的思考力を伸ばすことを目的とした中高一貫の「サイエンスコース」を新設。そんな同校のめざす教育と、新コースの特色について、中2担任で理科教諭の猪又滉史先生に伺うとともに、サイエンスコース1期生に学校生活の様子を聞きました。
あふれる情報から正しいものを選ぶ
科学的な思考力を養う探究活動
中2担任・理科教諭
猪又 滉史先生
生徒が主体的に学ぶ環境を整えるため、「全員担任制の導入」「実技教科のテスト廃止」「学びのスタイルを自律型に転換」といった教育改革を推進してきた横浜創英中学・高等学校。たとえば、英語や数学では、教師が教壇に立って教える従来型の授業を廃し、一人ひとりが自分に必要なものを自分に適したスタイルで学びます。自由進度学習をサポートするAIアプリを活用する一方で、必要があれば教師に質問したり、友だちと学び合ったりしながら、自分のペースで理解を深めることができます。
2022年度には、中高一貫の「サイエンスコース」が設置され、「本科コース」との2コース制となりました。中2担任で理科教諭の猪又滉史先生は、「新型コロナウイルスの流行をはじめ、戦争や気候変動による災害など、これまでの常識では対応しきれない問題が次々と起こる現代社会においては、自分で考えて判断し、行動に移す力が不可欠です。あふれる情報に惑わされることなく、科学的な視点を持って問題を解決に導く力を6年間で育てるのがサイエンスコースの目標です」と説明します。
最大の特徴は週に2時間かけて行う探究活動です。解決したい社会課題をみずから設定し、調査や実験を行いながら社会貢献の方法を模索します。「選ぶテーマは歴史、文化、経済、環境問題、商品開発と、何でもかまいません。意識させたいのは『自分の探究活動が社会とどうつながっていくのか』ということ。社会が抱える問題の解決策を考えていけるよう、教師と面談を重ねてテーマを選んでいきます」と猪又先生。中2では異なるテーマを持った生徒たちが集い、新たな発想や思いもよらないイノベーションが起こるかもという意図でグループ探究も導入。中3では経過発表を兼ねての口頭試問を、高2では最終発表を行う計画です。
世界を知り、未来を切り開く指針となる
プロフェッショナルによる講演会
社会貢献を考えるうえでは、世界を知り、社会の仕組みを知る機会が必要です。その足掛かりとなるように、第一線で活躍する研究者や企業家による講演会を毎月のように開催しています。そして、異なる価値観を持つ相手と協力しながら、より良い方向を探るための「対話力」を養成するのが、中2で実施される2泊3日の「4Cスキル研修」です。与えられた課題に対して、グループでワークショップを行い、解決に導く方法を考え、プレゼンテーションを行います。
高校では、担当教科・科目の異なる教員がペアを組んで講座を開講する「コラボレーションウィーク」があるほか、提携大学をはじめとする学外との交流活動や研修プログラムに参加できる制度を設けるなど、広く社会にかかわる学習体制が整備されています。2025年度には、本科コースに代わる「グローバルコース」を新たに立ち上げる計画も発表され、次なる改革に期待が集まっています。
自律型教育を実践!
サイエンスコース1期生に
これまでの学びについて聞きました
「自分の興味・関心を、社会で起こっているさまざまな問題を解決する糸口にする」という同校の探究型プログラムは、どのようなものなのでしょうか。3人の中2生に語ってもらいました。
——サイエンスコースを志望した理由を教えてください。
河本 自分が好きなテーマについて探究するカリキュラムがあり、適性検査型入試があったからです。
三井 プログラミングに興味があり、中学生になったら本格的にやってみたいと思っていました。設備が整っている環境と、やりたいテーマで自由に研究させてもらえる点が魅力でした。
小林 受験勉強を通じて、今の社会にはいろいろな問題があり、それを解決するのはわたしたちなのだと感じていました。将来は自分の好きなこと、得意なことを仕事にして社会貢献したいと考え、それを探れる授業がある学校を選びました。
——実際に入学してみてどんな印象ですか。探究活動についても聞かせてください。
小林 わたしは絵を描くのが好きで、デジタルで描くことにも興味があり、手描きとデジタルを融合させた新しい表現方法を探究しています。横浜創英には、自分が思っていることをことばにして伝えてくれる生徒が多いので、いろいろな意見を聞くことができ、アイデアの幅が広がりました。
三井 ぼくはゲームを作るためにプログラミングを学んでいますが、グループワークで一緒の友だちは車が大好きで、マニアックな知識を持っています。これまで興味がなかった分野の話を聞くと、「こういうことに活用できるな」と、思いもよらない発想を得られることもあるので、グループでの探究活動もとても楽しいです。
河本 「人に迷惑をかけなければ、自由にやっていい」という校風を感じています。わたしは学級委員を務めています。クラスの雰囲気は一見「まとまりがない」のですが、必要なときには誰かがすぐに協力してくれるので、困ることはありません。音楽が好きなので、探究テーマは「音楽が人に与える影響」にしました。たくさんの人の意見を集めるためのアンケート調査では、それまで接点がなかった人とも話す機会ができて、交流の幅が広がりました。
——9月にあった4Cスキル研修はいかがでしたか。
三井 ワークショップでは「学校生活をいまより10倍楽しめるようにする方法」をテーマに企画を考えました。最終日の投票では、ぼくたちのグループが出した「多学年合同で学校に宿泊して、遊んだり、ワークショップをしたりするイベント」という案が選ばれたので、今は全校に向けたプレゼンテーションの準備をしています。
左から、小林静楽さん、河本麻菜果さん、三井志朗さん(共に中2)
小林 すてきなアイデアなので、ぜひ実現してほしいです。ワークショップは5~6人のグループで行いましたが、クラス関係なく割り振られるため、初対面に近い人と意見を交わす練習になりました。各グループにはファシリテーターとして大学生がついてくれたので、話し合いや発表のまとめもスムーズに進めることができました。
河本 意見を出し合うだけでなく、各人の意見を組み合わせて、より良い方向を示すまでが大切なのだと知りました。中3では研究中間報告として探究の成果を発表するので、中1のときに比べてどの程度レベルアップできるかが楽しみでもあります。