子育てインタビュー
「小学校英語教育」研究者からのアドバイス
英語を通して世界とつながり
多様な人々と共に生きる力を育む
2020年度から、小学校の中学年では「活動」としての外国語が、高学年では「教科」としての外国語がスタートしました。英語教育の早期化が進むなか、子どもたちの「英語力」を高めるためには、どのような学びが必要なのでしょうか。また英語学習を通して、どのような力を育んでいけばよいのでしょうか。小学生に求められる英語力について、小学校英語教育の研究に取り組まれている東京学芸大学・准教授の阿部始子先生にお聞きします。
大切なコミュニケーション体験
機会をつくるのは大人の務め
広野 小学校で英語教育が始まってから、子どもたちの発音が良くなった一方で、「英語に苦手意識を持つ生徒が増えたのではないか」という声を中学校の英語の先生から聞くことがあります。中学校からの英語の学びにスムーズにつなげるために、何か対策はあるのでしょうか。
阿部 小学校も中学校以降も、学ぶべき内容の基本は同じです。中学校のスタート段階でも、音声が大事であることに変わりはありません。文法を学んで英語の知識の整理整頓はするけれども、それは意味のあるやり取りを通した言語活動を行うためのものです。文法の講義で終わるのではなく、この言語活動を通して英語の基礎をつくれるかどうかが鍵だと思います。もちろん、文法事項の学習は重要です。野球やテニスでも、素振りは大事です。機械的な繰り返し練習は、素振りと同じです。ただ、テニススクールで素振りばかりして、ラリーをしなければ楽しめませんよね。英語も同じです。言語活動というものは、相手との意味のやり取りがあり、そこに伝えたい内容がきちんとあって、初めて成り立つものです。素振りだけが独り歩きする英語教育が楽しくないのは、ある意味で当然のことなのです。
そうではなく、日本語が通じない相手であっても、共に世界で生きるためにコミュニケーションをするという国際理解教育を目的とした英語教育が、中学以降も必要です。日本語が通じるクラスメートと英語でやり取りをするだけでは、やはり素振りになってしまいますので、異文化圏の人たちとの本物のコミュニケーションを体験しなければなりません。その機会をつくるのは、わたしたち大人の務めです。実際の交流が難しい場合は、メディアなどを通して「世界にはこういう人たちがいるよ」「この人たちに何を、どう伝えたらいいのかな」などと、考えるきっかけをつくってあげるといいですね。
広野 先生が監修されているNHK Eテレの『キソ英語を学んでみたら世界とつながった。』※という番組も、そうした取り組みの一つですね。
阿部 あるご縁でNHKの方とお会いし、「これからの英語教育に求められるものは何か」という話になったとき、「世界の子ども同士が英語でつながることができる番組が必要です」と提案しました。それにすごく共感してくださって誕生した番組です。日本のスタジオからオンラインで海外の家族と対話するという内容で、従来型の台本を繰り返す英語教育番組とは違う、生のやり取りが展開されます。
※NHK Eテレにて2021年4月から放送されている語学教育番組。主に小学校5・6年生の新学習指導要領に基づいた内容で、小学校の英語の授業で使用するフレーズを用い、世界のさまざまな人と英語を介してつながることを目的としている。
〈2022年度〉
放送日時 土曜日 20:45〜21:00
放送時間 15分
番組公式サイト
https://www.nhk.jp/p/ts/9NL2GLY21L/
「始める」時期にこだわらず
子どもの個性や興味を見極めて
広野 小学校での英語教育が本格化したためか、「早くから英語教室などに通わせたほうがいいのでは」と焦る保護者の方もいらっしゃるようです。
阿部 10のインプットを10年続ければ100になりますから、早く始めればたくさんのインプット量を確保できます。その点はメリットかもしれません。ただ、20のインプットを5年続ければ、結果的にインプット量は同じになります。ですから、「いつから始めなくてはいけない」と、焦る必要はありません。
ただし、10歳以下は音声に敏感で音の特徴をとらえることが得意な時期です。その特質を考えると、発音を身につけるのには適しているでしょう。また、「英語の歌が楽しかった」「外国人の先生にほめてもらった」などの体験は、英語に触れていたいという動機付けにはなると思います。とはいえ、その意欲をずっと保持できるかどうか、また学習言語としての英語を身につけられるかどうかは、その後の過ごし方次第です。幼いころのアドバンテージが絶対的なものだとは考えないことです。
大切なのは子どもの適性をしっかりと見てあげることです。言語を学ぶ適性のある子なら、英語のみならず多様な外国語に触れる機会があってもいいでしょう。一方で、そういった適性はあまりないけれども好奇心が旺盛といった子なら、まずは世界のさまざまなこと、たとえば衣食住にまつわる生活様式、行事、建物、乗り物、生き物などに触れる機会を増やしてあげるといいですね。自分で選択する体験があると、いろいろなことに自信を持って取り組めるようになります。
重要なのは、外国語というツールで世界とどうつながり、何をするのかです。世界への扉を開けて、世界のなかで自分が何をしたいのか、できるのか。そうしたことを考えながら、外国語を学んでほしいと思います。
広野 大人が決めた目標に子どもをはめ込もうとするのではなく、子ども自身の興味・関心を大切にしたいですね。サピックスでも、SAPIX Englishという英語教室を開設し、英語学習を通して、子どもたちの「時代を生き抜く力」の育成をめざしています。ぜひ、目標を持って英語を学び、活躍の場を世界に広げてほしいと思います。本日は、ありがとうございました。
『7さいまでに楽しくおぼえる
音声つきで基礎から身につく
えいごのれんしゅうちょう』
阿部始子 監修
入澤宣幸 企画・原案
Gakken 刊
825円(税込)
子どものうちから外国語の音や文字に楽しく触れることで、外国語を学ぶ壁が低くなり、外国の人とつながろうという意欲が高まります。このワークブックは、シールや迷路を使い、音声を聞きながら、楽しくアルファベットや英単語が学べる仕掛けがいっぱいで、英語学習のスタートに最適です。音声アプリ対応、英語カードボード付き。
- 23年1月号 子育てインタビュー:
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