受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

挑戦するキミへ

Vol.12

「反抗期」は、すなわち「自己主張期」
子育てが成功していることのサイン

 子どもの口数が急に少なくなった。態度がそっけなくなった。そう感じるようになったら、それは、反抗期の始まりかもしれません。反抗期は成長に必要なプロセスですが、わかっていても、子どもの急な変化に戸惑う保護者の方も少なくありません。小学校高学年から中学生にかけて始まる反抗期。保護者は、どう対応したらよいのでしょうか。すでに反抗期が始まっているお子さんのいるご家庭にも、これから迎えるご家庭にも、困難な時期を乗り切る秘訣を柳沢先生がアドバイスします。

文責=柳沢 幸雄

人生に2度訪れる「反抗期」
根底にあるのは子ども自身の戸惑い

柳沢 幸雄

やなぎさわ ゆきお●北鎌倉女子学園学園長。東京大学名誉教授。1947年生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。ハーバード大学大学院准教授・併任教授などを経て、2011年4月から2020年3月まで開成中学校・高等学校校長を務める。2020年4月から現職。

 人間が成長する過程では、反抗期が2度訪れます。最初が、2歳前後の「イヤイヤ期」。そして、2回目が、小学校高学年から中学生くらいの時期に訪れる、10代の反抗期です。

 二つの反抗期に共通するのは、成長のフェーズが大きく移行する時期に起きるということ。そして、根源にあるのは、それに伴う「子ども自身の戸惑い」だということです。

 たとえば、2歳くらいの子どもというのは、それまでのハイハイやヨチヨチ歩きから卒業し、思ったところに自由に歩行移動できるようになります。離乳が進み、歯も生え、食べられるものも増えてきます。そうやって成長段階が一つ上がり、「あれもしたい」「これもしたい」と、欲求の幅はぐんと広がります。しかし、まだ上手に話すことができません。知っている単語もわずかです。そのため、自分の要求を周りの大人にうまく伝えることができません。大人もいつもわかってくれるわけではありません。そんないらだちが高じて、「イヤイヤ」を頻発するようになるわけです。

 10代の反抗期も同じです。この時期、子どもたちはちょうど、第二次性徴を迎えます。自分の意思とは関係なく訪れる心身の変化に対し、子どもたちは抱いている不安や戸惑いをうまくことばで表現することができません。特に男の子は、この時期に起こるさまざまな身体の変化について学校で教えてくれるわけではないので、不安が募ります。もちろん恥ずかしさもあります。ただでさえ、劇的な変化に気持ちがついていかないなかで、その感情を外に発信することができず、いらいらばかりが募るのです。

 2歳児の場合も、10代の場合も、目の前に差し出されたもの、あるいは自分自身の在り方が、自分の求めているものと「違う」ということだけはわかります。わかるけれど、それをうまく表現するすべがない。こうなると、あの手この手で「いやだ」と拒絶するしかありません。それが、反抗期なのです。

反抗期は自立への準備期間
悲観的にならず、理解を示そう

 子どもの反抗期をポジティブにとらえると、「自己主張期」といえます。方法は何であれ、「いやだ」と表明することは、立派な自己主張だからです。それまで、“おんぶにだっこ”だった親から距離を置き、親と別人格の人間として生きていくうえで、非常に大切な時間です。

 子どもによっては、思春期特有のいらいらから、「うるせえ」「くそばばあ」などと、乱暴なことばで親に反抗するケースも見られます。そうした言動に頭を抱える保護者も多いのですが、そこは、大人の度量が試されるとき。何か文句を言われても、「今までよく育ててくれました。もうすぐわたしも一人前になります」という子どもからのサインだと受け取りましょう。子どもが離れつつあるということは、子育てが実を結び、自立に近づいていることの表れ。「わたしたちの子育ては間違っていなかったのだ」と受け止め、けっして子どもの言動に否定的・悲観的にならないことが肝要です。

 反抗期を迎えた子どもたちが嫌がるのは、「大人が無理に話を聞き出そうとする」ことです。子どもからすれば、大人の問いに答えようがないので反抗しているわけですから、「知らねえよ」と突っぱねられるのが関の山です。しかし、子どものほうから何か話し始めたら、たとえ何かしていても、その手を止めて、顔を見て、しっかり話を聞いてあげてください。子どもから話し始めるということは、「自分を理解してほしい」というメッセージだからです。

 ただ、思春期に抱えるさまざまな悩みは、親だけでは対処できないのも事実。そこで大事なのが、学校の人間関係です。クラスの友だちに相談し、実は同じ悩みを抱えているのだと聞くと、安心するものです。先輩の体験談も“救い”になるでしょう。その意味では、中学校選びにおいても、行けるかぎりの難関校をめざすのではなく、子どもが心穏やかに安心して過ごせる環境かどうか、気の合う友人や先輩と多く出会えそうな学校かどうかを基準に、志望校を選ぶことが大切です。

反抗期が終わるとき、
新たな親子関係が始まる

 反抗期は、誰にでも訪れる成長のプロセスです。しかるべき時期が来れば、つまり、成長とともに自分の感情を表現するすべを獲得すれば、その“乱気流”も自然と収まります。そして、反抗期から脱け出し、ソフトランディングできたとき、親子関係は新しいステージに入るのです。

 子どもが生まれて、社会人になるまでの時間は、親が子どもの世話をします。ところが、そこから40年、50年たつと、今度は親が子どもに世話をされる側に。親子関係の最初と最後は、どちらかがどちらかの世話をしていることになります。そう考えると、その間の、「親と子が大人同士、対等に付き合える時間」が、いかに貴重で尊いものかおわかりいただけるのではないでしょうか。

 大人になった子どもと、一緒に酒を飲んだり、おいしいものを食べたりする時間は、とても幸せなものです。人生の「収穫」の時期といっても過言ではないでしょう。そう考えると、子どもはできるだけ早く自立させ、自分たちはなるべく要介護状態にならないよう努力する。子育てにまつわる、さまざまな悩みや苦労は、この幸せな時間を迎えるための試練だととらえ、上手に乗り切ってほしいと思います。

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