子育てインタビュー
「はやぶさ2」プロジェクトに学ぶチャレンジ精神の大切さ
困難なミッションを遂行するためには
「失敗を許容」することも必要
津田 雄一さんTsuda Yuichi
(つだ ゆういち)●宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所教授、はやぶさ2プロジェクトマネージャ。1975年生まれ。東京大学工学部航空宇宙工学科卒業、同大学院航空宇宙工学専攻博士課程終了、工学博士。専門は宇宙工学、航空宇宙力学、太陽系探査。2015年、史上最年少でプロジェクトマネージャ(「はやぶさ2」プロジェクト)に就任。総合研究大学院物理科学研究科宇宙科学専攻准教授。著書に「はやぶさ2最強ミッションの真実」(NHK出版新書)など。
小惑星リュウグウで採取したサンプルを地球に届け、大きな話題を呼んだ「はやぶさ2」。なぜ、「はやぶさ2」は困難なミッションを遂行できたのでしょうか─。今回は、そのプロジェクトマネージャを務める宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所・教授の津田雄一先生に登場していただき、リーダーに求められる条件や、「協働力」「問題解決力」「チャレンジ精神」を養うことの大切さなどについて伺いました。
星のかけらを地球に持ち帰り
今も宇宙を飛び続ける「はやぶさ2」
広野 津田先生は宇宙航空研究開発機構(JAXA)で、小惑星探査機「はやぶさ2」のプロジェクトマネージャとして活躍されています。まずは、JAXAとはどのようなところなのか、ご説明いただけますか。
津田 JAXAは、政府全体の宇宙開発利用を技術で支える中核的実施機関として位置付けられ、人工衛星・探査機での貢献や宇宙環境の利用など、同分野の基礎研究から開発・利用に至るまでを一貫して行っています。わたし自身は宇宙工学の研究者として、太陽系の惑星や小惑星を調べる無人探査機を開発・運用する仕事をしています。
広野 その一つが「はやぶさ2」のプロジェクトですね。
津田 「はやぶさ2」のミッションは、太陽系に約100万個ある小惑星の一つであるリュウグウまで行って、その星のかけらを地球に持ち帰ることでした。地球の重力圏外にある天体まで行って、そこの物質を持ち帰ったのは「はやぶさ」が世界初で、「はやぶさ2」はその後継機です。それまでの探査機は、星の表面を撮影して、その画像データを電波で送るだけでした。しかし、実際に物質を持ち帰れば、電子顕微鏡などの高度な分析装置にかけることができます。実物を分析すれば大きな発見につながる可能性が高く、チーム全体で非常に意義のあるミッションを成し遂げたと考えています。
また、無人の宇宙探査機が月より遠い天体に着陸したのちに再び上昇し、地球に帰って来ること自体も、「はやぶさ」「はやぶさ2」だけが成し得たことです。宇宙空間を往復する探査機というと、子どものころに思い描いた「宇宙船」に近いイメージがあります。わたしはエンジニアなので、そうした宇宙船に近いものを開発・製作する楽しさを感じながら、ミッションに取り組んでいました。
広野 目的地にリュウグウが選ばれたのはなぜですか。
津田 小惑星リュウグウには炭素や水など、生命の起源にかかわる物質があると推定されていたからです。「はやぶさ2」は、リュウグウの表面だけでなく、地下物質の採取にも成功し、物質を回収したカプセルを地球に投下することができました。今は次のミッションを遂行するために、別の小惑星に向かって飛行を続けています。
世界初のミッションを果たすために
約600人のスペシャリストが協力
サピックス小学部
教育情報センター 本部長
広野 雅明
広野 リュウグウでのサンプル回収というミッションを支えたプロジェクトチームは、どのようなメンバーで構成されていたのでしょうか。
津田 わたしが直接やりとりできる範囲だけでも600人ぐらいいました。そのうち、約半分が科学者で、残りの半分は技術者です。当然、すべてがJAXAの職員というわけではありません。科学者の大半が大学の先生や海外の研究者ですし、技術者も半分以上は企業の方々です。いろいろな背景を持つ人が一つの目標を共有し、仕事をしていたのです。
広野 メンバーには、どのような役割がありましたか。
津田 まず、探査機を開発・製作する人と、それを運用する人がいます。そして、科学分野の人たちは、リュウグウをどんな方法で調べるのかということを、開発時はもちろん、リュウグウ到着後も送られてきたデータを見ながら探っていました。また、星の物質を持ち帰るには、地学や隕石の研究者の協力も必要です。生命の起源に迫るため、多数の生命科学分野の科学者にもかかわっていただきました。
広野 最も印象に残っている出来事は何でしょうか。
津田 リュウグウでの着陸に成功したことです。リュウグウに接近してみると、表面は大きな岩だらけの非常に険しい天体で、予定していた方法ではとても着陸できないことがわかりました。チーム全体が一度は挫折しかけましたが、メンバーの力を合わせて、死に物狂いで着陸作戦を一から練り直しました。その結果、予定から4か月遅れの2019年2月に着陸させることができました。その瞬間は本当にうれしかったですね。
広野 小惑星の地形がどうなっているのか、近づかないとわからないところに難しさがあったのでしょうね。
津田 まさに、そこが探査のポイントであり、醍醐味でもあります。人類が行ったことのない場所に向かうからには、さまざまな予測をしたうえで計画を立てます。科学者のなかには、「予測を超えた地形であることがおもしろい」という人もいましたが、エンジニアとしてはたまったものではありません。せっかく苦労して作って飛ばし、現地に到着したのに、「なんて意地悪な天体なのだろう」と思いました。でも、厳しい環境のなかで技術力とチームワークを発揮して難局を乗り越えたことで、チームとしてより成長できたと思います。
小惑星リュウグウへの着陸にチャレンジする、「はやぶさ2」(イメージ図)イラスト:池下章裕
2014年12月 | 「はやぶさ2」打ち上げ |
2018年 | 6月小惑星リュウグウに到着 |
2019年 | 2月1回目の着陸に成功 |
4月 | 人工クレーターの生成に成功 |
7月 | 2回目の着陸に成功 |
2020年12月 | 地球にサンプルを投下 |
2022年 | 5月現在小惑星「1998 KY26」に向かって飛行中 |
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