社会の一員として今できることは
科学的アプローチを英語で学ぶ
校長 湯浅 茂雄 先生
広野 貴校では「グローバル教育」「探究教育」「感性表現教育」を3本柱に掲げています。昨年は、模擬国連の日本代表に選出されるなど、英語教育の成果が表れていますが、近年の取り組みについてお聞かせください。
湯浅 中1からのレベル別授業、ネイティブ教員によるEC授業など、4技能をバランスよく伸ばす英語教育に力を入れてきましたが、加えて意識したのは「英語をツールにして何をするのか」を考えさせる仕掛けです。語学力を伸ばすだけではなく、社会に目を向け、好奇心を引き出しながら、英語を理解し、英語で表現する楽しさに結びつけるプログラムを整えてきました。たとえば、ネイティブ教員による放課後講座では、海外研修や模擬国連に向けた英語講座や、英検®など資格試験への対策のほか、実験やものづくりに英語を使って取り組むSTEAM講座、デジタル作品の制作を体験する講座なども設けています。本校には10名のネイティブ教員が在籍しており、各自が専門や得意分野を生かした授業を行っています。さらに、探究の授業「未来デザイン」など社会課題について考える機会も多く、2022年にユネスコスクールに認定されたことで、「社会を変えるためのアクション」を起こそうとする機運が高まっていると感じます。
広野 夏休みならではの特別プログラムもあるそうですね。
湯浅 8月後半には、中学生を対象にした「English Science Camp」を実施しています。科学を英語で学ぶことを目的に、講義や実験、外部施設の見学などを盛り込んだ3日間のプログラムで、今年は「宇宙」をテーマに実施しました。初日はネイティブ教員による英語の講義に続き、「バルーンカー」製作に挑戦。グループに分かれて、段ボールやゴム風船を材料に、試行錯誤を繰り返しながら完成させました。最後の走行発表会では教員チームも加わり、大いに盛り上がったそうです。2日目は茨城県つくば市を訪れ、JAXAや地質標本館、サイエンス・スクエアつくばなどの研究施設を見学し、最先端の技術について学びました。そして、最終日には筑波大学の施設で発表会を行いました。筑波大学の大学院生から講評を頂き、英語で発信する意欲が大いに高まったようです。
広野 科学分野の研究は世界各国で進められているので、日本語に変換した単語よりも、英語で学ぶほうが理解しやすいかもしれませんね。
湯浅 参加者の多くは英語力向上だけでなく、ふだんの授業とは異なる科学へのアプローチに興味があって参加しているので、わくわくするような内容を心がけています。英語は単なるツールにすぎない、英語を使って何をするのか、どんな世界が広がるのか、そこに気づいてもらえるプログラムにしたいと、教員がアイデアを出し合っています。
海外の問題を肌で感じるプログラム
海外大学との提携で広がる進路
グローバル教育部 副部長
ロバート・キンブル 先生
広野 海外で学ぶプログラムも充実していますね。
湯浅 海外研修としては中3~高2を対象に、オーストラリアとニュージーランドで、コースごとに文化比較・海洋研究・サステナブルを学ぶ約2週間のプログラムを設けています。たとえば、モートンベイ(オーストラリア)研修では、ホームステイをしながら現地校に通って英語力を高めつつ、現地の自然や動植物を知る特別プログラムも準備しています。現地研究機関の船上研修や、環境保護に関する講義などを通じて、地球温暖化をはじめとする環境問題について考えを深める内容となっています。
広野 近年は海外大学との教育提携も推進されていますね。
湯浅 今年6月には、ニュージーランドの国立総合大学であるマッセイ大学と「教育協力に関する協定」を締結しました。マッセイ大学が設けた英語・成績基準を満たした生徒は、同大学の学士プログラムへの推薦制度が利用できるので、進路選択の幅が広がったと思います。
続く7月には英国のケンブリッジ大学と、学生・教職員の交流を目的とした基本合意書を締結。ケンブリッジ大学とロンドン大学UCLで開催されるサマースクールへの優先的な参加が可能となり、この夏は3名の生徒が体験しました。
広野 中1では茶道・華道・和装着付などを学ぶ「日本文化実習」を必修とするなど、海外で活躍する際に役立つ教養や嗜みが身につく取り組みを重視しているのも、日本の女子教育をリードしてきた貴校ならではの特色ですね。
リサーチ力、思考力、協働力を磨き
日本代表として模擬国連世界大会へ
サピックス教育事業本部
本部長 広野雅明
広野 生徒の活躍ということで、日本代表に選ばれた模擬国連大会についてお聞かせください。
湯浅 本校には「社会問題について考え、できることから行動する」をモットーにしたグローバル研究部がありまして、なかでも力を入れているのが模擬国連大会への参加です。昨年度は2チームが出場しました。
キンブル 模擬国連に出場するためには、英語での交渉力、スピーチ力を鍛える必要がありますが、それよりも大切なのは、代表国の立場に立つためのリサーチ力や思考力です。日本代表に選出されたチームの生徒は、海外在住歴のない一般生ですが、模擬国連への参加を通してリサーチ力・交渉力・リーダーシップを磨いてきました。
広野 どの国の大使を担当されたのですか。
キンブル 「ロシアの侵略に起因するウクライナの人権状況」というテーマの下、韓国大使とカザフスタン大使を務めました。世界大会に出場できるのは上位4校、カザフスタン大使となったチームが優秀賞に輝き、ニューヨークでの世界大会に出場しました。カザフスタンは日本にとってはあまりなじみのない国ですが、ロシアと友好国で、議論の進め方がとても難しい立場にありました。リサーチにかける彼女たちの熱量は目を見張るものがあり、他国の主張を想定した答弁の準備も徹底していて、作戦をまとめた書面は50枚以上になりました。その努力あってこその受賞だと思います。
風船を動力に走るバルーンカーを製作する生徒たち。仮説を立てて実験をし、結果を検証して調整を繰り返します。ロケット開発などの試行錯誤と同じように、生徒たちは失敗を経験することでさらに学びを深めます
広野 帰国生の受け入れで名をはせる学校も多いなか、一般生のチームが代表の座を獲得したという点はまさに快挙です。先輩たちに続くべく、下級生たちの意欲も高まりますね。
キンブル そうですね。模擬国連は英語で討論するイメージが先行しがちですが、参加する国の多くは、英語が母語ではないので、流ちょうな英語でなくてもいいのです。求められるのは、自分の考えを持ち、それを伝える力とともに、他者の主張を理解する力です。これからもその点を重視して指導していきたいと思っています。
広野 視野が広がるからこそ、英語を学ぶ大切さを知る。学校全体が好循環となっているといえそうですね。最後に、受験生へのメッセージをお願いします。
湯浅 わたしたちの願いは、中高6年間で一人ひとりの生徒に大きな夢を見つけてもらうことです。だからこそ、夢をかなえるための環境整備にはこれからも力を惜しみません。生徒たちが好きなことに夢中になっている様子を見に、ぜひ本校に足を運んでください。
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