子育てインタビュー
映画館でとびっきりの鑑賞体験を
専門家の共同作業で生み出される
子どもの心に届くアニメの世界
NHK Eテレで放映され、子どもたちに人気の児童向けアニメ番組『おしりたんてい』。その長編映画版の第2弾が2024年の3月に公開されます。そこで今回は、同映画のプロデューサーである谷上香子さんにインタビュー。作品の見どころをお聞きするとともに、1本のアニメ映画が出来上がるまでのプロセスやプロデューサーの役割、さらには親子でアニメを楽しむ方法などについて、お話を伺いました。
最新技術の活用で
より豊かな表現が可能に
広野 わたしたち大人が幼いころに見ていたアニメーションと比べると、今の映像はずいぶん美しくなりましたね。
谷上 昔は「セル画」といって、透明なシートに直接、輪郭線を描いて色を塗り、そのシートを撮影していたため、表現できる線や色、光に限界がありました。しかし、現在はデジタル上で処理をするようになり、繊細な線や色合い、陰影が表現できるようになりました。ただ、多様なデジタル機器を活用するようになっても、多くの絵を人の手で描いていることに変わりはありません。
広野 細かい動きを表現するには、絵作りだけでもたくさんの人手が必要なのではないでしょうか。
谷上 アニメを作るときは1秒24コマ分の素材が必要になり、通常8枚以上の絵を使うため、多くのアニメーターがかかわっています。東映アニメーションでは、国内のスタジオだけではなく海外にも拠点を持っています。
映画製作には、アニメーター以外にも多くの人々がかかわっているのは先ほど説明したとおりです。映画の最後に、音楽とともにたくさんの人の名前が映し出されますが、1本の映画を作るためには、それだけ多くの人々の力を結集しなければならないということです。今回の劇場版も、たくさんの人たちが力を合わせ、着想から2年という月日をかけて作り上げました。
広野 アニメーターをはじめ、映画作りの現場ではどのような年齢層の方々が働いているのですか。
谷上 若手からベテランまでさまざまです。もちろん、個性による違いはありますが、演出などはやはり人生経験を重ねた人のほうがいいものが出る傾向にありますし、キャラクターの動きなどは、若い人のほうがトレンドをうまくつかんで表現するのが得意だったりします。そうした異なる能力がうまく合わさると、すごく良い作品ができますね。
広野 AIが生成する絵や音声が話題になっていますが、作品に活用されることはあるのですか。
谷上 映像表現に活用することはありますが、まだごく一部です。声の演技にしても、現段階では作品に使うのは難しいでしょう。キャラクターの演技は、目に見える部分をアニメーターが、耳で聞こえる部分を声優が作るものと考えています。声優には、単に台本どおりに抑揚をつけて読むのではなく、絵では表現しきれない感情を込めるといった、キャラクターを作る意志のようなものが、どうしても必要になるのです。関係するスタッフがお互いの意図をくみ取り合いながら作っていかなければなりませんが、そうした部分はAIではまだ対応できないと思います。
世界にはばたく日本のアニメ
親子で鑑賞し、語り合ってほしい
広野 日本のアニメ作品は海外でも評価が高く、多くのファンがいますね。
主人公・おしりたんていのマスコット人形と一緒に
谷上 絵で表現するアニメは、実写よりもキャラクターに抽象性があって、人種や文化の壁を越えやすいのかもしれません。実は、海外にも独自のアニメ文化があって、日本のアニメの映像表現とは結構違いがあります。たとえば、海外のアニメはCG(コンピューター・グラフィクス)で作ったものが主流ですが、日本では手描きの絵がメインです。そうした違いがあるからこそ、日本のアニメに独自性が生まれ、海外の作品と並んだときにきらりと光るのでしょう。
『おしりたんてい』シリーズも、東アジアを中心とした海外でテレビ放映されていますし、映画も上映されます。その際は、作品中の看板やノートの中の日本語などを現地のことばに置き換えてローカライズしています。
広野 たくさんの人が協力して作り上げた映像作品を、映画館で見ることの魅力は何でしょうか。
谷上 映像作品をテレビやスマホで気軽に楽しむこともすてきな体験ですが、映画館での鑑賞体験はそれとは別物です。映画館で鑑賞するためには、そこに行くまでの移動時間が必要ですし、入場料もかかります。でも、そうしたコストに見合う価値はあると思います。余計な情報を遮断した環境のなかで、大きなスクリーンと最高の音響によって映像世界に没入しながら鑑賞すると、やはり受け止め方や自分のなかへの届き方がまったく違ってくるはずです。わたしたちは、そうした違いを意識しながら、映画を作っています。映画館で、五感がフルに開かれている状態で鑑賞してこそ、作品の世界観や訴えたいことが、より強く記憶に刻まれるのではないでしょうか。
広野 今回の劇場版は、どんなふうに楽しんでほしいとお考えですか。
谷上 『おしりたんてい』シリーズは、「吸収力の高い子どもたちに、大人の価値観や先入観を押しつけないようにしよう」と、配慮しながら作っています。今回の劇場版も、違う生き方で、人とのかかわり方が異なるキャラクターが登場しますが、どちらも否定し合うことなく、それぞれに成長する姿を描いています。大人の心に響く葛藤を持った人物も登場します。そうしたストーリーや謎解き、そして映像体験そのものを楽しんで、「映画ってすばらしいな」「また見たいな」と思っていただければ、うれしいですね。
広野 親子で実際に映画館に足を運び、映画の世界にどっぷりと入り込み、鑑賞し終わった後は、それをきっかけにして、子どもといろいろと語り合えればいいですね。本日はありがとうございました。
『映画おしりたんてい さらば愛しき相棒よ』
『おしりたんてい』シリーズの劇場版長編第2弾。今回、おしりたんていが取り組むのは、美術館で起きるニセモノすり替え事件です。10年ぶりに会った、かつての相棒スイセンは雰囲気がすっかり変わってしまい、敵なのか味方なのかさえわかりません。ニセモノすり替え事件が世界各地で発生するなか、秘密結社に乗りこむおしりたんてい。激闘の行く末は…。あらゆる世代が楽しめるミステリー&ドラマ要素満載の映画となっています。
公開日:2024年3月20日(水・祝)全国ロードショー
©トロル・ポプラ社/2024「映画おしりたんてい」製作委員会
- 24年4月号 子育てインタビュー:
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