子育てインタビュー
映画『こどもかいぎ』監督が語る対話の重要性
「正解」も「結論」も不要
訓練の積み重ねで対話力は伸びる
豪田 トモさんGoda Tomo
(ごうだ とも)●映像作家。著述家・小説家。株式会社インディゴ・フィルムズ代表。中央大学法学部卒。6年間のサラリーマン生活の後、カナダに渡り、4年間、映画制作の修行をする。帰国後はフリーランスの映像クリエイターとして、ドキュメンタリーやプロモーション映像などを制作。主な監督作品に『うまれる』(2010年)、『ずっと、いっしょ。』(2014年)、『ママをやめてもいいですか!?』(2020年)、『こどもかいぎ』(2022年)など。著書に、『うまれる かけがえのないあなたに』(PHP研究所)、小説『オネエ産婦人科』(サンマーク出版)などがある。
多発する自然災害や混迷の度合いを深める国際情勢。先行きが不透明で、正解のない時代といわれる今、人とのつながりや対話が一層重要になってきています。今回は、子どもたちが対話する様子を撮ったドキュメンタリー映画『こどもかいぎ』の監督・豪田トモさんに、SAPIX YOZEMI GROUPの髙宮敏郎共同代表がインタビュー。対話の重要性や、大人が子どもたちに学ぶことの大切さなどについて伺いました。
みずからの子育てをきっかけに
子ども同士の対話に注目
髙宮 豪田さんは、子どもたちがさまざまなテーマについて対話する様子を撮影したドキュメンタリー映画、『こどもかいぎ』の監督でいらっしゃいます。なぜ、この映画を制作されたのですか。
豪田 きっかけとなったのは、わたし自身が子育てをするなかで体験した、ある失敗です。娘が5歳のとき、夕食中にわたしが用事で席を外したすきに、娘の姿が見えなくなりました。幼児期の子どもは、食事中にうろうろしがちです。それで「またか」と思い、ついきつく叱ってしまったのです。
でも、後で事情を聞いてみたら、「パパのズボンをたたんであげていたの。パパは手にケガをしていて、たためないから」とのことでした。パパを喜ばせたいという思いを、わたしは踏みにじってしまったわけですね。もう平謝りです。この体験から「子どもの言うことをきちんと聞かなければならない」と思うようになりました。
たとえ子どもの言動が不可思議に見えても、その背景にある思いを一つひとつしっかりと受け止めたら、そこから何か共通するもの、理由のようなものをつかむことができるのではないか、そうすれば、子育てに対する思いや姿勢も変わってくるのではないかと考え、子どもの対話について調べるようになったのです。
対話というと、なんとなく自然にできるようになるものと思われるかもしれませんが、カナダや北欧では、保育園のころから対話のトレーニングを行います。日本でも同様に、対話に関する教育を実践している保育園はないかと探しました。
髙宮 その結果、「こどもかいぎ」にたどり着いたわけですね。「こどもかいぎ」とは、子どもたちが輪になって自由に話し合うというワークショップで、幼児教育の現場などで注目され始めています。撮影の対象となった保育園は、かなり以前からこの取り組みを行っていたのですか。
豪田 いえ、そうではありません。すでに実践を重ねている保育園もあり、わたしも見学させてもらって「いいな」と思いました。ただ、ドキュメンタリーとして撮影するなら、すでに完成している保育園よりも、まだ実施したことのない保育園が苦労しながら取り組む様子を撮影したほうがよいのではないかと考えました。日本は子どもの対話という面では発展途上国なので、ゼロから始める物語を見るほうが共感しやすいし、参考になると判断したのです。
「かいぎ」=対話で育まれる
自己肯定感や問題解決能力
髙宮 敏郎Takamiya Toshiro
(たかみや としろう)●SAPIX YOZEMI GROUP共同代表(代々木ゼミナール 副理事長)。1997年慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入社。2000年、学校法人髙宮学園代々木ゼミナールに入職。同年9月から米国ペンシルベニア大学に留学して大学経営学を学び、博士(教育学)を取得。2004年12月に帰国後、同学園の財務統括責任者を務め、2009年より現職。SAPIX小学部、SAPIX中学部、Y-SAPIXなどを運営する日本入試センター代表取締役副社長などを兼務。
髙宮 撮影してみて、どうお感じになりましたか。
豪田 とても大きな発見があり、驚きと感動の連続でした。子どもの世界は、わたしたち大人が考えている以上に奥深く、複雑です。子どもたちがこれほどいろいろなことを考え、表現し、対話によってお互いを高め合うことができるとは思ってもいませんでした。
たとえば、保育士があるテーマを投げ掛けたとします。そうすると、子どもはテーマを理解し、自分はどうだろうと考え、それを表現するためにことばを選び、文章化します。そして、その文章化したことばをどのタイミングで言おうかと再び考え、時を見計らって口に出します。それに対して、ほかの子から反論や質問が来たりして、また考えます。ほかの子が話しているのを聞いて、「同じ考えだ」と仲間意識を持ったり、違う意見があることを知って驚いたりもします。いわば多様性に関する理解の始まりが、そこにあるわけです。こうした一連の「行為」は脳にとって大きな刺激になり、幼児教育にもつながるのではないかと感じました。
子ども同士の対話を未就学児だけでなく、小・中・高と続けていったらどうなるでしょうか。たとえば週に1回、「こどもかいぎ」のような対話の機会を設けるとします。高校卒業まで14年間ぐらい続けると、400回くらいになるでしょうか。300回、400回と、自分の考えを話したり、聞いてもらったりする場数を踏んでいくことは、自己肯定感の醸成にもつながります。また、思いを表現する力を伸ばしていくことで、トラブルが起きたときの問題解決能力も育ちます。
「こどもかいぎ」という取り組みは、それだけ大きな教育効果を秘めているのです。これを日本全国の教育現場に広げていくことは、わたしの使命ではないかと考えるようになりました。
髙宮 対話は学びの基本ともいわれています。対話の大切さを、わたしたち大人はもっとよく理解する必要がありますね。
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