受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

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 受験の学習が本格化する高学年になる前に、お子さんに「学びの楽しさや興味を広げるきっかけになるような体験をさせたい」と考える保護者の方も多いのではないでしょうか。低学年のうちに、どのような体験を積み重ねるとよいのか、松戸校校舎責任者にお聞きしました。

第170回「低学年のうちにできる
社会科の体験は?」
回答者/松戸校校舎責任者

イメージしにくい時代や地形も
体験すると理解が深まる

 社会科の勉強は、自分の身の回りのことに興味を持つところからスタートし、さらには、自分が知らない時代や場所などについても学んでいくことになります。その際に、たとえば「3万年以上前の時代の生活を考えてみよう」と言われても、すぐに想像できるお子さんは少ないでしょう。このようなイメージしにくい時代や場所に興味を持つきっかけとなるのが、さまざまな体験です。具体的な体験があるほど、理解は深まっていくので、ぜひ低学年のうちに意識していただけたらと思います。
 歴史の分野では、その時代の人々の暮らしが想像できるような博物館や民俗資料館に足を運ぶのもよいでしょう。また、本を読むといった追体験も役立ちます。室町時代や江戸時代の手工業の話をするときに、例として「笠地蔵」や「鶴の恩返し」の話を紹介することがありますが、昔話を聞いたことがないお子さんにとっては、家で手作業によってものを作り、町に売りに行くという当時の生活は、思い浮かべにくいものです。昔の人の暮らしや日本の伝統的な文化・行事がわかるような本を読んでおくのもお勧めです。
 地理の分野では、実際に地形を見に行くことが、とても有意義な体験となります。たとえば、三陸海岸を目の当たりにすれば、「リアス海岸って本当にギザギザしているのだな」とわかると思いますし、紀伊半島をぐるっと移動すれば、日本一大きな半島のスケールが実感できるでしょう。過去の入試では、「道路はどんな場所に作られますか」と、具体的に地形図を見ながら答える問題が出題されたことがありました。「尾根伝いに作られる」というのが答えでしたが、「尾根」を見たことがあるお子さんと、見たことがないお子さんとでは、理解度が違ってくるのではないかと思います。
 また、出掛けた土地の民家に注目すると、寒い地域では雪が積もりにくい造りになっているなど、ほかの地域との違いに気がつくでしょう。お土産売り場に行けば、その土地の特産品もよくわかります。このように、旅行は社会科にとって学びの宝庫です。ぜひ保護者の方がサポートしながら、お子さん主導で旅行先を決めてみてください。「あそこに行ってみたい」「これをやってみたい」という気持ちが、学びにもつながっていきます。しかし、これらの体験はけっして遠くに行かなければできないわけではありません。3年生になると、各都道府県の勉強をするので、そのタイミングでアンテナショップに足を運んでみるのもよいと思います。

体験を積み重ねていくことで
「じっくり考える力」を養う

 農業も社会科の勉強と密接にかかわっています。農業体験をしたことがあるお子さんに、「害虫よけに使う『マルチ』という黒いカバーは石油でできているんだよ」と話すと、「石油の価格が高騰すると、農業は大変になるね」と、お子さんの頭のなかでさまざまな情報がつながり、理解が深まっていきます。経験しているからこそ、想像しやすくなるとはこのことです。
 こうしてさまざまな体験を積み重ねていくと、これまでに得た情報と比較をしたり、「なぜそうなっているのか」という理由を自然と考えたりできるようになっていきます。これはまさに入試問題を解くうえで大切な力でもあります。最近の社会科の入試では、その場でじっくりと考えさせるような問題が多く出題されており、いくつかの資料を見て比較をしたり、時が経ってどういう変化があるのかを読み取ったりすることもあるからです。たとえば、旅行をするたびに、各地の民俗資料館に出掛け、その町がどのように発展していったのかを見比べていくと、地域によって背景が違うことがわかってくるでしょう。
 複数の情報をもとに物事を考えられる力を養うために、体験はとても重要なものです。ご家族で何かを体験したときには、「おもしろいものはあった?」などと声掛けをしながら、お子さんの好奇心を引き出してあげてください。ぜひ低学年のうちに、一つでも多くの体験をしていただけたらと思います。

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