自慢の授業
巣鴨中学校・高等学校
「音楽」
一人ひとりの達成感を大切に
音楽の楽しさを体感できる50分
巣鴨中学校・高等学校は、毎年数多くの卒業生を難関大学に輩出する進学校ですが、受験に直結する主要教科だけではなく、実技教科の授業にも力を入れています。今回、中1の「音楽」の授業を訪ねました。生徒を飽きさせない三部構成の試みや、達成感を挑戦心へとつなげるスモールステップを重視した指導など、さまざまな工夫が散りばめられた授業の様子をお伝えします。
「リズム」「リコーダー」「楽曲鑑賞」
生徒を飽きさせない三部構成で進行
巣鴨中学校・高等学校の音楽室に息の合ったリズミカルな手拍子の音が響き、笑顔があふれています。中1の「音楽」の授業が始まりました。50分授業のうち、初めの20分は、手拍子を用いたリズムアンサンブルの時間です。教室の前方には、16分音符と16分休符を組み合わせたリズムパターンの譜面が投影されており、生徒はそれを見ながら「タタタン」「タッタッ」と手を叩いてリズムを取ります。「まずは2小節目までやってみよう」「間違えてもいいからチャレンジしてみて」と生徒たちに優しく声を掛けるのは、芸術(音楽科)教員の佐藤祐一郎先生です。練習を重ねて、クラス全員の手拍子がそろうようになると、生徒たちからは「おお~」と歓声が上がりました。
全体練習の後は、1クラス47名の生徒を4分割し、グループ単位で発表を行います。すべての発表が終わると、佐藤先生が上手に演奏できた二つのグループを指名しました。そして、「決勝戦を始めます」という声を合図に、その二つのグループが再度リズム発表を行いました。「はい、Bグループの優勝!」という佐藤先生の判定に、大喜びの生徒たち。白熱のリズムバトルで、授業は一気に盛り上がりを見せました。
次の15分は、アルトリコーダーの練習です。課題曲は難易度別に6曲与えられ、生徒はそれぞれのペースで練習します。マスターできたら、先生に個別に披露し、その難易度に応じた点数を獲得できるという流れです。「チェックを始めます」と呼びかける佐藤先生の前には、練習成果を見せたい生徒がずらりと行列をつくります。1曲にかかる時間は短いので、列の回転は速く、採点もスムーズに進んでいきました。
そして、最後の15分は、楽曲鑑賞の時間です。ここでは、ただ曲を鑑賞するだけでなく、そこから得たイメージをもとに一人ひとりがオリジナルのストーリーを作ります。取り上げるのは、テレビや映画の使用曲や、電車の発車メロディーなど、生活のなかで触れる「どこかで聴いたことのある曲」が中心です。この日の授業でも、テレビドラマの劇中で使われた曲が取り上げられました。生徒は真剣な面持ちで物語の創作に取り組みます。制限時間3分という短い時間のなか、集中して思い思いの物語を書き記し、記入用紙を提出したところで、50分の授業が終了しました。
“双方向性”こそ音楽の醍醐味
音楽を通して世界を広げてほしい
中学全クラスの音楽を担当する佐藤先生。仲間と一緒に音楽を学ぶ楽しさと大切さを伝えています
終了後、佐藤先生に授業を進行するうえで意識していることについて伺いました。先生は、「いちばん気を配っているのは、生徒を“音楽嫌い”にさせないこと」と強調し、「そのためには、生徒が達成感を持って次のステージに挑戦できることが大切だと考え、どの活動でもスモールステップを重視しています」と続けます。また、一つの授業をリズム、リコーダー、楽曲鑑賞の三部構成に分けて進行する理由についても、「内容にめりはりをつけることで、できるだけ生徒の集中力を切らさずに、音楽の楽しさに触れてほしいと考えているからです」と説明しました。
投影設備を活用した授業形式も、生徒の集中力を維持するに当たって大きな役割を担っています。あらかじめ用意した映像をもとに授業を進行することで、譜面を書いたり消したりする手間が省け、生徒を待たせることなく次の内容に取り組めるからです。
佐藤先生にとって、授業についてあらためて考える大きなきっかけとなったのが、2020年から始まった新型コロナウイルスの流行でした。「コロナ禍で、さまざまな動画コンテンツが充実しました。音楽について学ぶだけなら、『授業よりも動画で学んだほうが楽しい』と言う生徒もいるかもしれません。しかし、音楽の醍醐味は、仲間と一緒に演奏することで得られる一体感や、演奏や自分の作ったストーリーに対して先生や友人のダイレクトな反応がもらえる“双方向性”にあります。ですから、授業では、あくまで対面だからできることにこだわり、アンサンブルや人前での演奏を中心に進め、この授業だからこそ体感できる楽しさまで付加できるように心がけています」
リズム練習でもリコーダー練習でも楽曲鑑賞でも、生徒たちが積極的に取り組む姿が印象的だったこの日の授業。その理由について、先生はこう分析します。「一つは本校が男子校であるということです。異性の目を気にせず、自然体のまま失敗を恐れずチャレンジしています。もう一つは、主要教科は中学受験の経験を使って『なんとなく』で進めてしまえる部分があっても、音楽のような実技教科は『きちんと練習しないと上達できない』と実感してもらえているからです。そうした背景もあいまって、どの生徒も真面目に取り組んでくれています」
これまで寄せられた生徒の感想のなかで、佐藤先生がいちばんうれしかったのは、「積極的に音楽を聴くようになりました」ということばだそうです。「授業を通じ、日常にあふれている音楽に興味を持ち、それをきっかけに自分の世界を広げてくれたとしたら、教員としてそれ以上にうれしいことはありません」
最後に、佐藤先生は次のように受験生にメッセージを送りました。「音楽は人生を豊かにしてくれます。『受験に関係ないから』ではなく、音楽が得意な子もそうでない子も、音楽の楽しさを体感できる授業を用意してお待ちしています」
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