受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

さぴあ職場見聞録

税関で働くって、どんなこと?

東京税関監視部
麻薬探知犬訓練センター室
弦本 瑞輝さん

 皆さんは空港や港で、麻薬などの密輸防止のために働く「麻薬探知犬」を見たことはありますか? そのパートナーを務めるのが、「ハンドラー」と呼ばれる人々です。ここに登場していただく弦本瑞輝さんもその一人。ハンドラーになろうと思ったきっかけや、仕事の内容、そのやりがいなどについてお聞きしました。

東京税関監視部
麻薬探知犬訓練センター室
弦本 瑞輝さん

Qどんな仕事をしているの?

弦本 わたしは、麻薬探知犬とペアを組んで、麻薬などが貨物に隠されていないかどうかを検査する「ハンドラー」という仕事をしています。これも税関職員の仕事の一つです。麻薬探知犬は、増加・巧妙化する麻薬などの密輸を防止する目的で、1979(昭和54)年、日本に導入されました。その後、国内で訓練・育成を行う場所として、1987(昭和62)年に開設されたのが、わたしが所属する「東京税関麻薬探知犬訓練センター」(千葉県成田市)です。国内で唯一の麻薬探知犬の養成施設でもあります。

 ハンドラーは麻薬探知犬を訓練したり、空港などで麻薬探知犬とともに荷物の検査を行ったりするほか、散歩、毛並みの手入れ、餌やりなどの健康管理も担当しています。麻薬探知犬の仕事がスムーズに進むかどうかは、ハンドラーとの絆や信頼関係によるところが大きいです。

 麻薬探知犬の訓練は、「ダミー」と呼ばれる、タオルを巻いたものを使って行われます。その内容を簡単に説明しましょう。まず、犬の本能である獲得欲をダミーに向けさせ、犬がダミーを見つけるたびに犬をほめます。次に、麻薬のにおいの入った袋をダミーと一緒に荷物の中などに隠して、それを見つけさせます。これを繰り返すと、犬は「麻薬のにおい=ダミー」と関連づけて覚えます。すると、犬はハンドラーにダミーで遊んでもらうために、麻薬のにおいを探すようになります。実は、犬はこの訓練で麻薬のにおいのするダミーを探しているのです。

 ちなみに、麻薬探知犬の候補犬は全国のブリーダーなどから公募で集められ、約4か月間の訓練の後、試験に合格した犬だけが麻薬探知犬と認定されます。合格率は全体の約3割と、非常に狭き門です。ちなみに、犬は麻薬のにおいを記憶するだけで、成分を吸っているわけではありません。麻薬中毒にはならないので、安心してくださいね。

ハンドラーの1日

 ハンドラーは麻薬探知犬とともに荷物の検査を行うだけでなく、犬たちの健康管理にも努めています。ハンドラーの1日を見てみましょう。

出勤は朝7時30分。散歩や毛並みの手入れなど、毎日の犬の世話は欠かせない仕事の一つです

検査のため、空港へいざ出動。専用の運搬車で移動します

現場では麻薬などが荷物に隠されていないか、麻薬探知犬とともに旅具や貨物の検査を行います

訓練センターに戻ったら、犬に餌をやり、夕方5時ごろに退勤します


センター内での仕事風景。麻薬探知犬は麻薬を見つけると、その場に座ってハンドラーに知らせます ダミーを使って訓練します ザック号は6歳9か月(2月8日現在)のラブラドルレトリバー。弦本さんとコンビを結成して3年目です。「ザック号は人懐っこくてやんちゃな性格。いろいろなものに興味を持つ一方で、初めて見る人・物・環境に驚いてしまう“少し頼りない相棒”です」と、弦本さんは笑います

Qなぜハンドラーになろうと思ったの?

弦本 わたしは高校を卒業後、公務員になるための専門学校に進学しました。ハンドラーという仕事は在学中に多様な公務員の仕事を調べていくなかで知りました。テレビやインターネットでハンドラーや麻薬探知犬の働く姿を見て、「わたしもハンドラーになりたい」と思ったのです。ハンドラーは税関の数ある仕事の一つなので、希望すれば必ずなれるというものではありませんが、うれしいことに、就職後すぐになれました。各現場で働くには約2か月間の厳しい引継訓練を受けなければなりません。

 幼いころは外遊びが大好きで、友だちと日が暮れるまで走り回っては、門限を守らずにしばしば親から叱られるような子どもでした。小学生のころに犬を飼っていたので、海や公園によく連れて行っては一緒に遊んだのを覚えています。そのころの経験が現在の仕事にも役立っているように感じます。

 ただ、麻薬探知犬はペットではありません。日々接していくなかで愛情は生まれますが、あくまで不正薬物の密輸防止のために働く使役犬なので、ペット化しないように気をつけています。

Q仕事で大切にしていることは?

弦本 ペアを組む犬との意思の疎通をスムーズにするために、犬と接するときには日ごろからアイコンタクト、ことば、しぐさなどでコミュニケーションを取るように心がけ、より信頼関係が強まるように努めています。犬は人の心情を読むのにたけている動物なので、ハンドラーが緊張すると、犬にもそれが伝わってしまいます。そのため、常に平常心を保ち、各現場で犬との遊びを楽しみながら働くことが、最も重要だと感じています。

 日々の訓練のなかでペアを組む犬の成長を感じたときや、その成長が現場での麻薬の発見につながったときは、とてもやりがいを感じます。そんなときはいつも以上に犬をほめて喜びを伝えています。

 現在の相棒である麻薬探知犬「ザック号」とペアを組んだ当初は、ザック号のしぐさから気持ちを読み取ることができませんでした。しかし、訓練や検査を重ねていき、ザック号との信頼関係が強まるにつれて、麻薬などのにおいを感じたときの尻尾の振り方や鼻の使い方など、わずかな反応の違いを見極められるようになりました。このことは、ハンドラーとしての大きな自信となりました。

Q今後の目標は?

弦本 これからも、わたしたちの安全・安心な生活を守るために、空港や港での麻薬などの密輸防止に取り組んでいきます。その一方で、麻薬探知犬にとって、検査はあくまで「ダミーを探す遊び」ということを忘れずに、ザック号がその能力を最大限に発揮できるように、パートナーとしてサポートしていこうと思います。

 もし、皆さんが空港で仕事をしている麻薬探知犬を見かけたときは、声を掛けたり触ったりせずに、「密輸防止のためにがんばっているんだな」と、優しく見守っていただけるとうれしいです。

第33回/税関:
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