25年6月自慢の授業／受験ライフをサポートする進学情報誌さぴあ

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25年6月自慢の授業

自慢の授業

東京農業大学第一
高等学校・中等部

「生物」「地理」

農大一中だからこそできる個性的な学び
実学を通じて思考力や分析力を養う

　東京農業大学の付属校として1950年に開校した、東京農業大学第一高等学校。2005年には中等部が誕生し、2025年には完全中高一貫校となりました。専門的な観察・実験を行う理科の授業や、ディベートやレポートを通して分析力を養う地理の授業など、同校ならではの個性的な授業を行っています。今回は、高2の「生物」と中1の「地理」の授業をレポートします。

金魚が増える秘密を実験で探る
本格的な学びにあっという間の50分

　最初に編集部が訪れたのは、高2の「生物」の授業です。授業を行う生物実験室は、生物部が飼育している生き物でいっぱい。カナリアやチャボの鳴き声が聞こえるなかでの授業という、東京農大の併設校らしい環境です。

　この日のテーマは、「浸透圧が与える金魚の生殖細胞への影響」について。授業を担当したのは、川澄太一先生です。川澄先生は大学在学中から魚のDNAの多様性について研究しており、金魚のコンテストでの優勝や、水産庁長官賞を5回も受賞した経験があるなど、まさに金魚のエキスパートです。

　生徒たちが4人ずつ着席した各テーブルには、金魚が1匹入った水槽が置かれています。川澄先生は最初に金魚の歴史を簡単に解説した後、「まず金魚の見かけを観察してみましょう」と言いました。ひと言で金魚といっても、体の色、ヒレの数、うろこの有無、大きさなど、形は千差万別。動きにも注目して、金魚を観察しました。

　続いて、出目金の稚魚を観察します。顕微鏡で体の構造や動きを見て、その姿をスケッチします。「わあ、体は透明だ」「目や心臓が動いているね」と、生徒たちも興味津々。さらに、1分間で心臓が動いた回数も記録して、ほかのグループとどれくらい差があるかを比較しました。

　続いて、本授業のメインテーマに突入します。金魚の精子に飼育水（生理食塩水）を垂らして、金魚の精子が動き出す要因は何かを確かめます。

　「まず、飼育水を1滴だけ垂らしてみましょう。精子はどのようになるでしょうか」と川澄先生。顕微鏡で確かめても、動き出す様子はありません。続いて3滴垂らしてみると、1滴のときとは打って変わって、精子の黒い点が活発に動くことが確認できました。「金魚の精子を動かす要因は何か、わかったでしょうか。光でも温度でもありません。飼育水1滴と3滴で精子の動きが変わったため、飼育水の『濃度差』が刺激になったことがわかると思います。最後に分析したことをレポートにまとめましょう」と川澄先生は生徒に伝えて、今回の授業は終了しました。

　川澄先生は、授業で心がけていることについて、次のように話しました。「教科書に載っている実験や観察を、ただ作業として取り組むのではなく、なぜこの作業をするのか、なぜこのような結果になったのかを考えるように促すことを心がけています。今回の授業は進化を扱いましたが、実験を通して、生物の進化の過程や、そのダイナミックさを知ってもらえたらうれしく思います」

「興味のない国」はどこ？
想像の世界地図を描いてみよう

　続いて編集部が見学したのは、中1の地理の授業です。授業を担当した常久大介先生は、「覚えているかぎりでいいので、想像の世界地図『メンタルマップ』を描いてみましょう」と課題を出しました。

　大陸の形は覚えていても、国を正確に描くのは難しいものです。アメリカ・中国・韓国などのなじみのある国は描けても、それ以外となると、ほとんどの生徒がペンを止めていました。「シンガポールってどこだっけ」「中東の形ってどんなのだっけ」「赤道の位置ってここでいいのかな」と、記憶を総動員して想像の世界地図を描いていきます。

　描き終わったら、周囲の生徒とマップを見比べて、3人からコメントを書いてもらいます。「日本が巨大すぎるよ！」「東南アジアが全然描けてないよ」と、生徒たちもお互いのへんてこな世界地図に大笑いしていました。

　常久先生は、想像の世界地図を描かせた狙いについて、次のように生徒たちに説明しました。

　「自宅の近所は地図をイメージできるように、世界地図も自分たちに親しみのある国は描くことができます。しかし、アフリカや小さな島々の国など、興味のない場所はほとんどの人が正確に描くことができません。1年生の地理では、このような興味のない国での暮らしや文化に興味を持つこと、世界と日本のつながりを学ぶことを目標としています。1年生の最後には、もう一度この想像の世界地図を描いてもらいますので、今日よりももっと正確に描けるように、皆さんに楽しく地理を教えていきたいと思います」

　最後に、各生徒が所有するタブレットで「ウェブ地球儀」を見て、授業は終了しました。

　地理の楽しさはもちろん、中学では自分の考えを言語化する力も養ってほしいと常久先生。入学したばかりの生徒たちが、1年生の終わりにはどのような成長を遂げているのか、とても楽しみです。

金魚の形態を全員で観察。ひと言で金魚といっても、うろこやヒレにはそれぞれ大きな違いがあります