子育てインタビュー
国立科学博物館の女性研究者がアドバイス
「好き」を貫き通すために
目の前の課題に楽しみながら挑戦を
幼いころの「恐竜博士になりたい」という夢を追い求め、哺乳類古生物学の最前線で活躍している女性研究者がいます。今回は、国立科学博物館地学研究部生命進化史研究グループ・研究主幹の木村由莉先生にインタビュー。恐竜大好き少女はいかにして古生物学の研究者となり、国立科学博物館でどのような活動を行っているのでしょうか──。中高・大学時代の思い出や現在の研究内容などについて語っていただきました。
研究を深めるために
アメリカの大学院に進学
広野 大学進学後はどう過ごされましたか。
木村 大学の講義は座学だけでなく、地質調査をする野外実習などもあってとても楽しく、古生物学研究者への道がますますはっきりと見えてきました。学業のかたわら、アルバイトやボランティアもたくさんしました。科博の冨田先生のお手伝いをしたり、国内外での発掘調査に参加したり…。それだけでなく、スーパーや飲食店の店員、家庭教師などいろいろな職種の仕事を体験しました。研究者という専門職につきたいからこそ、学生のうちに社会性を身につけておこうと考えたからです。また、海外の博物館に行ったり、発掘調査に参加したりするためのお金も必要でした。
広野 海外の発掘調査では、得られたものも多かったのでしょうね。
木村 まず、英語力の必要性をひしひしと感じました。参加しているアメリカや中国の学生は、指導者のことばを聞いて理解するだけでなく、ディスカッションしながら物事を進めたり、時には「こうしたらいいのでは」などと新しい方向性を提案したりしていました。こうした場に参加するには、英語で「指示を聞き取れる」「論文を読める」だけでなく、「自分の考えを発信する」力が必要になります。ただ、この発信力は受験勉強などで培った語彙力、文法力があれば、マスターするのはさほど難しくはありません。「間違っても恥ずかしくない」と考えて一歩踏み出した後は、ぐんぐん上達しました。
もちろん、現場で出会った海外のトップ研究者の姿はとても刺激的でした。交わされる会話の内容も非常に高度で、「自分もこの世界に入りたい」「大学院に進み、さらに研究を深めたい」という思いが強くなりました。
広野 そしてアメリカの大学院に進学したのですね。
木村 骨の化石を研究する環境については、海外のほうが恵まれています。実際にどの研究室で学んだらよいのか、論文などで調べて目にとまったのが、恐竜とネズミなどの哺乳類の両方を研究しているテキサス州のサザンメソジスト大学のルイス・ジェイコブス先生です。そのジェイコブス先生にメールを送り、アメリカの古脊椎動物学会でお会いすることになりました。そこで、自分の卒業論文を英語でまとめ、「骨の化石について学びたい」とアプローチしたのです。その結果、前向きな返事を頂くことができました。
少ない女性の古生物学研究者
科学好きな女子を勇気づけたい
木村先生の研究室にて(国立科学博物館筑波研究資料センター)
広野 無事、アメリカの大学院に進学した後は、10年間アメリカで過ごされたそうですね。
木村 大学院時代は、アメリカで学びながら、夏休みの3か月間は中国の研究所で化石の発掘や調査に参加していました。地層がきちんと水平に重なっている場所では、上から下に向かって掘っていくごとに、古い時代の地層が現れます。「発掘調査って時間を移動しているみたいだな」とあらためて感じました。そうして時間と空間をダイナミックに行き来しながら経験を積み、ネズミの進化についての研究で博士号を取得することができました。その後、ハーバード大学やスミソニアン自然史博物館などでの研究生活を経て、日本の国立科学博物館の研究員になることが決まったのです。
広野 どのような思いがあって帰国を決めたのですか。
木村 自分の研究室を持って、落ち着いた環境で哺乳類の研究者として活動できることが魅力的でした。もう一つは、まだ日本では女性の古生物学研究者が少ないため、自分が誰かのロールモデルになってあげられるかもしれないとも思いました。恐竜が窓口となって科学に興味を持った女の子を勇気づけられる存在になれたらうれしいですね。
広野 研究者や科学の道を志す子どもたちに、アドバイスをお願いします。
木村 目の前の成績にとらわれず、でもしっかりと、学校の勉強に取り組んでほしいと思います。自分にとって興味のない分野や受験に関係のない科目を、「しなくてもいい」と思う人がいるかもしれません。でも、研究とは人と交流しながら行うもので、その際には幅広い教養が役に立ちます。学校教育はそうした教養を身につけるのに適したプログラムになっていますから、好きなことに打ち込みながら、それ以外のことも将来のために、きちんと学んでおくことをお勧めします。
また、保護者の方には、お子さんにいろいろな体験をさせてあげてほしいと思います。わたしが「大恐竜博'90」をきっかけにこの道に進んだように、新たな出会いや体験は子どもの好奇心や向学心を刺激し、将来の可能性を大きく広げてくれます。科博でも子どもたちのためにいろいろな企画を催しています。この夏休みには、ぜひ、お子さんと一緒にお出掛けください。
広野 さまざまな学びや体験が将来の糧となっていくのですね。本日はありがとうございました。
夏休みに行ってみたい! |
特別展『昆虫 MANIAC』 |
場所:国立科学博物館(科博)(東京・上野公園) 期間:2024年7月13日(土)~10月14日(月・祝) |
昆虫は地球上の生物種の半数以上、約100万種を占める最大の生物群です。その体のつくりや行動、能力は、実にバラエティ豊か。この特別展では、科博の研究者によるマニアックな視点の下、研究者がセレクトした昆虫標本や最新の昆虫研究を織り交ぜながら、昆虫だけでなく、クモやムカデなどの節足動物を含む、「ムシ」たちの驚くべき多様な世界に迫ります。 |
▶ www.konchuten.jp |
- 24年8月号 子育てインタビュー:
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