さぴあ職場見聞録
気象庁
大気海洋部予報課
予報官
植村 敦さん
前半ページでは、天気予報から地震・火山・航空気象の情報まで、わたしたちの生命や暮らしを守る気象庁の幅広い役割を紹介しました。ここでは、予報官として活躍している植村敦さんにご登場いただきます。どんな仕事をしていて、どういうときにやりがいを感じているのでしょうか。
気象庁
大気海洋部予報課
予報官
植村 敦さん
Qどんな仕事をしているの?
植村 これまでにさまざまな仕事に携わってきました。現在働いている本庁で経験した仕事には、天気予報を発表するほかに、テレビの天気予報でも使われている天気図をかいたり、防災の仕事を担当して、災害が起きたときには、その状況を説明するための資料作成を行ったりしたこともありました。
![]()
気象庁への親近感をより強め、気象業務の役割をイメージしてもらうための広報活動を行う「はれるん」。太陽・雲・雨などをモチーフとして、災害のない、調和のとれた地球への祈りを奏でる緑のタクトを手に持っています。
昨年度までは、天気予報や注意報・警報を発表する業務を担当していて、夜勤もあるシフト勤務でした。特に緊張するのは警報を出すときです。重大な災害が起きる恐れがあるのに加え、警報の発表をきっかけに、警察や消防、自治体など、さまざまな組織が防災対応のために本格的に動き出すからです。警報を出すときには、当番の予報官の判断だけでなく、上司の承認が必要です。本庁では、警報を発表する前に予報課長に「このような理由で警報を出します」と伝えて、承認をもらいます。
気象庁に入庁して最初に配属されたのは、海洋気象観測船に乗って行う海上気象観測の仕事。啓風丸という船に1~2か月間ずっと乗った状態で、3時間に1回、海上の気象を観測する業務でした。台風で海上の波が高く、船が大きく揺れていても行わなければならず、船から落ちないように安全ベルトをつけて観測しました。船酔いとの闘いもあり、いきなり大変なところに配属されたなと思いました(笑)。
その後、甲府地方気象台に異動になりました。そこでは「現在は雲の量が全天の何割だから晴れです」「曇りです」などと、その日、そのときの天気を観測して決める業務を担当。現在は気象衛星のデータから天気を決めている場合もありますが、当時は雲の量を目視で観測して、天気を判断していました。自分がその日に決めた天気が記録として永遠に残るので、間違えるわけにはいかない、見落とすわけにもいかないという緊張感がありましたね。甲府地方気象台では富士山の初冠雪の観測といった、世の中の注目を集める仕事も経験しました。
![]()
気象庁への親近感をより強め、気象業務の役割をイメージしてもらうための広報活動を行う「はれるん」。太陽・雲・雨などをモチーフとして、災害のない、調和のとれた地球への祈りを奏でる緑のタクトを手に持っています。
Q仕事のやりがいは?
植村 いくつかありますが、自分のやった仕事が目に見えることです。たとえば、夕方に自分の出した天気予報が、家に帰るとテレビで流れています。「桜が開花しました」と情報を出すと、直後には各報道機関が桜の開花情報を一斉に伝えていたりするわけです。自分の仕事が役に立っていると実感できるのは、大きなやりがいになります。
一方で、影響力が大きい情報ですから、責任の重さも感じています。気象情報や警報を出しているのに避難していない人がいたと後でわかると、「もう少し何か工夫ができたかもしれない」と思うこともあります。
Qどうして気象庁に入ったの?
植村 中学生のときから自然が好きで、「天気に関する仕事をしたい」と漠然と思っていました。そのころは中学校の先生が紹介してくれたNHKラジオの「気象通報」という番組を聞き、耳から得たデータを天気図用紙にかき込んで、天気図を作成していました。
大学に入ってからは気象予報士の資格を取得。その後、資格を持っている学生を対象とした民間気象会社のアルバイトに応募し、採用されました。当時の仕事は、メディアで報道するために、気象庁が発表した予報や情報を原稿に書き起こすというものです。その会社で「社員にならないか」と声を掛けてもらったので、大学卒業後は民間気象会社に入社しました。「気象庁で働きたい」という気持ちはそのときにもありましたが、身近な存在として天気に触れるのは、メディアで天気予報を伝える側だと思い、2年半ほど働きました。
気象庁に転職したきっかけは、「自分自身で予報を出したい」という思いが強くなったからです。民間の気象会社が気象情報を発表するにもルールがあり、たとえば、気象の警報は気象庁しか発表できないことになっています。台風の予報も同様で、テレビなど多くの人が目にするような場合は、気象庁の予報に沿った解説をすることとされています。自分がそういった情報を発信する立場となって、人々の防災への意識を高め、命を守るために警報などを出す役割を担いたいと思って、気象庁への入庁を決意しました。
仕事に携わるうえで心がけているのは、常に先々どうなるかを考えて、迷う場合には安全を考えて悪めの情報を伝えることです。悪めの予報を出して、結果悪いことが起こらない場合もあるのですが、最終的には人の命にかかわることなので、見逃しが最も良くないと思っています。人の生命や暮らしに影響のある仕事だからこそ、自然に対して常に緊張感を持って向き合うようにしています。また、悪天候になった場合には、今この瞬間に予報や警報を出すか出さないかを判断する状況が続くので、決断力や判断力も求められます。
もう一つ大切なのが、コミュニケーションです。天気予報に関する業務は、実はチームで仕事をすることが多く、チーム内で状況を正確に共有したり、次のチームへの引き継ぎを正確に行ったりすることが必要になります。自治体の防災担当者への説明などでも、コミュニケーション能力がとても重要になっています。
気象庁での仕事には、ふだんの勉強では算数や理科をがんばるのも大事ですし、人にわかりやすく伝える国語の力もつけるとよいでしょう。皆さんには、将来本当にやりたいことや就きたい仕事を見つけられるように、今はさまざまなことに取り組んで、興味・関心を広げていってほしいと思います。

現在は予報を発表するためにシフト勤務をしている職員を取りまとめる仕事を中心に行っている植村さん。予報作業に携わるほか、天気が悪くなると出す情報が増えるため、気象情報も作成しています。関東甲信エリアを担当しているので、エリア内の気象台と情報交換したり、改善したほうがよいルールがないか探り、現場が困っていることに対して対応を考えたりもしています。
- 第40回/気象庁:
- 1|2
◎学校関連リンク◎
◎人気コンテンツ◎















