おしえてピグマはかせ
「ピグマキッズくらぶ」のテキストでおなじみのピグマはかせが、皆さんがふだん疑問に思っていることにお答えします。今回は五重塔のお話です。法隆寺の五重塔は、約1300年前に建てられた世界最古の木造建築の一つですが、これまで地震で倒れたことはありません。なぜ地震に強いのでしょうか。
法隆寺はどうして地震に耐えられるの?
がっちりしてないから強い!?
世界でいちばん古い木造の建物って、どこの国にあるか知ってる? | ||
木造? 木造だとそんなに古い時代の建物は残ってないよね。どこだろう? 中国かな? | ||
奈良県にある法隆寺が世界一古い木造建築物って聞いたことがあるよ。ね、はかせ? | ||
そうだよ。法隆寺にある五重塔を含むいくつかの建物が、1300年以上前に造られた、現存する世界最古の木造建築といわれている。世界文化遺産にもなっているよ。 | ||
1300年の間には何度も大きな地震があったはずなのに、五重塔は倒れなかったの? | ||
五重塔は高さが約32m。だいたい10階建ての建物と同じぐらいだ。607年に完成して、670年に一度、火事で焼失したんだけど、711年までに再建されてからは、火事になったことはなく、地震で倒れたこともないんだ。 | ||
どうして地震に強いの? | ||
すごく堅い木でがっちり造っているとか? | ||
実はその逆で、「ゆるい」構造になっているんだ。中央に「心柱」という、直径が80㎝くらいの太い柱が立っていて、この柱と、周りにある5層の瓦屋根からできているよ。 | ||
柱と屋根だけ? 各層に床はないの? | ||
床があるのはいちばん下だけ。五重塔っていうと、5階建ての建物だと思うかもしれないけど、2階や3階があるわけじゃない。天井がとても高い1階建ての建物に、5層の屋根がついている感じなんだ。各層の屋根はそれぞれ独立して造られていて、鉛筆のキャップみたいに重ねて積み上げているんだ。中央を通る心柱は、いちばん上のところでは屋根と接しているけど、各層とは接していないよ。 | ||
柱は立っているだけで、建物を支えているわけではないってこと? | ||
5層の屋根全体の重みは、いちばん下に立てた16本の柱で支えているだけだよ。 | ||
なんかすごくゆらゆらしそうだよね。そんな立て方でも地震で倒れないのかなあ。 | ||
木材をくっつけるときも、くぎを打ち込んでしっかり固定するようなことはせず、「木組み」といって、木材の凸凹部分をはめ込んでつないでいるだけだよ。本当にゆらゆらしそうな構造なんだけど、だからこそ倒れにくいんだ。各層の屋根には長い庇があって、屋根は上にいくにしたがって小さくなるから、地震が来て、いちばん下の層が右に揺れれば2層目は左に、3層目は右に、という具合にくねくねと動くんだ。そうやってバランスを取って、全体の衝撃を和らげる仕組みだよ。 | ||
でも、大きな地震が来たらだめじゃないの? | ||
そこで重要なはたらきをするのが心柱。大きな揺れが起こって、塔全体が右に傾こうとすると、心柱は逆に左に傾くようになっているので、地震の揺れを軽くすることができるんだ。また、内部で各層の構造が揺れながら心柱にぶつかるため、倒れるほどの横揺れになるのを防いでいるといわれているよ。 |
スカイツリーも心柱に守られている!
揺れないようにするのではなく、揺れを利用して、大きく揺れるのを防いでいるのね。 | ||
五重塔の中がそんなふうになっているなんて知らなかったよ。それに、飛鳥時代から地震対策ができていたなんてびっくりだね。 | ||
建物の地震対策には「耐震」「免震」「制震」の三つがある。「耐震」は建物を強くすること、「免震」は地面の揺れを建物に伝えないようにすること、「制震」は揺れを小さくすることだよ。五重塔に使われている技術は、「心柱制震」という日本独自のもので、東京スカイツリーにも使われているんだよ。 | ||
そんな昔の技術が、現代の高い建物にも使われているんだ。 | ||
東京スカイツリーは高さ634m。第一展望台の上の高さ375mまで心柱が入っていて、その内部に非常階段が設けられている。それはスカイツリー本体とは直接つながっていないから、大きな地震が来ても、本体と心柱は違う揺れ方をするので、揺れを消し合うことができるようになっているんだ。 | ||
本当に五重塔と同じなのね。 | ||
古代の日本の技術が、現代の高層建築にも使われているなんてすごいよね。法隆寺の五重塔には、心柱以外にも、現代の建物にも応用できそうな耐震設計がいくつも見られるそうだよ。 |
●法隆寺の五重塔の構造
保護者の方へ
日本に仏教が伝えられたのは6世紀の半ば。同時期に朝鮮半島からやってきた人たちによって、寺院建築の技術が伝えられました。五重塔は仏舎利を納める仏塔の一種ですが、大陸に多い石の仏塔は日本の風土に合わないため、木造の五重塔が建てられたといわれます。ちなみに5層は下から、それぞれ「地」「水」「火」「風」「空」の五つの独立した世界(思想)を表し、全体で仏教の宇宙観を表しています。
法隆寺の五重塔に使われた構造は、日本各地にある寺院の塔にも使われています。落雷や火災の被害にあった塔はあっても、地震で倒壊した塔はほとんどありません。古代の匠の技術の高さには驚かされるばかりです。
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