受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

国立科学博物館の女性研究者がアドバイス

「好き」を貫き通すために
目の前の課題に楽しみながら挑戦を

木村 由莉さんKimura Yuri

(きむら ゆり)国立科学博物館地学研究部研究主幹。早稲田大学教育学部卒。米国サザンメソジスト大学地球科学科で博士号取得。2015年から現職。専門は陸上の哺乳類化石で、特にネズミやリスなどの齧歯類(げっしるい)の進化と生態を研究している。著書に『もがいて、もがいて、古生物学者!!〜みんなが恐竜博士になれるわけじゃないから』『化石の復元、承ります。』(ともにブックマン社)、『恐竜がもっと好きになる化石の話』(岩波書店)など。

 幼いころの「恐竜博士になりたい」という夢を追い求め、哺乳類古生物学の最前線で活躍している女性研究者がいます。今回は、国立科学博物館地学研究部生命進化史研究グループ・研究主幹の木村由莉先生にインタビュー。恐竜大好き少女はいかにして古生物学の研究者となり、国立科学博物館でどのような活動を行っているのでしょうか──。中高・大学時代の思い出や現在の研究内容などについて語っていただきました。

哺乳類の化石研究だけでなく
展示の企画や標本管理にも携わる

広野 木村先生は哺乳類古生物学を専門として、国立科学博物館、通称「科博」で哺乳類の化石を研究されています。具体的な活動内容について教えてください。

木村 古生物学とは、化石を研究して絶滅した動物の姿や生態、進化の過程などを明らかにする学問です。わたしの場合、哺乳類が何を食べていたのか、その食べ物の変化を通じて過去の環境がどう変わったのかを、世界のいろいろな地域の化石で調べています。

 また、博物館の研究者には、ほかにも大切な仕事があります。博物館の役割には三つの柱があり、研究以外に展示と教育、そして標本の管理があります。科博の研究者はこれらすべてに関与しているのです。

 たとえば、わたしが携わった展示としては、2022年の夏に開催した『化石ハンター展』があります。地層の中に眠っている化石を探す「化石ハンター」の活動や成果を紹介するもので、研究のための材料としての化石がどうやって発掘されたのか、その化石によって何が判明したのかが理解できる展示をめざしました。

 標本の管理では、陸上の哺乳類を担当して、化石標本を博物館のデータベースに登録しています。

広野 化石を通じて哺乳類の生活環境の変化を探っているとのことですが、もう少し詳しく説明してください。

木村 研究対象は小動物なのですが、同じ化石産地からは類人猿のものも見つかっていて、小動物が暮らしていた環境を復元することで、類人猿がどんな環境で生きてきたのかを調べることに挑戦しています。現在、地球上にいる大型類人猿はゴリラ、オランウータン、チンパンジーぐらいですが、今から約2000万年前の中新世という時代には、もっとたくさんの種類の類人猿がいました。ヒトの進化を探るうえで、かつて類人猿がどんな環境で暮らしていたのかは、とても興味深い研究テーマなのです。そこで、海外の研究者と共に、かつては類人猿が7種いたけれども比較的短期間で滅びてしまったスペイン地域と、1種類の類人猿が長く栄えていたパキスタン地域とに着目して、両地域の中新世の化石を比較することに取り組んでいます。

広野 調べる化石は、ご自身で発掘されるのですか。

木村 スペインの化石は、プロジェクトのメンバーと一緒に発掘しています。日本では化石は山奥の川の浸食面などで見つかりますが、わたしたちは地層が水平に重なっているバルセロナ近郊のワイン畑の一角で掘っています。一方、パキスタンの化石は、1970~1990年代にアメリカのチームが発掘し、アメリカに保管されている標本を使っています。

恐竜展や映画をきっかけに
古生物学者にあこがれる


サピックス教育事業本部
本部長
広野 雅明

広野 そもそも、どのような経緯で古生物学を志されたのでしょうか。

木村 子どものころから恐竜が大好きで、「こんなかっこいい生き物が、自分が生きている地球に存在していたんだ」と考えると、わくわくとした気持ちになりました。特に記憶に残っているのが、幕張メッセで開催された『大恐竜博'90』です。恐竜の全身骨格や実物大の模型に感動しましたが、ほかにも鮮烈に覚えていることが二つあります。一つは、来場者に配られた1億年前の石です。1億年というと、数字にするとゼロが8つも並びます。かたや、当時の自分の年齢は1桁台です。そんな長い歴史を持つ石が自分の手の中にあることに、どきどきしました。もう一つは、岩から化石を取り出す様子を見学できたことです。作業している人たちを見て、「こんな楽しそうな仕事があるんだ!」と、化石にかかわる仕事に興味を持ちました。

 化石を調べる研究者のイメージをさらに具体的にしてくれたのが、小学校5年生のときに出合った映画『ジュラシック・パーク』です。そのなかで、女性の古生物学者がトリケラトプスのフンの中に手を差し入れ、食べたものを調べるシーンがあります。それを見て、「こんな研究者になりたい」という思いが膨らんでいきました。

広野 多くの子どもがあこがれながら、簡単にはなれないのが研究者です。幼いころからの夢をかなえるために、中高時代に心がけていたことはありますか。

木村 まずは、勉強をがんばりました。古生物について学べる大学は限られていて、難関大学をめざさなければならないであろうことが感覚的にわかっていたからです。わたしは、自分のやりたい勉強に成績や順位などを気にせず打ち込みたかったので、高校は伸び伸びとした校風の日本女子大学附属高等学校を選びました。この選択は正解で、受験のためというよりも、『ジュラシック・パーク』の世界に近づくために必要な英語をはじめ、生物の基礎やデータの解析などを自分のペースで学ぶことができ、毎日が楽しかったですね。教科書を読み進めながら、わからないことを図書館や博物館で調べて解決していくことに、まるでRPG(ロールプレイングゲーム)のミッションを一つひとつクリアしていくようなおもしろさを感じていました。

広野 今でこそ、福井県立大学に恐竜学部が新設されようとしていますが、当時は古生物について学べる大学そのものが少なかったと思います。大学はどうやって探したのですか。

木村 今のようにインターネットで調べることができない時代でした。そこで、科博の古生物学研究者で、現在は名誉研究員の冨田幸光先生に手紙を出したところ、相談に乗っていただけることになりました。その際にわかったのは、当時の日本には骨の化石について学べる大学はなく、限られてはいるもののアンモナイトや海洋プランクトンの研究をしている大学なら、自宅から通えるところに4校ある、ということでした。そのなかから選んだのが早稲田大学教育学部の理学科地球科学専修です。そこのアンモナイト研究者の平野弘道先生に指導を受けたらどうかと、冨田先生が勧めてくださったのです。

 当時は9割以上の同級生が日本女子大学への進学を選ぶなか、予備校に通いながら受験勉強を進めました。実は、わたしは数学が苦手で、理系の受験に不安がありました。ただ、早稲田大学教育学部は理系学科であっても英語が難しく、得意な英語で差をつけられます。「英語がこの成績なら可能性はある」と予備校でアドバイスを受け、がんばり切ることができました。

『もがいて、もがいて、古生物学者!!
〜みんなが恐竜博士になれるわけじゃないから

木村由莉 著
ブックマン社 刊
1,870円(税込)

 恐竜が大好きな女の子は、映画『ジュラシック・パーク』の世界と伝説の恐竜ハンター、ロイ・チャップマン・アンドリュースにあこがれて、「恐竜博士」になろうと決意。しかし、その道は険しく、さまざまな困難に見舞われます。木村由莉先生が哺乳類の化石の研究者として世に出るまでの七転び八起きの奮闘を、生き生きとした筆致で振り返ります。

『きょうりゅうたちのあしもとで』
木村由莉 監修
ツク之助 作・絵
誠文堂新光社 刊
1,540円(税込)

 白亜紀を恐竜とともに生きた小型哺乳類にスポットライトを当てた絵本です。シッポネズミの家族と一緒に恐竜の森を大冒険! トリケラトプスの頭によじ登ったり、エドモントサウルスの背中に乗って川を渡ったり、ティラノサウルスにちょっかいを出したり…。ページのすみずみまで恐竜や動植物がいっぱいに描かれていて、親子で楽しめます。

24年8月号 子育てインタビュー:
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