この人に聞く
「自律と共生」の実現をめざして
探究心を刺激する新校舎が完成
多様な仲間と学び合う場に
広尾学園小石川中学校・高等学校は、2021年に広尾学園の教育連携校として設立された共学の進学校です。昨年の12月には、教育棟の増築工事が完了。ラーニングコモンズや自習室など、生徒たちの知的好奇心を刺激する環境が整いました。開校5年目を迎え、ハードとソフトの両面から生徒の「自律と共生」を後押しする同校の教育について、校長の松尾廣茂先生に伺いました。
広尾学園小石川中学校・高等学校
校長 松尾 廣茂 先生
「知識の森」をコンセプトに新校舎が完成
授業展開に合わせた学びの場として活用中
サピックス小学部
教育事業本部本部長
広野 雅明
広野 昨年の12月に新校舎が完成しました。設計に当たって重視したポイントや、その狙いについて教えてください。
松尾 新校舎のコンセプトは「知識の森」です。「研究者になったつもりで学びを深く追究し、自発的に学習する子どもを育てたい」という思いの下、計画を進めていきました。
この新校舎は、地下1階、地上4階建てとなっており、普通教室のほか、プレゼンテーションの練習などにも活用できるラーニングコモンズ、自習室、カフェテリアが配置されています。特徴的なのは、至るところにブースを設け、さまざまなジャンルの本を置いていること。生徒には、本との偶発的な出合いを通して、自身の視野を広げたり、探究心を磨いたりしてほしいと考えています。
また、1階のラーニングコモンズには、ひと通りのICT機器がそろっています。そこに自身の端末を接続すれば、プレゼンテーションなどができますし、椅子や机を動かして空間を自由にレイアウトできるので、授業展開に合わせた学びの場として活用できます。
広野 自習室にもさまざまな工夫があるそうですね。
松尾 新校舎の4階をすべて自習室のフロアとし、そのうち2部屋は個人で静かに自習をする教室、1部屋は友人と活発に議論ができる教室と、目的に応じて使い分けができるようにしています。学年による利用制限も設けていませんので、黙々と学習する上級生に混じって自習をすることで、下の学年の生徒が刺激を受けるという学習効果も期待できます。また、定期試験前には、カフェテリアも自習スペースとして開放します。広い机とソファを備えていますので、生徒たちには街中のカフェで勉強するような感覚で、気軽に立ち寄ってほしいと思っています。
本科とインターナショナルの2コース制
互いの良さを吸収し、真のグローバル人材に
広野 あらためて、本科コースとインターナショナルコースの2コース制についてご説明いただけますか。
松尾 本科コースは、国内難関大学進学をめざす生徒を中心に、インターナショナルコースは海外大学進学をめざす生徒を中心に編成されています。さらに、インターナショナルコースのなかには、すでに高い英語力を持つ帰国生を中心とした「アドバンストグループ(AG)」と、基礎から英語力を伸ばす「スタンダードグループ(SG)」があり、その双方の生徒が同じクラスに所属し、日々、共に過ごすことが特徴です。全体の約3割を帰国生が占めるほか、外国人教員も24名が在籍しています。
広野 国際色に富んだ環境ですね。インターナショナルコースには、どのような国で育ってきた生徒が多いのですか。
松尾 欧米諸国はもちろん、中国や韓国、シンガポール、インドなどアジア圏も多いですね。1学年120人程度のコンパクトな学校ですから、異なる文化で育ってきた帰国生や外国人教員と、より密接にコミュニケーションが取れる点は、本校の特色の一つです。文化的背景の異なる者同士が、相手を理解しようと努めることで、SGの生徒もAGの生徒も、真のグローバル人材として大きく成長しています。
広野 先生から見て、SGの生徒とAGの生徒には、どのような違いがあると感じていますか。
松尾 AGの生徒は、委員会や係決めの場でも積極的に手を挙げ発言することに慣れた生徒が多いと感じます。そうした姿にSGの生徒は刺激を受けますし、逆にAGの生徒は、SGの生徒の勤勉さや緻密な計画性に心を動かされるようです。お互いの良いところを吸収することで相乗効果が生まれ、入学後しばらくすると、双方の生徒にプラスの変化が見られます。
広野 お互いに違いを認めながら、良いところを学び合える環境は、子どもたちにとっても大きな刺激になりますね。
松尾 本校では、中3までに英検®2級の取得を目標としていますが、SGの生徒の面接練習ではAGの生徒が面接官役を買って出てくれたり、探究活動の英語プレゼンでは、AGの生徒がSGの生徒にマンツーマンで添削・指導したりする光景がよく見られます。反対に、AGの生徒が日本語で困っていたら、SGの生徒が助けることもあります。お互いの苦手なところをうまく補完しながら、高め合っている姿が印象的です。
広野 まさに「自律と共生」の「共生」の部分ですね。さて、校内を見て回りますと、生徒の目に付きやすいところに松尾先生の直筆メッセージが置かれていたり、校長室の壁面にさまざまな表彰状が貼られていたりと、情報発信に力を入れていることが伝わってきます。生徒とコミュニケーションを取るうえで、大切にしていることは何ですか。
松尾 子どもたちにとって、「誰かが自分のことを見てくれている」「認めてくれている」と実感することは、学びや活動の大きな原動力になります。そのため、たとえ小さなことであっても、積極的に生徒のがんばりをほめたいと考えています。中1の生徒全員と面談を行いますし、学年ごとに「校長講話」も実施します。また、校長室の壁面には、オリジナルの表彰状を作って掲出しています。外から見れば「こんなことで」と驚かれるようなたわいのないものもあるかもしれませんが、生徒の居場所づくりや、社会に出たときの自信につながるものとして、今後も継続していきたいと思っています。
文学から宇宙まで多岐にわたる探究活動
国際的な競技会で実績を出す生徒も
アメリカの非営利団体XPRIZE財団が主催する、人類が抱える喫緊の課題を解決するためのコンペティションで、発展途上国の公衆衛生についてプレゼンした本校チームが国内最優秀チームとなりました
広野 探究活動にも力を入れていますね。生徒の皆さんはどのようなテーマに取り組んでいるのですか。
松尾 近所にある東洋文庫に足を運び、歴史的な文学作品を研究している生徒、宇宙工学と創薬への興味から、人工衛星にたんぱく質を載せて宇宙に飛ばしたらどのような変化が起きるかを調べている生徒、飛行機の翼の形状に着目し、低速で飛ぶ飛行機の実現可能性を探っている生徒などがいます。なかでも、わたしが個人的におもしろいと思ったのは、日本人の“魚離れ”について研究した生徒です。さまざまなデータから、その原因は日本人の働き方の変化にあると結論づけており、生徒の着眼点のすばらしさに感心させられました。
広野 外部のコンテストでも活躍されているそうですね。
松尾 本科コースの生徒2人が、人類の課題解決のための革新的なアイデアを競う賞金付き競技会「X PRIZE Showcase」で、発展途上国における公衆衛生について論じ、国内で最優秀チームとなりました。ここから世界1位をめざして戦っていくわけですが、世界の優秀な若者たちと互角に渡り合う姿は、非常に頼もしく感じています。
広野 先ほど東洋文庫のお話が出ましたが、そうした歴史的文化施設や教育機関が集中する文京区という立地も、貴校の強みの一つです。近隣の学校との交流も盛んなのですか。
松尾 東京大学の本郷キャンパスに通う大学生が、週に4回、自習室にチューターとして常駐してくれています。何気ない会話のなかで、大学の授業や研究の様子を知ることができるので、生徒たちにとっては良い刺激になっているようです。また、すぐ隣にある都立小石川中等教育学校とは、部活動の練習試合を中心に交流を行っています。都立小石川は、都立で最難関の中高一貫校ですので、お互いに切磋琢磨しながら、今後さらに交流の機会をつくっていきたいと考えています。
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